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第1部 本
生物・進化
化石が語る サルの進化・ヒトの誕生(高井正成)
『知識ゼロからの京大講義 化石が語る サルの進化・ヒトの誕生』2022/7/22
高井 正成 (著), 中務 真人 (著)
(感想)
予備知識がなくても、化石からわかるサル・ヒトの進化を楽しく教えてくれる本。京都大学での講義中や、研究室に寄せられた質問を中心に、古生物学者と古人類学者の「化石屋さん」二人が答えてくれるという形式なので、とても読みやすく、1項目あたり4ページぐらいでまとめられているので、暇な時間の有効活用にも使えます(カラーページはありませんが、写真やイラストもあります)。
例えば最初の質問「発掘調査って何をするんですか?」の回答のごく一部を紹介すると次のような感じ。
「陸棲の脊椎動物化石を見つけるのなら、川や湖沼で堆積した堆積岩(陸成層)が分布している地域で、見つけたい化石が生きていた年代の地層を探します。例えば、類人猿の化石を探すならば、新第三紀の地層を探して、そこで調査が可能かとうか検討します。どこで探すにせよ、こういった基本的な地質学の情報を事前に確認しておく必要があります。」
そして現地の状況を知ることも大事で、酸性土壌や、人が多く住んでいるところ、水で化石が流れやすい場所はよくないようです。ちなみに、日本のような高温多湿で酸性土壌の環境では、骨が分解されやすいので化石は残りにくいのだとか……なーんだ、そうなの……。
またところどころに「基礎知識」も挿入されていて、例えば「古人類学とは」という基礎知識では、次のようなことが紹介されていました(本文中ではもっと詳しい説明があります)。
「古人類学の特別な要素として第一にあげるべき点は、考古学(先史考古学)が関わる点です。それは、人類の特性の中に文化的行動と物質文化の比重が占める割合が大きいためです。具体例を述べると、火の管理、道具製作、住まい、被服、言語・象徴表現、装飾品、芸術、他にもいろいろあります。こうした特徴の起源と発達過程は単に地層に閉じ込められた遺物や遺構からだけではなく、解剖学・生理学からも研究されます。例えば、石器をつくるうえで重要な機能を知るために、筋電図を用いて石器製作時に強く活動する筋肉を調べ、化石に残った筋の痕跡から石器を製作するための能力を推定します。石器製作と言語の関連も古くから示唆されています。言語がいつ発生したかを知るために(言語の痕跡は石器と異なり地層に残りませんから)、言語に関わる脳の領域(言語野)の大きさを、頭骨に残された脳表面の鋳型から調べたりします。このように生物学と考古学の融合、あるいは学際性は、人類学に内在する要素でもあります。」
……化石の筋の痕跡や、脳表面なども、古代の文化的な側面を推定するのに役立つんですね!
面白かったのが、「サルに一番近い動物は何ですか?」という質問への回答。「それはヒヨケザルかツパイという東南アジアの動物です」というのが答えなのですが、その次に霊長類に近縁な動物は、なんとネズミとウサギなのだとか! えー、そうだったんだ……。
また意外だったのは、「猿人はどんな所に住んでいたの?」。その答えが「アフリカの森の近くの水辺だったようです」だったことには納得しましたが、次の記述には驚かされました。
「かつては、乾燥化によってサバンナが広がり、そこに取り残された類人猿から猿人が進化したと考えられていましたが、今日そうした「サバンナ仮説」は否定されています。(中略)ラミドゥス猿人の場合も、樹冠が密ではない森林環境から食物を得ていたと推測されています。二足歩行の進化は、樹木が多い環境で始まったのです。これはラミドゥス猿人の足に把握能力が残っていることとも、つじつまが合います。」
えー、そうだったんだ? 森からサバンナに出なければいけない状況になってしまったので、二足歩行が始まった……みたいな感じに教えられたような気がしたけど……実は、森にいるうちに二足歩行も始まっていたんですね……。
こんな感じで、化石の話を中心に「サルの進化・ヒトの誕生」について語ってくれる本でした。
この他にも、化石の年代測定法とか、ヒトの脳が大型化した理由など、興味深い記事が満載で、とても勉強になります。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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