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第1部 本
地質・地理・気象・地球環境
地球をハックして気候危機を解決しよう(コスティゲン)
『地球をハックして気候危機を解決しよう: 人類が生き残るためのイノベーション』2022/10/20
トーマス・コスティゲン (著), 穴水由紀子 (翻訳)
(感想)
温暖化対策は、もう待ったなしの状況。にもかかわらず温室効果ガスの排出削減のスピードは遅く、目標達成は困難との観測が高まっています……もはや従来のようなエコ活動や削減取り組みだけでは間に合いません。地球をハックして治療すべき! そんな危機感で、気候危機の解決策となるイノベーションを求めて世界各地を駆け巡った成果を紹介してくれる本で、内容は次の通りです。
はじめに: もはや解決策はほかにない
PART[1] 空と宇宙
第1章: 雨をレーザー技術で降らせる
第2章: 超小型宇宙機の雲が太陽光を遮る
第3章: 炭素を捕らえる人工の木
第4章: 砂漠の太陽エネルギーを世界へ
第5章: クール・ルーフとクール・ロード
PART[2]大地と海洋
第6章: 土壌をよみがえらせる方法
第7章: 海を冷ますアルベド・ヨット
第8章: 海の健康を取り戻す
第9章: 海面上昇から守られる街へ
第10章: 涼しく快適な地下に暮らす
第11章: 氷河の融解を食い止める
PART[3]天然資源と未来都市
第12章: トイレから蛇口へ
第13章: 持続可能な都市の実験場
おわりに: 地球の病気を治すワクチン
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「はじめに: もはや解決策はほかにない」には、次のように書いてありました。
「(前略)もし現在のペースが続けば、今世紀半ばには地球の温度はおよそ3度上昇する。その結果、もたらされるのは、より極端な気象、さらなる海面上昇、低地からの大量移住、そして世界的な食料供給の危機だ。」
「ジオエンジニアリング(気候工学)とは、「地球温暖化の影響を打ち消すために、地球の気候に影響をおよぼす環境プロセスを意図的かつ大規模に操作すること」だと定義される。もし自然の猛威を相手に回して勝ち目があるとするなら、この闘い方が必要となる。」
ここで紹介されるテクノロジーには、驚くほど革新的なアイデアがいっぱい。まだ研究開発中のものも多いようですが、一部はすでに実施段階に来ているものもあります。
例えば「第1章: 雨をレーザー技術で降らせる」では、10億分の1秒のバーストで途方もなく強力なエネルギーを作り出すレーザーが、上空ですでに発生している稲妻の向きを変えて、飛行機などの危険なポイントへの落雷を避けさせたり、雲の中の水分子を配置し直すことで降水をコントロールしたりできるという技術が紹介されていました。
また驚かされたのが、「第2章: 超小型宇宙機の雲が太陽光を遮る」。次のような技術が紹介されていました。
・公転する地球と一緒に動く、鏡のついた日よけ(宇宙パラソル)が、地球を冷やす。
・宇宙空間で水素爆弾を爆発させて地球を揺さぶり、太陽から遠ざけることで地球を冷やす。
・スイングバイで地球を太陽から遠ざける。
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スイングバイは天体の重力を利用して小物体(ロケット)を加速する方法ですが、この時、天体もエネルギーを奪われて少しだけ軌道が外れるそうです。ただしこの方法には、地球と月との間に重大な問題を生じさせるという懸念があります。
また宇宙パラソルも、地球の気象などに予測できない重大な影響を及ぼす可能性があり、現在はその発案者自身も、太陽エネルギーを化石燃料より安くするという現実的な方向へ転換しているそうです。
これらのアイデアはかなり乱暴で危険な方法のように感じましたが……宇宙を使って地球の問題を解決するという壮大さには、本当に驚かされました。
この他にも、いろいろなアイデアがありました。そのごく一部を紹介すると、次のような感じ。
・砂漠にソーラーパネルを設置して太陽エネルギー発電所を造る
・海洋温度差発電
・波力発電
・クール・ルーフとクール・ロード(屋根や道を塗り直して反射率を上げ、温度を下げる)
・スモッグを減らす屋根(スモッグ低減顆粒を屋根板に混ぜると、危険な汚染物質がイオンに変わり、大気の質を向上させることができる)
・海を冷ますアルベド・ヨット(洋上の雲で海を冷やす)
・たんぱく源にもなる海藻(ケルプ)を増やして炭素を貯蔵させる
・成層圏にエアロゾルを噴霧して日光の向きを変える(太陽放射管理)
・海のゴミをエネルギーに変える一石二鳥の計画(海水の汚水をアンモニアへと分解し、それからロケット燃料を作る)
・水面に浮かぶ都市
・地下都市
・海中都市 などなど。
……どれも気候危機への解決策として希望を抱かせられるものですが、大規模なものほど、地球全体への悪影響が心配になってしまいます。気象自体が予測困難な複雑系だし、地域・国境をまたがる自然環境の改変は、政治的な紛争を巻き起こしかねないからです。
とは言っても、すでに温暖化は気象の激甚化を引き起こしているようですし、今後はリスクを考慮(覚悟)した上で何らかの大規模な対策を行う必要があるのかもしれません。そのために何ができるのかを考え、実験しておくことは重要なのだと思います。
そして「第13章: 持続可能な都市の実験場」では、アブダビ首長国政府運営のマスダールで行われている都市計画が紹介されていて、これはかなり有望なものに感じました。マスダールは、「人間が自然に加えてきた危害を和らげ、太陽エネルギーを徹底的に活用するために特別に開発された、世界で唯一の都市」で、この都市計画は、日陰や水などの伝統的な方法を、最先端の革新的テクノロジーと融合させているのです。
「地球をハックして気候危機を解決」するための方法を紹介してくれる本でした。
温暖化に対処するために、「再生可能エネルギーを積極的に取り入れ、化石燃料の使用を減らし、もっとシンプルにもっと効率的に暮らす」ことはもちろんですが、それ以外に出来ることが何かないか考える上で、とても参考になると思います。ぜひ読んでみてください。
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