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第1部 本
社会
新興国は世界を変えるか(恒川惠市)
『新興国は世界を変えるか-29ヵ国の経済・民主化・軍事行動 (中公新書 2734)』2023/1/19
恒川 惠市 (著)
(感想)
21世紀以降、ますます存在感を強めている「新興国」。特にブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国は「BRICS」と呼ばれ、リーマンショック後の世界不況を立て直す牽引役として期待されています。力をつけた新興国は世界にどのような影響を与え、どこへ向かうのか? 本書は29ヵ国を新興国と特定し、その経済成長、政治体制、軍事行動を分析しています。
「序論 新興国とは何か」には、次のようにありました。
「(前略)本書では、先進国よりも早いスピードで経済成長を遂げ、世界経済の動向に無視できない影響力を持つようになった国々を「新興国」と呼ぶことにしよう。」
そしてその「新興国29国」は、次の通りです。
1)高所得国(シンガポール、韓国、台湾、アルゼンチン、チリ、ポーランド、サウジアラビア)
2)中位所得国(マレーシア、中国、タイ、ブラジル、メキシコ、コロンビア、ペルー、カザフスタン、ロシア、トルコ、イラン、イラク、アルジェリア、南アフリカ)
3)下位中所得国(インドネシア、フィリピン、インド、パキスタン、バングラデシュ、ベトナム、エジプト、ナイジェリア)
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これらの新興国を、政治体制変動のパターンで分類すると、次のようになるそうです。
1)民主主義体制が長期的に維持:インド、コロンビア
2)80年代に民主化し、以後民主主義体制を維持:フィリピン、韓国、台湾、チリ、ブラジル、アルゼンチン、ポーランド
3)90年代に民主化し、以後民主主義体制を維持:インドネシア、ペルー、メキシコ、南アフリカ
4)権威主義体制が長期に持続:ベトナム、中国、サウジアラビア
5)弱い権威主義体制が長期に持続:シンガポール、マレーシア、アルジェリア、エジプト、ロシア、カザフスタン
6)民主化の方向に動いた後に再権威主義化:タイ、トルコ、バングラデシュ、イラン
※不安定で分類できない国:ナイジェリア、パキスタン、イラク
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……なるほど。科学やITには興味が強い一方で、社会や政治には詳しくない私にとっては、とても参考になる話ばかりでした。
とりわけ「第4章 政治体制変動の実態」は、これら29か国の歴史的変遷がとても分かりやすく紹介されていて勉強になりました。
また「民主主義」について、次のように指摘されていることにも納得感がありました。
「通常政府は、その社会での最大の強制力(軍事と警察力)を握っているのだから、一度権力を手にした者が、その強制力を使って、自己の思うままに政策を決定・実行し、同時に批判勢力を抑えて政権を維持しようとする誘惑にかられても不思議ではなかろう。その意味で、権威主義的な体制の方が、通常期待される体制である。政権を握った者が、自らの行動に制約を課す民主主義体制は、きわめて特殊な体制だと言える。」
……確かにそうですね! 経済や社会情勢が不安定化している(しかも権威主義国の中国が存在感をどんどん増している)現状では、新興国がしだいに権威主義に傾きつつあるのも無理はないのかもしれません。
でも権威主義は、ロシアのウクライナ侵攻などに顕れているように、経済が下降気味になったり経済格差が目立つようになったりすると、危険な一面を示す場合があります。次のように書いてありました。
「そうした場合に、権威主義的なリーダーが国民の支持を調達するべく使うのが、ナショナル・アイデンティティへの訴えである。国民のナショナリズム感情を煽る対外政策をとることで、社会的圧力を回避しようとするのである。」
「「自由主義的国際主義」が、主権国家内部や主権国家同士の紛争を、それぞれのメンバーの合意に基づくルールや取り決めによって解決することを原則とする秩序であるのに対して、「国家主義的自国主義」における紛争解決は、国内においても国際場裏においても、主権国家の指導部を握る人々によって、メンバーの合意のあるなしにかかわらず行われる。それは当然ながら、強い力(軍事力や経済力)を持つ国家が仕切る世界である。
しかし、それが秩序として安定するためには、自国民と他の国々の不満が高じないようにする必要がある。そこで自国民には経済的福祉とナショナル・アイデンティティを提供し、国際的には自国の「核心的な利益」に関わる事項以外について国際協調の用意があることを強調する。もっとも、何が各国にとって「核心的」かについて国際的な同意があるわけではなく、結局はそれぞれの国が恣意的に決めることになる。」
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そして「終章 日本は新しい世界とどう向き合うか」には、次のようにありました。
「(前略)日本は、「国家主義的自国主義」を強行する中国・ロシア両国と、近距離で対峙しているという点で、世界で最も困難な位置にあると言える。」
「(前略)結局日本は、「自由主義的国際主義」秩序を守る努力を続ける以外に選択肢はない。
そのためには、まず「自由主義的国際主義」の中心勢力である欧米諸国やオーストラリアとの連携を強めていくことが必須であろう。」
……具体的には、次のようなことを行うべきだとか。
1)欧米諸国自身が自国主義に陥ることがないよう説得する
2)多くの新興国が権威主義体制を持っていることへの対応を考える(民主主義や人権主義の重要性を説き続ける)
3)欧米諸国と協力して、新興国の経済的期待に応える
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29ヵ国の新興国の経済・民主化・軍事行動を分析し、世界情勢の変遷や今後の展望を考察している本でした。全体としては、客観的にデータを分析することで中立的な立場で各国の情勢を紹介してくれている感じで、信頼がもてそうな感じがしました。政治や社会にあまり詳しくない私にも、分かりやすく解説してくれるので、とても勉強になりました。やっぱり、たまにはこういう本で、社会について学ぶことも必要なのでしょう。
とても読み応えがあって勉強にもなるので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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