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第1部 本
歴史
川と人類の文明史(スミス)
『川と人類の文明史』2023/2/22
ローレンス・C・スミス (著), 藤崎 百合 (翻訳)
(感想)
人類の暮らしを規定してきた河川の歴史と現在(将来予測)を浮き彫りにしてくれる本です。
ナイル川の氾濫のおかげで植物栽培・家畜・文明が興った古代エジプトには、ナイロメーター(水位計)という装置があり、その洪水最高水位を見ると、その年の穀物生産量が前もって分かるので、それに応じて税金額が決定されていたそうです。
また最古の法律文書と言われるハンムラビ法典(紀元前2100年頃)には、水の責任ある管理、個人賠償責任、財産権などについての判例が、はっきり定められていたのだとか……。
農業には川だけでなく頻繁な洪水の治水と灌漑も必要なので、最古の都市はチグリス川とユーフラテス川(現在のバグダットの南)に挟まれた平原で生まれたそうです。
……こんな感じで、河川が古代から私たちの生活に欠かせないものだった歴史をいろいろ学ぶことができました。
そして大きな川は、国境を設定するのにも役立っています。次のように書いてありました。
「世界地図をよく見ると、今日の多くの国が、河川とその地形的な分水界を使って国土の境界を定めていることがわかる。」
「(前略)第一次および第二次世界大戦後のヨーロッパや中東の政治的地理の形成において、特定の河川やその地形的な分水界が大きく影響を及ぼしたのだ。他にも歴史に残るような数多の征服や条約が河川を基準としており、世界の内陸部にある政治的境界線の4分の1近くに、今なおその影響が残っている。」
……でも川は国境を越えて流れることも多く、それを巡った紛争も数多く起きています。
越境河川を共同管理するための高水準の規則「国際河川の水利用に関するヘルシンキ規則」などにより、国際河川の沿岸のすべての流域国が「合理的かつ公平に」河川を利用することは、どの国も基本的に認めてはいるようですが、例えばナイル川の最大の消費国エジプトが、ナイル上流国のエチオピアが「大エチオピア・ルネサンスダム」を建設するという計画に猛反対するなど、紛争の種は絶えることがありません。
戦争では川が戦略上重要な位置を占めることも多く、第二次世界大戦では、多くの橋が奪取または破壊されたり、ダムが破壊されて大量の犠牲者を出したりしたこともありました。
また老朽化したダムが壊れて周辺の町を破壊、多数の犠牲者を出したこともありますし、次のように、工業廃水などで河川が汚されることもあります。
「人間の排泄物や、有毒な産業廃棄物、大規模な取水などによって、世界中の河川が荒廃している。」
「アメリカだけでも、何千もの廃鉱や工業用地、軍事施設、昔の有毒廃棄物処理場によって、いまだに水路や河川、地下水が汚染されている。」
……それでも、環境浄化のための法律の制定などで、河川の環境は改善してきましたし、老朽化したダムの撤去が徐々に行われているだけでなく、巨大ダム建造とは違う、次のような新しい考えも生まれてきているそうです。
1)デザイナーフロー:経済面での目的と環境面での目的をともに達成できるよう、貯水池の放水を最適化するという考え方
2)土砂通過技術:土砂がダムを通り抜けられるように、新しいダムを設計・管理する
3)流れ込み式ダム:貯水池を小さくするか、あるいは完全になくすもの(タービンに水をただ通過させるだけ)
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……川の水やエネルギーの利用と、環境(自然)保護が、出来る限り両立できる方法が採用されていくことを願っています。
さて、本書の最終章では、最近の河川研究にはビッグデータが取り入れられてきていることが紹介されていました。
クラウドベースのデジタル画像処理プラットフォーム「グーグルアースエンジン」を使用して、ランドサットの画像の全球アーカイブを解析し、1984~2015年の世界中の河川、湖、湿地の変化を連続的に迫った研究など、さまざまな研究があるそうです。
また新型の表層水観測衛星(SWOT:レーダー干渉法を用いて、世界中の海、川、貯水池、湖の水位や勾配の変化を観測する衛星)にも期待がもてそうですね!
スミスさんは次のように言っています。
「地上の安価なセンサーのネットワークによる観測データとともに、人工衛星から送られる全世界のデータは、やがては人工知能アルゴリズムで処理されて、地球の水循環の乱れを監視できるようになるだろう。センサーと衛星、そしてモデルによって、人類は、世界の水の量とその空間的・時間的変化をリアルタイムで継続的に把握するという不可能を実現しようとしている。」
……このようなビッグデータが、水に関わるさまざまな問題解決や、そのためのモデル作成・予測に役立つことを期待しています☆
川と私たちの関わり合いをじっくり解説してくれる『川と人類の文明史』でした。冒頭には、ナイロメーターのイラストや、国境の川、巨大ダム、融解する氷床、水田漁業、都市再開発プロジェクトなどのフルカラー写真も掲載されています。とても参考になる情報が満載ですので、興味のある方はぜひ読んでみてください☆
(なお本書は400ページ以上の長大な本ですが、本書の最後近くで、スミスさんが「自分の子どもに説明するとしたら」と、2ページ程度の短いまとめ文を書いてくれているので、概要が知りたい方は、それを読んでみてください。)
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