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第1部 本
歴史
ゲームチェンジの世界史(神野正史)
『ゲームチェンジの世界史』2022/4/20
神野 正史 (著)
(感想)
繰り返される、泰平の世と激動の時代。人類は数々の「ゲームチェンジ」を経験してきました。休戦期を終わらせた「鉄器」、国の在り方を変えた「騎馬」、消費社会を生んだ「産業革命」、現代社会を築いた「フランス革命」……これらを世界史的観点から俯瞰することで、歴史や現代社会を考察している本で、主な内容は次の通りです。
第1章 農業
第2章 鉄器
第3章 一神教
第4章 紙と冊子
第5章 キリスト教
第6章 騎馬
第7章 仏教
第8章 帝政
第9章 活版印刷と宗教改革
第10章 中央集権体制
第11章 産業革命
第12章 フランス革命
第13章 総力戦
第14章 核兵器
第15章 インターネット
第16章 アニメーション
ゲームチェンジとは、「従来の枠組み・常識・ルールがまったく通用しなくなること」で、本書には、その10の原則が書いてありました。そのうち最初の5つを紹介すると、次のような感じです。
1)ひとたびゲームチェンジが起れば、二度と後戻りはできない
2)歴史の流れに逆らう者は、例外なく亡ぼされる
3)覇権(ヘゲモニー)国家は、ゲームチェンジとゲームチェンジの間の安定期に現れる
4)ゲームチェンジ前の非常識は、ゲームチェンジ後の常識となる
5)ゲームチェンジに必要なものは、「発明」ではなく「実用化」「普及」 など。
*
これらは神野さんが、「農業」「鉄器」など、歴史的な「ゲームチェンジ」から読み取ったもので、かなりの説得力を感じました。
この本は歴史書ですが、すごく分かりやすくて驚くほど読みやすいです。また歴史の読みとり方が明快で、日本人特有の曖昧さ(遠慮)が感じられず、読みながら、あれ、これ外国人の書いた本だったっけ? と筆者名を再確認してしまったほどです(苦笑)。
例えば「第8章 帝政」では、遊牧民の移動決定は命がけのため、個人では責任を取り切れず合議制になりがち(専制君主が生まれにくい)。一方、農耕民は計画的に作業が出来るだけでなく、治水などのために多くの労働力を一度に動かす必要もあるので、専制君主を必要とする、などの説明に、なるほど納得してしまいました。
また「第11章 産業革命」では、飛び杼の発明で織機の生産性飛躍的に向上したことから、関連する機械や技術がどんどん開発されていく繊維革命が起き、さらに大量生産のために輸送力(蒸気機関車、蒸気船)の交通革命が、そして鉄鋼革命が……とドミノ倒しのように全産業分野が引き上げられていったのが「産業革命」。この大量生産が国外の市場を必要とするようになって、海外植民地、さらに帝国主義へとつながっていった流れを再確認することができました。
……なるほど、こうやって「ゲームチェンジ」が、歴史に逆戻りできない一方通行の流れをつくってきたんだなー……。
でも、これらの解説の明快さに感心させられる一方で、「うーん、それはどうかなー」と疑問に感じる部分もありました。
例えば「第7章 仏教」には、「まったく異なる文化圏の文化・宗教・価値観を理解するのはほとんど不可能」とあり、その例として、「道(柔道、剣道、華道など)」という日本独特の理念があるが、外国人はそれを理解できず、自分の文化圏のよく似た概念に置き換えてしまう。柔道などの「道」は、本当は「競技や稽古を通した精神修養」だが、外国人は柔道を「勝敗を競うスポーツ」だと考えてしまう、と書いてありました。
これは確かにそういう面もありますが、現代の日本人も、柔道などを「スポーツ」と考える人の方が多いのではないでしょうか。それに、それが悪いことだとも思いません。どうしても勝敗を競わない「道」に戻したいなら、メダルを争うオリンピックなどの競技からは撤退すべきではないのかな……。
……この他にも、うーん、そこまで言い切って良いものだろうか、と考えさせられる部分がいろいろありました。そういう意味で、この本は「歴史の教科書」を一通り学んだ後に読むべき本だと思います。知識がない状態で無批判に受け入れてしまうのは心配ですが、一応、すでに教科書的な歴史の流れの基礎知識を踏まえた人が読むと、「そういう考え方もあるか」と新しい視点を見つけられ、考えを深めることが出来るからです。
さて、「あとがき」には、「ゲームチェンジの時代を生き抜くには」として、次のように書いてありました。
1)今我々が「ゲームチェンジ」の只中に生きていることを歴史から学び、肝に銘じる
2)つねに社会の動きにアンテナを張り、何が「新」で何が「旧」かを考える
3)常に「旧」からは距離を置き、いざ事を起こすときには「新」に向かって舵を切る
4)自分で新旧の判断がつかないときは、自らは動かず、時代の波を読み、これに乗った者に付いていく
……この最後の4の生き方も「あり」としていることに優しさを感じます(笑)。現実的ですね!
そして「第16章 アニメーション」では、今後は「軍事力」ではなく「文化力」が大事だと言っています。
「国民国家でありつづける以上、21世紀以降も「輿論を制した者が勝つ」という原則は変わりませんが、政治喧伝が通用しなくなってくる21世紀は、どうやって輿論を味方に付ければよいのでしょうか。
筆者は、それは「文化力」になるのではないかと推察しています。(中略)つまり、21世紀は「軍事力」ではなく「文化力」で競う時代になるでしょう。」
「そうした「文化力」を武器として国際的な支持を集めることができた国が「21世紀新時代の盟主」となり、その盟主を中心とした国際秩序が築かれていく時代となるのではないでしょうか。」
……私自身も、「軍事力」ではなく「文化力」を中心とした国際秩序が築かれていくことを願っています。
とても分かりやすいだけでなく、新しい視点を与えてくれる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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