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第1部 本
社会
地図とデータで見る資源の世界ハンドブック(メレンヌ=シュマケル)
『地図とデータで見る資源の世界ハンドブック』2022/7/22
ベルナデット・メレンヌ=シュマケル (著), 蔵持 不三也 (翻訳)
(感想)
工業用大型金属、炭化水素、レアメタル、農産物、木材、そして淡水まで、世界の資源の現状を100におよぶ地図とグラフで解説してくれる本で、内容は次の通りです。
序文
はじめに
■鉱産物およびエネルギー資源
■…そして、ほかの多くの原材料
■これまで以上に戦略的な生産物
■主要な経済的課題
■未来への地政学的挑戦
付録
参考文献
用語解説
索引
「序文」には次のように書いてありました。
「(前略)不安定な世界では、実際のところ、原材料はわれわれの地球が影響を受けるすべての地政学的・地理経済学的な激変をひき起こす要因のひとつとなっているからである。そのかぎりにおいて、世界の貿易地図を読み、さまざまな市場での価格を追跡するのは、日常的にニュースの話題になっている緊張を理解するうえで、基本的な手法といえる。」
……ということで、この本は単なるデータブックではなく、資源のある国や、超大国との関り、さらには紛争や、将来への提言など、資源を通して地政学的・地理経済学的な考察もしています。
資源に乏しい輸入国の日本人としては、石油などの天然資源のある国は羨ましいと思っていましたが、なんと「原材料が呪い」になることもあるそうです。その一例が「オランダ病」で、オランダは、天然ガスの開発の成功とその輸出拡大による資源歳入の増加にともなう為替相場の過大評価によって自国通貨が高くなりすぎ、結果的に自国工業製品の輸出が困難になるという皮肉な状況が起きてしまっているそうです。……うーん、お金持ち(?)にはお金持ちならでは苦労があるんですね……。とは言っても、「何もない」国よりは圧倒的に有利なはずだし、「輸出拡大による資源歳入の増加」が問題ならば、「輸出量をコントロール」すればいいだけなのでは? と思ってしまうのは、ただの素人考えなのでしょうか……。
また、知らなかった情報をたくさん知ることも出来て、驚きでした(勉強になりました)。そのごく一部を紹介すると、次のようなもの。
・レアメタルは特定の鉱山から産出されるのではなく、おもに鉱業や冶金産業の副産物。(例:ガリウムはボーキサイト(アルミニウム鉱石)の微量成分として抽出されるなど。)
・もっとも高価な金属はロジウム
・ベネズエラは世界最大の石油資源国(17.5%)、2位はサウジアラビア(17.2%)
・コーヒーは1位がブラジル(28%)、2位はベトナム(17%)
・世界には資源分野で強力な企業がある(例:エネルギーと鉱石分野における世界最大の商社グレンコア:世界の亜鉛60%、銅50%、アルミニウム30%、石炭25%、穀物10%、石油3%をコントロール)
……などなど。亜鉛や銅などに強い影響力を及ぼせるグレンコアは、その価格を戦略的に(自分勝手に?)設定しうるんじゃないでしょうか……なんだか怖いですね……。
そして「■未来への地政学的挑戦」には、地政学的アプローチの重要性が次のように述べられていました。
「地政学的アプローチの利点は、地理的・経済的事実の読みとりにもとづく伝統的な説明を超えて、人々やその組織の重み、価値観、行動を考慮できるところ、言い換えれば、合理的な要因だけではなく、さまざまな力関係や戦略および課題をも扱えるようになるところにある。こうしたアプローチは、原材料の分野では基本的なものといえる。ステークホルダーたちの決定が、つねにその立場と彼らが動きまわる国際的な文脈にかんする認識と結びついているからである。」
また資源をめぐっては多くの紛争が起こっているようです。
「2018年の国連報告によれば、過去60年間に起きた国内的な武力紛争の40%以上が天然資源と関連しており、1990年以降、アフリカの内戦の75%が天然資源からの収入によって資金の一部を調達しているという。」
紛争は石油やダイヤモンドだけではなく、淡水、農業生産、水産物などをめぐっても発生しているのだとか……悲しいことです。
そして「これからの課題」では、「エコロジカル・フットプリント」という概念の説明がありました。
「今日、天然資源の消費にみられる不平等ないし格差は、「エコロジカル・フットプリント(EF)」という概念で示されている。これは人間が消費する自然資源と自然が再生する能力(地球の環境容量)の比率を、面積(gha)で測った指標である(人間活動が環境にあたえる負荷を、資源の再生産および廃棄物の浄化に必要な面積として示した数値で、通常は生活を維持するのに必要な1人あたりの陸地および水域の面積として示される)(中略)
2014年のエコロジカル・フットプリントは、1人あたり2.84ghaで、利用可能な面積を69%超えていた。このフットプリントのなかでもっとも伸びているのがカーボン・フットプリントで、現在では全体の半分以上を占めている。」
……一部の人びと(先進国)が資源を使いすぎているようで、私たち日本人も、おそらく「使いすぎ」の側なのでしょう……。
そして世界には苦しんでいる人々がいることも、次のように書いてありました。
「世界ではいまも8億2000万人の人びと、つまり9人に1人以上が飢えで苦しみ、20億人が不安定な食糧事情に甘んじている(FAO、2019年)。」
「今日、世界人口の11%が飲料水にアクセスできないでいる。26%は基本的な水の衛生設備がなく、55%は排水処理つきの下水道システムと無縁な状態にあるという(WTO、2019年)」
……うーん……。
そして最後の「行動指針」には、次のことが書いてありました。
「(前略)循環型経済は、資源の持続可能な供給やエコデザイン、産業的・地域的エコロジー、機能性の経済などによるモノやサービスの生産レベルと同時に、責任をともなう消費や製品の寿命延長といった需要レベルともかかわる。循環型経済はまた、エネルギー転換の中心的な位置を占めており、より抑制的で持続可能な消費モデルへの転換を想定している。」
……先進国の人間として、私自身もリサイクルなどの循環型経済を推進し、より抑制的で持続可能な消費モデルへの転換を心がけたいと思います。
『地図とデータで見る資源の世界ハンドブック』。資源という面から、世界を解説してくれる本でした。とても参考になるので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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