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第1部 本

社会

地図とデータで見る森林の世界ハンドブック(ブーリエ)

『地図とデータで見る森林の世界ハンドブック』2023/3/22
ジョエル・ブーリエ、ローラン・シモン (著), 蔵持 不三也 (翻訳)


(感想)
 森林の歴史、伐採など破壊が引き起こす地球温暖化、動物や植物など生態系への影響、人の減少による森林放置の実態、再植林による森林の復活など、さまざまな課題と保護をとりあげて、100点以上の地図・グラフ・表も使って解説してくれる本で、内容は次の通りです。
はじめに
■定義と分布──現況
■木材資源としての森林
■さまざまな森林サービス
■おびやかされる森林
■さまざまな紛争に直面する森林
 おわりに
 付録
 用語解説
 参考文献

「定義と分布──現況」では、実は「森林」についての定義が明確ではないということに驚かされました。次のように書いてあります。
「2005年、FAO(国連食料農業機関)は、森林にかんしてはじめて国際的な定義を発表している。「5m以上の高さと10%以上の樹冠被覆率(上空から見て樹冠が占める割合)を持つ樹木、あるいはその場所でこれらの閾値に達することのできる樹木のある、面積0.5ha以上の土地。主として農業あるいは都市的利用のもとにある土地はふくまれない」とする定義である。
 だが、FAOの努力にもかかわらず、森林の定義に使われる指標の閾値は国によって大きく異なったまま(後略)」
 ……2005年に「定義」が発表はされていますが、必ずしも受け入れられてはいない状況のようです。……そうだったんだ……。
 そんな「森林は多様な顔」を持っています。次のようにも書いてありました。
「何千もの種が豊富に生息する熱帯の「原生林」地域と単一種の針葉林地では、社会に対する役割が異なっている。前者が多くの生態学的サービス(生物多様性、土壌の豊かさ、水循環など)と生態社会的サービス(食料、狩猟、観光など)を提供しているのに対し、後者はおもに経済(木材生産)、さらに多少とも生態学とかかわる(炭素を隔離するが、生態学的にはコモディティ化)。それゆえ、森林という概念は、生物多様性に関心をもつ生態学者、生産と外からの評価と生態系サービスの両立をめざす森林管理者、森林資源と迅速な生産を求める産業界、さらに見事な景観を求めるロマンティックな詩人たちにとって同じではない。」
 そして「森は多様な機能」も果たしています。「さまざまな森林サービス」には、次のようなことが書いてありました。
・「地球レベルでいえば、森林の蒸散機能は、大洋の次に大量の水蒸気を発散する熱帯雨林によって特徴づけられる。熱帯地域では、雨水の半分が植物によって大気中を再循環する。」
・「森林は雨水を保持し、徐々にこれを再分配することで、河川の流量変動やとくに増水のペースを減衰させるのに役立っている。森林はまた土壌を安定させ、土砂の運搬量を減らすのにも寄与している。(中略)
 沖積(層)林は、生物地球化学的な循環において重要な役割を担っている。堆積物やそれが運ぶさまざまな成分の一部を隔離ないし閉じ込めることで、水をろ過しているのである。(中略)これらの拡散性汚染物質は、土壌(微生物による脱窒)や植物(根による吸収)によってリサイクル(分解)され、それによって水質の汚染を防ぐことができる。」
 そしてこの章では、森林と私たちの生活を両立させる方法として、「アグロフォレストリー」が、次のように紹介されていました。
・「(前略)一部の社会は森林を保全しながら、その生物多様性を高めることができている。たとえば、アグロフォレストリーがそれである。」
・「同一農地内で樹木を育て、耕作と牧畜をおこなうことは、農業=牧畜、農業=林業、農業=園芸へと方向転換するようになっている。」
・「森林の開発から得られる富は、木材資源からだけではない。アグロフォレストリーは農作物や果物、飼料、落ち葉、藁など(これら非木材林産物(NTFP)としては、ほかに狩猟や毛皮用に捕獲される動物や魚類、種子、スパイス、キノコ、葉(飼料)、薬用植物などがある)、サービスや収入(助成金をふくむ)をもたらしてくれる。」
 ……アグロフォレストリー、なんか良い方法のようですね!
 森林というと、どうしても地球温暖化と関連して考えてしまい、快適な地球環境を守っていくために、なんとしても保全していかなければならないもののように感じていますが、「おびやかされる森林」の章では、地球温暖化の影響なのか「巨大火災が増えている」ことが書いてありました。「(前略)カリフォルニアでなされたさまざまな調査、研究は、1870年代以降、大気の相対湿度の低下と火災の規模が関連していることが明確にしている。」そうです。
 ここでは、「森林を移動させる」ことが検討されてきたことも書いてありました。
「森林樹種の潜在的な生育域が変化する状況に対して、1980年代なかば以降、その移動を支援することが解決策のひとつとして検討されてきた。樹種の移動能力を考慮して、それが急激すぎる気候変動に対処できるよう「支援」するのである。」
 ……地球が急激に温暖化すると、気温の上昇に耐えられなくなった樹木が枯れてしまう可能性もあるので、新しい場所へ種苗(または樹木群の移動)を行うことが必要になるのかもしれません。
『地図とデータで見る森林の世界ハンドブック』……森林の世界を地図やグラフで見せてくれる本でした。(著者の方がフランス人(?)だからなのか、「フランス」や「ヨーロッパ」に関する話が多めですが……)
 森林の定義、産業としての森林(資源)、サービスとしての資源、森林に迫る脅威や紛争について、総合的に知ることが出来ました。とても参考になるので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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