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第1部 本

天文・宇宙・時空

暗闇のなかの光(ファルケ)

『暗闇のなかの光──ブラックホール、宇宙、そして私たち』2022/9/6
ハイノー・ファルケ (著), イェルク・レーマー (著), 吉田 三知世 (翻訳)


(感想)
 2019年4月、ブラックホールの存在が初めて画像で直接証明されました。この本は、そのプロジェクトの実現のために世界中の電波望遠鏡のネットワーク作りに奔走した研究者のファルケさんが語る壮大なサイエンスノンフィクションで、内容は次の通りです。
第1部 空間と時間のなかを進む旅
第2部 宇宙の謎
第3部 世界初のブラックホール撮影への道
第4部 限界を超えて
   *
 第1部と第2部は現代に至る天文学の歴史の概説で、第3部はEHT(イベント・ホライズン・テレスコープ)プロジェクトや観測実施の経緯、そして最後の第4部は科学や人間の精神に関する思いが語られています。
 本書について、「訳者あとがき」に分かりやすい解説がありましたので、そこから抜粋紹介させていただきます。
「二〇一九年四月に公開された史上初のブラックホールの画像は、世界中の人々の心を驚きと喜びで捉えた。続いて二〇二二年五月には、もう一つのブラックホールの画像が公開された。最初のブラックホールは地球から約五五〇〇万光年離れたM87という銀河の中心にあるM87*、新しいほうのブラックホールは私たちの天の川銀河の中心に存在するいて座A*(地球からの距離は約二万七〇〇〇光年)だ。どちらの画像も、二〇一七年四月の四夜にわたって行われた地球サイズの電波望遠鏡EHT(イベント・ホライズン・テレスコープ)による観測のデータを解析して得られた。M87*もいて座A*も、超大質量ブラックホールである。」
 ……この「ブラックホールの画像」をNHKニュースで初めてその画像を見たとき、本当に驚きでした。ブラックホールって、見えるんだ……という意味で(笑)。実は、「ほとんどのブラックホールはジェットを放出する」そうです。嬉しいことに本書では、このM87*といて座A*の二つのブラックホールの貴重な「画像」のカラー写真も見ることが出来ます(表紙写真はM87*のもの)。もしかしたら、この印象的なブラックホールの画像より、ちょっと分かりにくい「いて座A*」の方が重要なのかもしれません。というのも「いて座A*」は、私たちの天の川銀河の中心にあるのですから! このブラックホールの周辺では恒星が速い運動をしているそうで、その画像も見ることができます(全8ページのカラー写真があります)。
 さて、ブラックホールの画像なんて撮影できるはずがないと、これまでは誰もが思っていたのですが、ファルケさんは次のことに気づきます。
「いて座A*の質量の当時の推定値からファルケが計算したところ、その直径は太陽の直径の約一〇倍で、地球サイズの電波望遠鏡があったとしても、その解像度では到底観測できないと思われていた。だが、やがてファルケは気づく。ブラックホールは強力な重力レンズで、自らを拡大するのだと。この効果でブラックホールは二・五倍になり、地球のサイズがあれば「ブラックホールの影」が電波望遠鏡で観測できるはずである。
 そこからファルケは、多くの人にこの可能性を知ってもらえるよう働きかけ、地球サイズの電波望遠鏡実現に向けて努力を続けた。」
「紆余曲折もあったが、地道な努力が実り、二〇一七年四月、ついに世界六カ所にある八基の電波望遠鏡からなるEHTによる観測が開始された。」
 ……凄いですね!
 なお、同時に観測したのに、M87*よりいて座A*が遅れて発表された理由は、いて座A*がM87*よりかなり小さい(M87*は、いて座A*の1000倍重い)ことと、ガスの運動を考慮した新しいデータ処理法を開発する必要があったからだそうです。
 このブラックホールの画像も凄いですが、なにより素晴らしいのは、「地球規模のVLBI(電波望遠鏡の連携)」を実現させて成果をあげたことだと思います。この技術(及び天文学者の連帯)は、今後、さらに天文学をどんどん前進させる力の一つになるでしょう。「訳者あとがき」にも、次のように書いてありました。
「EHTの成果は、六ケ所の天文台による地球規模のVLBIや、スーパーコンピュータを用いた高度なプログラムによる大規模な計算などの科学技術の粋と、世界各国の二〇〇名を超える科学者の協力によって実現した。その個々の技術要素自体、関与した人々の長年の努力によるものだ。」
 ……ブラックホールの画像撮影にまつわる具体的な経緯だけでなく、天文学(特にブラックホール)の歴史も学べる本でした。これ以外にも、次のような驚きの話など、最新の天文学研究の紹介もあります。
「一〇〇億年前に私たちの天の川銀河に衝突し合体した矮小銀河、ガイア-エンケラドゥスの痕跡が今日なお天の川銀河の内部を周回しているのだ。このような矮小銀河を獲物のように捕らえて取り込んだことにより、天の川銀河は大きくなり、また、中心部にバルジと呼ばれる膨らみが形成された。」
 とても興味深くて勉強にもなったので、みなさんもぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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