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第1部 本

戦争

超限戦 21世紀の「新しい戦争」(喬良)

『超限戦 21世紀の「新しい戦争」 (角川新書)』2020/1/10
喬良 (著), 王湘穂 (著), 坂井 臣之助 (監修), Liu Ki (翻訳)


(感想)
 戦争の方式は既に大きく変わっている……中国現役軍人(当時)による全く新しい戦略研究書の復刊版(2001年12月に共同通信社より刊行された単行本を内容そのままに角川新書の1冊として復刊したもの)で、内容は次の通りです。
第1部 新戦争論
第一章 いつも先行するのは兵器革命
第二章 戦争の顔がぼやけてしまった
第三章 教典に背く教典
第四章 アメリカ人は象のどこを触ったのか
第2部 新戦法論
第五章 戦争ギャンブルの新たな見方
第六章 勝利の方法を見出す――側面から剣を差す
第七章 すべてはただ一つに帰する――超限の組み合わせ
第八章 必要な原則
   *
「第一章 いつも先行するのは兵器革命」によると、「超限戦」とは、すべての境界と限度を超えた戦争のことだそうです。
「監修者・訳者あとがき」に本書の要点が書いてあったので、それをさらに簡潔にまとめると、以下のような感じでしょうか。
1)グローバル化と技術の総合を特徴とする21世紀の戦争は、すべての境界と限度を超えた戦争で、これを超限戦という。(あらゆる領域が戦場になり、すべての兵器と技術、軍人と非軍人などの境界がなくなる)
2)まったく新しい戦争の形態・非軍事の戦争行動が出現(貿易、金融、新テロ、生態戦争など)
3)貧しい国や非国家的戦争の主体は、自分より強大な敵に立ち向かうとき、非均衡・非対称の戦法(都市ゲリラ、テロ、宗教戦、持久戦、インターネット戦)を採用している
4)テロリストがスーパー兵器(ハイテク)を使うことが最も恐ろしい事態になる
   *
 なお本書は、2011年9月11日のアメリカ同時テロ事件のときに、予測が的中したということで、評価が高まったそうです。
 とても参考になることを、いろいろと知ることが出来ました。そのごく一部を以下に紹介します。
「第一章 いつも先行するのは兵器革命」から……
・「戦争の歴史が始まってから、人間がずっと守り続けてきたのは「兵器に合わせた戦争」だった。」
・「アメリカ人は「戦争に合わせた兵器開発」という構想を打ち出し、兵器と戦法の関係に、戦争の歴史が始まって以来の最大の変革を引き起こした。」
・「このように高価な兵器はアメリカ軍の兵器庫のあちこちに転がっている。F117A爆撃機、F22戦闘機、「コマンチ」戦闘ヘリなど、どれも一億ドル以上あるいはそれに近い価格になっている。費用対効果比がこれほどまで非合理な大量の兵器は、アメリカ軍にますます重い甲冑を着せ、経費がどんどん膨らむハイテク兵器の落とし穴に彼らを引きずり込んでいる。」
・「(前略)人為的に操作された株価の暴落、コンピューターへのウイルスの侵入、敵国の為替レートの異常変動、インテ―ネット上に暴露された敵国首脳のスキャンダルなど、すべて兵器の新概念の列に加えられる。」
・「(前略)技術の進歩は、敵の中枢に直接打撃を加えながら、周囲に災いを及ぼさない手段を備え、勝利の獲得に多くの新たな選択肢を提供した。これによって、勝利を得る最もよい方法はコントロールであり殺傷ではないことに人々は気づくようになった。」
「第二章 戦争の顔がぼやけてしまった」から……
・近代以前の戦争は動機と行動が単純だった。(利益の略奪)
・現代の戦争は、共通利益の旗を揚げつつも各自の異なる利益を追求するゲームに変わった
「第四章 アメリカ人は象のどこを触ったのか」から……
・デジタル化部隊は絶えず変化していく最新技術に適応できなければ何も出来なくなる
・未来の戦争では巨額の費用を使っても、単一の技術に頼りすぎると脆弱なものになってしまう
・「高価な兵器を使い、目標の達成と死者数の減少のためならカネを惜しまない、という大富豪にしかできない戦争が、アメリカ軍の得意技である。」
「第五章 戦争ギャンブルの新たな見方」から……
・「小国はルールを通じて自らの利益を守りたがり、大国はルールをもって他国をコントロールしようと企んでいる。ルールが自国の利益と一致しないとき、大国にしろ小国にしろ、いずれも自らの目的達成のためならルール違反を犯すことも惜しまない。」
・「(国際的テロリストやハッカーたちには、)いかなる国境も存在せず、いかなる領土も意味を失っている。彼らがやりたいことは、ルールのある領域で思う存分破壊し、ルールのないところで勝手にのさばることだけだ。」
・「ルールを無視する敵に対応することで、最良の戦法はただルールを破ることだけである。」
   *
 これまで長い間、国家の安全に脅威を与える主要な要素は、敵国または潜在的な敵の軍事力だと考えられてきましたが、現在、軍事的脅威は、すでに国家の安全に影響を及ぼす主因ではなくなっているそうです。
 領土戦争、民族紛争、宗教衝突、勢力範囲の分割だけでなく、資源強奪、市場争奪、資本の統制、貿易制裁などの経済的要素が絡み合ってきていますし、主体国家の他に、テロリスト、犯罪者集団、麻薬組織、ハッカー、テロリスト的宗教組織、金融投資家など、目的が明確で、意思が強く、偏執狂的性格を持つ精神がアンバランスな者であれば、誰でも軍事的あるいは非軍事的戦争を起こす可能性がある……戦争は「超限戦」へと変わってきているのです。
 それに対応する方法が、「第七章 すべてはただ一つに帰する――超限の組み合わせ」以降に書いてありました。
「「超-限」を主な特徴とする戦法として見た場合、その原理は、問題自体よりも大きな範囲で、より多くの手段を集めて問題を解決することである。例えば、国家の安全が脅威に直面したとき、単純に国家対国家の軍事衝突を選ばす、「超国家的組み合わせ」の方式を運用して危機を解消するのである。」
 なお超国家組織には、EU、ASEAN、OPEC、APRC、世界銀行、WTO、国連などがあり、例えば、イラク問題で、アメリカが国連の大多数の国から支持を引き出したという実例があげられるそうです。
 また「第八章 必要な原則」には、全方向度、リアルタイム性、有限の目標、無限の手段、非均衡、最少の消耗、多次元の協力、全過程のコントロールなどの原則について詳しく解説されていました。
 戦争が「戦場での兵器での戦闘」だけでなく、貿易、金融、新テロ、生態戦争などさまざまな分野で行われるようになり、さらに都市ゲリラ、テロ、宗教戦、持久戦、インターネット戦などさまざまな形態で行われるようになっている……本書の言う「超限戦」は、とても現実的なもののように感じていました。
 ところが2022年2月に始まったロシアによるウクライナの軍事侵攻が、あまりにも「昔ながらの戦争」だったので、逆に驚かされてしまいました。ロシア側にも大義名分はあるのだと思いますが、どう見ても利益の略奪のための戦争にしか見えないような……。武力による略奪行為で利益を得るということは許されないことなので、戦争中になんらかの犯罪行為が行われていないか確認するために、衛星写真などをすべてきちんと保管しておくべきだと思います。
 このような「20世紀以前と同様の戦争」が21世紀でも再び起こることを実感させられましたが、やはり今後は「超限戦」を想定して、その対策を考えるべきだと思います。日本にとっては、やはり国連などを味方につける「超国家的組み合わせ」の方式を運用して危機を解消する方法が、最良なのではないでしょうか。
 21世紀の「新しい戦争」を考える上で、とても参考になる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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