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第1部 本
生物・進化
「老いない」動物がヒトの未来を変える(オースタッド)
『「老いない」動物がヒトの未来を変える』2022/12/13
スティーヴン・N・オースタッド (著), 黒木 章人 (翻訳)
(感想)
400歳のサメ、100歳を超えても生殖を続けるトカゲ、70歳でも数千キロを飛ぶ海鳥……そんな超長寿動物の驚異的な機能の解明が、ヒトの未来の「健康寿命」のカギを握るかもしれないことを紹介してくれる本です。
本書の冒頭には、鳥類学者のダネット博士が23歳の時と、53歳の時に、フルマカモメを抱えている2枚の写真があり、博士のほうは確実に年老いているのに、抱えられている「同じフルマカモメ」の見た目はまったく変わらないどころか、生殖能力・飛翔能力も衰えていなかったという驚きの事実が書いてありました。なんと「鳥類には長寿の種が多数存在する」そうです。
えーっ! カメが長寿なのは知ってたけど、鳥類にも長寿が多いなんて驚きです。
そして一般的には、「大きな動物のほうが小さなものより長生き」だそうで、代謝率や生殖開始時期、心臓の脈拍、呼吸、筋肉の収縮、細胞の置換などの生理学的な時間が、小さい動物ほど速く流れ、環境上の危険も大きくなるからなのだとか。
そのため本書では、この「サイズの違い」を考慮したうえで、異なる種同士でも「長寿かどうか」を判定するための基準として、長寿指数LQを設定しています。
空を飛ぶ動物には長寿のものが多く、海鳥はとりわけ長生きで、なかでもアホウドリは最長寿(70歳)でも元気に飛翔・繁殖しているものまでいるのだとか。鳥には活性酸素と褐変による損傷を防ぐ機能があるようで、鳥類の老化プロセスの研究が、人間の健康に役立つかもしれないそうです。
長寿で知られるゾウガメやムシトカゲの場合は、代謝速度が遅く体温も低く、活性酸素の発生量も少ないので、老化スピードも遅いようです。
また冬眠する動物も長寿の傾向があるようで、これも代謝速度に関係があるのかもしれません。
最近、健康長寿で脚光を浴びているハダカデバネズミと同じように、地下生活をしているメクラネズミも健康長寿で、どちらも何故か「がん耐性」が高いようです。密閉された地下のネットワークを棲み処とする穴居性の動物たちは、低酸素および高二酸化炭素に対する耐性を発達させていますが、これが長寿の秘訣に結びつくのかもしれません。彼らの健康長寿の秘訣を探る研究も進められているようです。
また驚きだったのが、二枚貝にも意外に長寿のものがいること。実は「地球上の最長寿動物たちは、すべて海を棲み処としている」のだとか! 寿命が最も長いのは、生命活動が最も遅くなる寒冷な場所の外温性の動物だそうで、海にはこの「外温性と低温度、安全な環境」があるのです。
長寿の二枚貝には、活性酸素による損傷に抵抗する能力があるようだとか、アイスランドガイのたんぱく質そのものに、折りたたみミスに対する抵抗力が備わっているようだとかいう研究が紹介されていましたが……これらの研究が、人間の健康長寿につながることを期待したいです!
この他にも、多くの「老いない」動物について、いろいろなことを知ることが出来ました。ただし動物の年齢の推定はかなり難しいようで、「長寿」で有名な動物の年齢には、かなり「怪しい」ものが多いようです。「長寿」は研究に要する期間も当然長くなるので……これらの研究で人間の長寿を延ばせるようになるのは、まだまだ先かもしれませんね……。
「老いない」動物について総合的に知ることが出来る本で、興味津々でした。だだ……本書は「老いない」動物について体系的・科学的に解説しているというよりは、科学エッセイ風の本で、研究者向けというよりは、生物好きの一般の人向けの本のように感じました。また残念ながら、現時点では長寿の秘訣もあまり明らかになっていないようです……。
それでも「老いない」動物の研究には期待したいと思います。なにしろヒトの寿命は健康寿命より速いペースで延びているので、病気の治療法と同時に老化のペースを遅らせる手段を見つけない限り、医療保険制度や社会が崩壊する危険性があるのですから……(なお、これまでの人間の最長寿は、122歳だそうです)。
「老いない」動物という観点で、意外な事実をたくさん知ることが出来て、とても読み応えがありました。生物が好きな方、健康長寿に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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