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第1部 本
歴史
世界を変えた12の時計(ルーニー)
『世界を変えた12の時計 : 時間と人間の1万年史』2022/2/25
デイヴィッド・ルーニー (著), 東郷えりか (翻訳)
(感想)
日時計と古代ローマ、からくり時計とイスラーム、時計職人と産業革命、原子時計と21世紀の戦争……つねに歴史の転換点だった「時を計る」という行為を通して文明の核心に迫っている本で、主な内容は次の通りです。
第1章 秩序:紀元前二六三年、フォルム・ロマヌムの日時計
第2章 信仰:一二〇六年、ディヤールバクルの城時計
第3章 美徳:一三三八年、シエナ、抑制を表わす砂時計
第4章 市場:一六一一年、アムステルダム、証券取引所の時計
第5章 知識:一七三二-三五年、ジャイプル、サムラート・ヤントラ
第6章 帝国:一八三三年、ケープタウン、天文台の報時球
第7章 製造:一八六五年、ロンドン、ゴグとマゴグ
第8章 道徳:一九〇三-〇六年、ブルノ、電気時計設備
第9章 抵抗:一九一三年、エディンバラ、望遠鏡駆動の時計
第10章 アイデンティティ:一九三五年、ロンドン、黄金の電話機
第11章 戦争:一九七二年、ミュンヘン、ミニチュアの原子時計
第12章 平和:六九七〇年、大阪、プルトニウム時計
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「12の時計」をはじめ、次のような、さまざまな時計が登場します(フォルム・ロマヌムの日時計、アテネの「風の塔」、元朝の水時計、英領インドの時計台、アル=ジャザリーの「城時計」、プラハの天文時計、メッカ・ロイヤル・クロック・タワー、壁画「善政の寓意」の砂時計、アムステルダム証券取引所の時計、ジャイプル藩王国の「至高の機器」、喜望峰の報時球、ジョン・ハリソンの航海用クロノメーター、グリニッジ天文台の時計、イギリスの電話時報サービス、ビッグベン、GPS衛星の原子時計、1970年大阪万博のプルトニウム時計、スマートウォッチ、世界終末時計、ロング・ナウ協会の1万年時計など)。
「12の時計」というタイトルですが、これらの時計のカラー写真があるわけではなく、あまり解像度の良くない白黒写真が記事のそばに掲載されているだけなので、美麗な時計好きの方には、ちょっと期待外れかもしれません。実はこの本の原題は、「About Time: A History of Civilization in Twelve Clocks」で、「時計」というよりは、時計にまつわる「時」の概念や役割の変遷がテーマとなっています。
本書の「序文」には次のように書いてありました。
「本書は世界の歴史や政治、時に関する物語がいかに私たちの物語であるかということに関心のあるすべての人のためのものだ。ここでは一二の事例――過去にあった一二の実際の時計――を研究することで、何千年ものあいだに時がいかに管理され、政治に利用され、兵器とされてきたかを示す。時を使って、エリートたちは権力を振るい、金儲けをし、民を統治して暮らしを支配する。そしてときには、やはり時計を使って、民衆は抵抗する。こうしたことはいずれも抽象的な問題ではない。たどることのできる歴史をもつ実際の時計の物語であり、過去のきわめて重要な、ときには暴力を伴う時代を鮮やかに甦らせるものなのである。」
古代から近代まで(現代も?)、時計(時計台)は、権力の象徴となるものでした。
「世界各地の帝国において、高い塔から時刻を告げる光景と音は、人びとの暮らしを整然とまとめあげ、権力と秩序のメッセージを誇示し始めた。」
そして大航海時代や帝国主義の時代には、精密さを高めていったクロノメーター(機械式時計)が大活躍したそうです。それまでは航海中に自分の経度的な位置を知ることは難しかったのですが、正確な「時計」があれば、経度の計算が出来るようになりました。そして時計の世界的産地となったイギリスなどが、各地に時報設備を設置したのです。
「時報設備とクロノメーターをすべて世界地図に描いてみれば、時計がいかに帝国を可能にしたかが見えてくる」
「(前略)グリニッジが世界の時間と空間の起点になったのは、大英帝国が世界の大部分を植民地化し、海軍力を用いてそれを成し遂げたからなのである。海を支配した国は、世界を支配できるのであり、それは安全な測位ができるかどうかにかかっていた。」
……イギリスが海の支配者になったのは、「時計」の力もあったんですね! さらにこの「時計」の技術力が、産業革命で紡績機械を開発するのにも役立ちました。
その一方で、民衆は権力者からの抑圧に反発し、機械や時計台、天文台を破壊することで抵抗を示したこともあったそうです。
どうも時計のズル表示で労働時間を短くみせかけた(長時間労働をごまかした)工場主もいたようで……そういう使い方はダメですよね(怒)。
さて、個人的に一番参考になったのは、「第11章 戦争:一九七二年、ミュンヘン、ミニチュアの原子時計」。GPSは、小型原子時計が発明されたことで実用化されたようです。次のように書いてありました。
「各GPSはそのような(小型原子)時計を複数搭載しており、そのいずれもが光速で地球に向かって非常に正確な時報を発信している。GPS受信機は四基の別々の衛星から広く発信される時報を探す。それぞれの衛星は空の異なる場所に位置しているので、各衛星からGPS受信機までの距離はそれゆえに異なる。(中略)これらの微細な時差こそ、三辺測量と呼ばれる数学的手段を使って地球上のどこかにいるかを受信機が計算するのに必要なすべてなのである。」
「2020年現在、74基のGPSが打ち上げられており、それぞれに3台ないし4台の原子時計が搭載されている。(中略)いまでは、交通網や送電線、電気通信、測量、さらには農業、金融、気象観測、救急サービスまでもが、衛星時計が提供する時刻と測位・航法情報に依拠している。」
そして次のような恐ろしい事件もあったようです。
「2013年に、韓国の仁川国際空港の近くを飛行していた、少なくとも250機の民間航空機が、バックアップ用の測位システムに切り替えなければならなかった。これらの飛行機が利用していたGPSのサービスが北朝鮮付近から発せられたと思われる信号によって妨害されたためだった。妨害信号はじつに強力だったため、50キロほど離れたソウルでもGPS時計をもとに運用されていた携帯電話網を混乱させた。」
……妨害だけでなく、「敵がGPS信号になりすます」ことによる軍艦や誘導ミサイルへの影響も懸念されているそうです。まさに「私たちの現代の世界は衛星時計からの信号にあまりにも依存しているため、妨害やなりすましによる攻撃がおよぼす範囲は膨大だ」ですね!
そして最終章の「第12章 平和:六九七〇年、大阪、プルトニウム時計」では、一九七〇年大阪万博のタイムカプセルが登場してきました。これは、1970年12月7日に大阪で封印され、1971年1月20日に埋められたタイムカプセルで、プルトニウム時計のほかに、美術や文学や音楽、その他の人工物など2000点以上の物が入っています。この6970年(5000年後)まで開封しないでおくカプセルには、そっくりな内容物の入っているそっくりなカプセルがあり、下のカプセルは手つかずで埋められたままですが、上のカプセルは100年ごとに開けられ点検され再び埋められるのだとか! 日本にはこんな時計があったんですね……知りませんでした。6970年の人は、これを見て何を思うんでしょうか……。
「時計」や「時間が社会に与えてきた影響」を教えてくれる本でした。時間を効率的に利用したい私にとっては、時計はとても便利な道具ですが、こんなにも歴史や社会に大きな影響を与えてきたものだったんだなーと、あらためて痛感させられました。とても読み応えがあったので、みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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