ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

描画参考資料

ザ・ミュージアム(ホプキンズ)

『ザ・ミュージアム: 世界の知と美の殿堂』2022/10/9
オーウェン・ホプキンズ (著), 野中 邦子 (翻訳)


(感想)
 博物館の原型となったパルテノン神殿から、21世紀のデジタル博物館まで、フルカラー写真を駆使して、世界の知と美の殿堂を歴史的観点から解説してくれるヴィジュアル歴史図鑑で、内容は次の通りです(世界200の博物館・美術館と写真図版250点)。
第1章 起源
第2章 啓蒙主義の博物館
第3章 公共の博物館
第4章 近代美術館
第5章 グローバル・ミュージアム
第6章 現在のミュージアム

 博物館や美術館の歴史的経緯や役割が詳しく解説されているだけでなく、美しい写真が多数掲載されていて、大型の美術本(博物館の写真集)という感じ。ハードカバーで4900円+税という豪華な博物館の歴史図鑑です。
 もちろん解説文も充実していて、博物館の歴史的経緯など、とても勉強になりました。
 博物館の起源となったのは、15から16世紀の「驚異の部屋」と「ストゥディオーロ」。ここでは研究、瞑想、名声を目的として折衷主義のコレクションが築かれたそうです。当時の「驚異の部屋」の様子がわかるものとして、『ムーセーウム・ウォルミアヌム(オーレ・ウォルム)』(1655年)の扉絵も見ることができました。珍しいものがぎっしり詰まったマニアの部屋って感じです……。
 また現在はプラド美術館にあるピーテル・パウル・ルーベンスとヤン・ブリューゲル(父)による『資格の寓意』(1617)は、素晴らしい驚異の部屋を描き出したものだそうですが……壁一面のたくさんの絵画、彫刻、地球儀、天球儀、その他もろもろが詳細に描かれていて、その絵画技巧も凄いですが、描かれている物品の高品質さにも驚かされます……これは眺めるだけで溜息が出ます……。
 この後は、啓蒙主義の盛り上がりとともに初期の博物館(大英博物館、ルーブル美術館、他)が作られて、上流社会だけでなく、より広い社会層へ開放されていきました。
 そして次第に数が増えていき、博物館の役割はただオブジェを保管する場所ではなく、大衆を教育し啓蒙する機関(公共博物館)として、ますます重要になっていったのです(スミソニアン協会、メトロポリタン美術館、他)。
 さらにモダニズムや日常生活の変貌を進めたのが近代美術館(ニューヨーク近代美術館、他)。すべてを幅広く展示しようとするのではなく、近代絵画などテーマを絞って展示する展覧会が開かれるようになっていきました。
 1970年代には、ミュージアム建築がこれまで以上に重要な役割を持つようになり、それ自体が美術作品のような「アイコニック(象徴的な)」建築が続々誕生しました。素晴らしい形をした新しい博物館を中心に、その都市のイメージアップが図られるという地域おこしの役割も担うようになったのです。例えば、イギリスのテート・モダンも都市再生プロジェクトの一環だったそうです。
 そして現在、博物館の存在に大きく影響を与えようとしているのが、バーチャル・リアリティ。ホプキンズさんは、今後の博物館はこれを取り入れるべきだと考えているようです。博物館を定義する3つの特徴は、「コレクション」「建物」「大衆」で、その中心になるのは「大衆(人)」。バーチャル空間が、博物館の「人」への働きかけをさらに前進させるものになり、デジタル革命が、これからの博物館に新しい道を拓いていくのでしょう。
 博物館の歴史的変遷を通して、博物館とは何かを深く考えさせてくれる本でした。この本を読むまで、博物館は主に「啓蒙」のためにあるもので、コレクションを正しく分類して提示してくれるもの(価値あるものの保管と展示)だと考えていましたが、博物館の役割には、大衆に知識を与えるだけでなく、町おこしや、既存の概念を打ち破ることなど、さまざまなものがあることに気づかされました。
 またこの本では、世界の素晴らしい博物館の写真を見ることができて、眺めているだけで、わくわくしてしまいます。(ただし博物館内の収蔵品よりも博物館の外観写真が多いようですが……)。とりわけ「アイコン」となるような素晴らしい建物の博物館……スペイン(ビルバオ)のグッゲンハイム美術館(1977)、アラブ首長国連邦(アブダビ)のルーヴル・アブダビ(2006-2017)、中国(内モンゴル自治区オルドス市)のオルドス博物館(2011)などは、建物自体がとても美しくて、機会があったら訪れてみたいけど……遠いですね……。
 博物館好きには宝物になるような素敵な本でした。日本の博物館も、国立西洋美術館や広島平和記念資料館、江戸東京博物館など、いくつか紹介されています。大型でかなり高価な本ですが、ぜひ一度、眺めてみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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