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第1部 本

 IT

なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか(ピトロン)

『なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか:ネットの進化と環境破壊の未来』2022/6/21
ギヨーム・ピトロン (著), 児玉 しおり (翻訳)


(感想)
 クラウド化のためのデータセンターが世界各地に作られ、データ送信のために海底を埋めつくす通信ケーブル。膨大な電力や資源が「デジタル化」へ注ぎ込まれる現代に警鐘を鳴らしている本です。
 第1章には、次のように書いてありました。
「(前略)インターネットの環境負荷の驚くべき増幅のメカニズムと、何もそれを食い止めることはできそうにないということ、それが本書の全編を貫く筋だ。事実、デジタル分野の電力消費は年率5~7パーセント増加しており、その結果、2025年には世界の電力消費量の20パーセントを占めるだろうといわれる。二酸化炭素の総排出量に占める情報通信技術の割合は同じく2025年までに2倍になるという予想だ。」
「現在進行しているデジタル転換は、気候変動を予測するのを助けるよりも、それに加担している」
 ……この本は「デジタル・テクノロジーは汚染する(水とエネルギーの消費、鉱物資源の枯渇への加担など)」ことを、さまざまな事例や調査結果で具体的に示しています。

 正直に言って、ITなどのデジタル・テクノロジーは、むしろエネルギー利用を効率化するのに役立つものだと思っていました。でも、それは幻想のようです。第2章には、「計画的陳腐化」などの問題が指摘されていました。計画的陳腐化とは、製品の時代遅れ感を加速させるための戦略で、例えばスマホの場合は内臓バッテリーが経年劣化すると廃棄するしかなくなるとか、新たなテクノロジーが出ると前のテクノロジーは陳腐化してしまうとか、ソフトウェア更新が停止されるとかいう状況にしていることです。このような「ちゃんと使えるものをゴミに変えてしまう」戦略のせいで、我々は次々と新製品に買い替えて旧製品を廃棄しなければならなくなり、そのことが環境へ悪影響を及ぼすのです。……うーん、確かにその通りだ……(自分のスマホを眺めつつ)。
 第3章では、MIPS(ひとつの製品あるいはサービスを作り出すのに必要な資源量)という、次のような新しい考え方を知ることが出来ました。
「具体的には、MIPSでは、衣服、オレンジジュースの瓶、絨毯、スマートフォンの製造、使用、リサイクルの間に利用・移動された資源全体が評価される。持続可能な資源(植物性)、そうでない資源(鉱物)、農業活動によって生じる土地の動き、使われる水や化学製品など、すべてが考慮される。」
「たとえば、2キロの重さのパソコンは22キロの化学物質、240キロの燃料、1.5トンの水を使用する。テレビ1台のMIPSはその重量の200倍から1000倍になる。スマートフォンは1200倍だ。」
 ……そうなんですか。
「エコロジストになるには、「低炭素」だけでは十分でないことが読者はおわかりになるだろう。「低資源」も実現しなければならない。」なのだとか。
 この他にも、最近は「データセンター」を北極圏の国に設置するケースが増えている(冷却に必要な巨大なエネルギーの節約のため)とか、海底ケーブルにまつわる問題とか、さまざまな事例・問題を知ることが出来ました。現在、海底には450本の海底ケーブル(光ケーブル)があり、合計120万キロメートル(地球の外周の30倍)で、廃用となった光ケーブル(ゾンビケーブル)や、ケーブルのルート上の領土主権など、いろいろな問題があるようです。
 また「データセンター」については、最近では「自国内での管理」を考えている国も多いようですが、「データセンター」の重要性は今後もどんどん増していく一方だと思いので、安全保障の面からも、日本も自国内での設置を考えるべきではないかと思います。そしてその場所は北海道と北東北の空港のそばがいいのではないかと……この地域は平均気温が低いし、空港なら冬に除雪作業が必須なので、それを雪室に保管することで夏場の冷却に活かせば電気代の節約にもなるし……なんてことまで妄想してしまいました。
 IT設備やシステムの「デジタル汚染(環境負荷)」を教えてくれる本でした。スマホのようなごく小さな機器を作るために、その1200倍の資源量が必要だとは思ったこともなかったので、衝撃を受けました。でも……だからといってスマホを捨てることも、パソコンを捨てることも出来ません。すでに生活必需品だからです……。
 それでも、こんな「デジタル汚染(環境負荷)」があることを忘れずに、自分に出来る努力はしてみようかなと思わされ、そのヒントになる事例も読むことが出来ました。「デジタル・ダイエット」への試みを始めている人たちがいるそうです。
 それは、2020年にエストニア人のアネリ・オーヴリル氏に率いられた少人数の活動家が始めた「ワールド・デジタル・クリーンアップ・デイ」というもので、環境負荷を削減するために、様々な保存スペース(メールボックス、グーグルドライブ、ドロップボックスなど)を掃除する1日を設けるという活動。第一回の2020年4月には、世界86ヵ国で数十万人のネットユーザーが参加したそうです。これはすごくいいですね! 考えてみれば私のメールボックスも、一度も読んでいない不要な古い広告メールでいっぱいです(苦笑)。電気代節約のためにも、いつか暇があったら消そうっと(汗……すでに弱気……)。
 ITだけでなく科学全般が好きなテクノロジー信者の私にとって、耳の痛い話を聞かせてくれる本でした。この本が指摘しているように、蒸気機関の技術発展がもたらすエネルギー削減は、機関車の使用増によって相殺されるどころか、逆に石炭の消費増加につながっていったんですよね。しかも、その後の技術発展も多くが同様の結果をもたらしてきた……まさにその通りです……。
 第7章には次のように書いてありました。
「より膨大なデータをより効率的に管理することによって、交通やエネルギー供給網を最適化し、第4次産業革命後の高度に接続される未来の工場においてロボットの自立性を向上させることが世界的に可能になるだろう。うまく利用すれば、このテクノロジーはすばらしい社会的・人間的進歩を導き、人々は大いに満足するだろう。だが、その未来とはいつなのか?」
 ITが私たちの作業を効率化し、生活を快適にしてくれたことは間違いありません。私たちが、今後も、美しく快適な環境を維持しつつ、社会的・人間的進歩を続けていけるよう、何か努力をしていきたいと考えさせられました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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