ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
脳&心理&人工知能
魚は数をかぞえられるか?(バターワース)
『魚は数をかぞえられるか? 生きものたちが教えてくれる「数学脳」の仕組みと進化』2022/11/10
ブライアン・バターワース (著), 長澤 あかね (翻訳)
(感想)
「人間特有のもの」と一般に考えられている数的能力は、言語をもたない生き物にもある。食べて繁殖して生存するために、数を認識して数えている、いや、計算すらしているのだ――この大胆な仮説を、認知神経心理学の第一人者にして数的能力の遺伝について研究を続けてきたバターワースさんが検証し、数学を中心に、神経科学、社会人類学、進化生物学を駆使して「生きものは数をかぞえているのか」というユニークなテーマに迫っている本です。
「訳者あとがき」には次のように書いてありました。
「数を数えられるのは、むろん魚だけではない。本書によると、ヒヒの群れは進行方向を多数決で決め、百獣の王ライオンはむやみに血を流すのではなく、敵と味方の数を数えて、戦うか逃げるかを決める。さらに驚くのは、自分の歩数を何千歩も数えるアリや、素数周期を把握できるセミまでいること。そもそも羅針盤も地図も持たない渡り鳥やウミガメが、何千キロも移動して元の場所に戻れるのは、グーグルマップばりの経路計算をしているからだ、と著者は言う。」
本書のタイトルは『魚は数をかぞえられるか?』ですが、魚だけでなく、サルはもちろん、ネズミもカラスもハトも、さらにカエルやアリ、ハチ、イカも「数」を数えられるということが、実験をともなう研究で、どんどん明らかにされていきます。
とても興味津々だったのは、私たちの「数学脳」の仕組み。人間が「頭の中の算盤を使う」とき、数に関係ない課題なら、並行してもう1つこなせることが実験で明らかにされました。つまり計算は、ほかの認知機能とは別の思考プロセスなのです。
また「ブローカ野」と呼ばれる第三左前頭回への損傷が、数詞を使った計算能力を損なうことが確認されています。
さらに次のようにも書いてありました。
「脳機能イメージングで、私たちは、脳の右半分の領域が、小さい「数」の計算に関係していることも発見した。一方、数的処理に関する脳機能イメージングを行うと、おおよそどんな課題においても、左右の頭頂葉が活性化される。」
……「数学脳」って、本当にあるんですね!
そして「3から5までの小さな数」と「それより多い大きな数」とでは、違う取り扱い方をされているようです。小さい数はすぐに数えられるのですが、大きい数になると、その「比率」がかなり違っていないと、大きさの区別ができないようなのです。……これは実感として分かります。人間でも、パッと見て数えられるのはせいぜい10個ぐらいでは? 20個と21個の違いは、恐らくすぐには区別できないと思います……。これは人間だけでなく、サルなどの他の生物も同じような反応をするそうです。
「(前略)「数」を識別するマカクザルの能力は、人間ほど優れてはいないものの、人間によく似ている。どちらの種においても、比率の影響が顕著に現れるのだ。」
「研究所の両生類は、少なくとも食べ物に関しては自発的に「数」の比較ができるが、最大3までである。そして、さらに大きな数になると「ウェーバー比」(比率)が「1:2」であれば比較できる。」
これは当然のことなのかもしれません。実は、サルの大脳皮質の、だいたい(人間と)同じ領域(外側頭頂間皮質)に、アキュムレータのような働きをするニューロンが確認されていて、脳の仕組み自体が似通っているようなのです(サルだけでなく、他の生物にも同じような仕組みがあるようです)。次のようにも書いてありました。
「ニーダーの研究とロイトマンらの研究の重要な特徴は、サルの脳内で「数」の処理に重要な役割を果たす領域が、人間の脳内で「数」の処理に重要な役目を果たす領域と一致している、と示していることだ。(中略)私たちも彼らも、核となる領域が頭頂葉にあることに加えて、頭頂間溝として知られる大脳皮質の溝の「底」にあることを発見したのだ。これは偶然の一致ではないだろう。この発見は、人間とサルに備わる「数」の処理のメカニズムが、共通の祖先から受け継がれたことを示している。」
「これら(ネズミ)の調査や猫の頭頂葉のニューロンの反応が示しているのは、こうした生物がすべて、生まれながらに脳内にアキュムレータのようなメカニズムを備えており、様相や提示の仕方が違っても、「数」に反応できることだ。このメカニズムの起源が、あらゆる哺乳類の共通の祖先にあると考えることはできるし、むしろその可能性が高いのではないだろうか。」
たいていの生き物は少なくとも小さい数を数えられる……小さい数を数える能力は、生存に大きく関わるものとして、我々の脳に生得的に備わっているのかもしれません。
数的能力が進化の過程で発達してきたことを、さまざまな実験(研究)を通じて紹介してくれる本で、とても興味津々でした。
生き物たちの「数的能力」を調べていくことが、私たちの「脳の仕組み」を解き明かすのに役に立つのかもしれない……なんか、わくわくさせられます。
とても面白くて勉強にもなる素晴らしい本でした。みなさんもぜひ読んでみてください☆
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