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第1部 本

社会

SNS時代のジャーナリズムを考える(瀬川至朗)

『SNS時代のジャーナリズムを考える (「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座)』2023/1/30
瀬川 至朗 (編集, 著), 善家 賢、立山芽以子、平野雄吾、大村由紀子、亀井宏二、木村真也、春名幹男、兼松雄一郎、八田浩輔 (著)


(感想)
 人びとにとって世界を「自分事」にするために、ジャーナリズムはどのような役割を果たすことができるのか……早大の人気講座「ジャーナリズムの現在」の講義録+αの本で、内容は次の通りです。
講義 ジャーナリズムの現在
 1 OSINTを駆使したデジタル調査報道――テレビ報道の新たな可能性(善家 賢)
 2 世界の出来事をいかに「自分事」として報じるか――SNS時代のメディアの役割(立山芽以子)
 3 日本の難民・入管問題と外国人取材――国際報道と国内報道が交錯する現場(平野雄吾)
 4 ローカル・ジャーナリズムの紡ぎ方――エリアを越えて伝えたいこと(大村由紀子)
 5 犠牲を無駄にしないために――連載「二〇二〇熊本豪雨 川と共に」が伝えた災禍の現場(亀井宏二)
 6 遺骨は日本人ではなかった――国の〝不都合な真実〟をどう暴いたか(木村真也)
 7 「特ダネ」とは何か――報道の問題意識を問う(春名幹男)
討論 ウクライナ報道を検証する
 シンポジウム ウクライナ侵攻の情報戦から考える――偽情報・誤情報にジャーナリズムはどう立ち向かうか(兼松雄一郎、八田浩輔)
 異なる「事実」にジャーナリズムはどう向き合うのか――OSINT調査報道とファクトチェック(瀬川至朗)
   *
「1 OSINTを駆使したデジタル調査報道」では、SNS時代の主要なジャーナリズムの一つになると思われるOSINTについて、詳しく知ることが出来ました。
「OSINT(Open Source INTelligence)」とは、公開情報(SNS上の動画や画像、地図情報、衛星情報など)を活用して調査することを言います。
これが注目されたきっかけは、国際的調査集団「ベリングキャット」が、2014年にウクライナ東部上空で、マレーシア航空機が何者かにミサイルで撃墜され、乗客乗員298人が死亡した事件を調査した報道だったそうです。彼らは、ミサイル搭載車両がロシア領内からウクライナ東部の撃墜現場まで移動し、発射後にロシア国境に向かったという移動ルートを、SNSの動画や画像を収集することで明らかにしました。これに善家さんは衝撃を受けたそうです。次のように書いてありました。
「私は、それまで、調査報道は、現場に行かなければ何も得られないと考えてきましたが、「デジタルハンター」と呼ばれる彼らの存在とその手法を知り、時代が大きく変わったと感じました。これが「調査報道革命」「報道革命」とも呼ばれる所以です。たとえるなら、現場取材は地を這うイメージ、OSINTは鳥の目で俯瞰するイメージでしょうか。」
 ……OSINTは報道の効率化だけでなく、フェイクニュースのファクトチェックにも役立ちそうで、とても素晴らしい手法のように感じました。
 本書では、この他にも、次のような文章が印象に残っています。
「特に信頼できる情報を提供しているのは誰なのでしょうか。それは新聞やテレビの記者が書いたニュースです。テレビや新聞記者の「事実を取材し、コンパクトにまとめ、正しく伝える」技術というのは、SNS時代になっても変わらず必要なスキルです。」

「(前略)社会には、報道がなくなると解決したかのように思われる事象がたくさんあります。誰も知らないから見なくてもよいのではありません。継続して取材し、見て知らなければなりません。知ればひょっとすると世界は変わるのかもしれない。」

「(前略)ドキュメンタリーの制作においては、他人事ではないという気持ちで挑まねばなりません。心理的には不安になるため「自分とは関係ない」という気持ちが働きやすいのですが、気持ちを寄せる習慣を育てる必要があります。共感すると、問題点がだんだん見えてきます。」

「戦争ものを作って報道しても、戦争を止めることはできず、非常に無力だと感じています。地方から叫んだところで何になるんだといわれることもあります。しかし、それでもやり続けなければなりませんし、それが私の仕事だと思っています。」

「災害取材をする意義の一つは、後世へ記録と教訓を残すことです。」

「記者は、相手の気持ちをきちんと受け止めることと、記者としての使命の板挟みになります。それでも記者なので取材現場に足を運ばなければなりません。私のある先輩はその状態を「折れそうで折れない心」と読んでいますが、このマインドこそが大事なのではないかと思っています。」

「(前略)もちろん視聴者・読者の関心に応える記事を書くことは極めて重要ですが、一見、関心を引かないような話題でも、報道しなければならない事実はたくさんあると考えています。
 また、ネット上にオープンソースの情報があふれる時代ですが、記者が掘り起こさなければ決して公表されない隠された事実、不都合な事実は数多くあると痛感しています。今回の取材では、関係者を地道に回り、人間関係を作り、情報を引き出すという泥臭い取材を繰り返しましたが、権力の懐に入り情報を引き出す「当局取材」と「オープンソースの分析」を両輪の形として取材を進めていくことが重要だと改めて感じています。」
「(前略)速報ニュースの多くは消えていきますが、特ダネは一発で社会を動かし、歴史をつくることがあります。まったく知られなかったことが知られて、社会に大きなインパクトを与え、大変な動きにつながることもあります。」
   *
 また「討論 ウクライナ報道を検証する」では、ロシアによる情報工作活動の実態や、それに対抗するOSINTの動きなどが、とても興味深かったです。ロシアは今回、「質より量の情報工作」を行っていたようですが、ファクトチェックに手間がかかることを考えると、とにかく「膨大な量のフェイク投稿」を浴びせることで、反対勢力の意見をある程度抑え込めるだけでなく、ファクトチェックしきれないものをどんどん拡散させることも出来るので、今の時代にあった賢い戦略なのかもしれないなーと考えさせられました。
 さて、ビル・コバッチらの『ジャーナリズムの原則』によると、「複数の目撃者や多くの情報源、多方面の意見取材などに基づく「検証」により、対象とする問題の真実に可能な限り近づくことが、ジャーナリズムの本質だ。」そうです。
 社会がどんどん変化し、フェイクニュースも溢れているSNS時代ですが、私もテレビや新聞記者の書いた記事を、最も信頼できるものの一つとして読んで(見て)います。メディアのみなさんが、OSINTなどの手法も有効活用して、今後も「可能な限り真実に近い」記事を提供してくれることを願っています。
『SNS時代のジャーナリズムを考える (「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」記念講座)』……とても参考になる情報をたくさん読める本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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