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第1部 本
科学
世界を変えた実験と研究(齋藤勝裕)
『世界を変えた実験と研究 歴史と失敗から学ぶ大発見のヒント (知りたい! サイエンス) 』2022/8/26
齋藤 勝裕 (著)
(感想)
感染症、戦争、エネルギー問題など、人類を幾度となく悩ませてきた課題は、現代でも私たちを脅かしています。科学者たちはそのたびに、実験や研究を通して解決の糸口を探してきました。歴史に残るような大発見もあり、数えきれないほどの失敗もあり……そんな実験と研究の歴史を紹介してくれる本です。
子供の頃からの科学好きなので、この本に掲載されている大発見などはほとんど知っていたのですが、知らなかったこともありました。
例えばワクチンの最初の例と言われるジェンナーの牛痘(牛のウイルス)は、実際には馬のウイルスだったのではないかと言われているそうです。実は牛痘ウイルスには天然痘の抗体を作らせる能力はないのだとか……そうだったんだ……。
また有名な「キュリー夫妻の放射性元素の実験」は、次のように意外なほど地道に進められたものだったことに驚きました。
「この頃の新元素発見の手段は、現在の化学科の学生が学生実験で行う陽イオンの定性分析と同様のものです。その概要は、金属は溶液中では陽イオンとして存在し、その陽イオン(例えばA)は特定の沈殿試薬(例えばa)と反応して個体(Aa)となって反応容器の底に沈みます。このAaを濾過して除き、ろ液に次の沈殿試薬bを加えると陽イオンBがBbとなって沈殿します。
このようにして既知の陽イオンを全て沈殿として除いてしまうと、いよいよ最後に残ったろ液の中に新元素が隠れている(かもしれない)のです。このろ液に新しい沈殿試薬を加えて沈殿が生じたら、それには新元素が含まれているかもしれません。
このような地味な実験を連日繰り返して、キュリー夫妻はラジウムRaとポロニウムPoという放射性元素を発見したのです。」
また面白かったのが「第4章 失敗と実験」の電気を通すプラスチック(ポリアセチレン)の話。ポリアセチレンの合成実験中に、誤って通常の1000倍の触媒を使ってしまったら黒い薄膜ができて、それこそがポリアセチレン! だったのですが……残念ながらこれは電気伝導度が低くて期待はずれだったようです。ところがその後、電気伝導度が低いのは、「電子が多すぎるからではないか」という発想が生まれて、求電性のあるヨウソを微量添加するという化学ドーピングを行ったら、ポリアセチレンの電気伝導度が一気に1千倍増加して、ついに導電性高分子ポリアセチレンの発見につながったのだとか!
そしてすごく興味津々だったのは、やっぱり「第8章 最先端技術と実験」。いろいろな最先端技術の紹介がありましたが、なかでも面白いと感じたのは、「クラウンエーテル」の話。ちょっと長いですが、以下に紹介します。
「クラウンエーテルのクラウンは王冠、エーテルは炭素化合物が酸素原子で繋がった構造をいいます。(中略)ただし、この構造を立体的にみると、酸素原子で折れ曲がっているため、まるで王冠のように見えます。そのため、このような名前が付いたのです。
この分子で大切なのは、電子を引きつける力の大きな酸素原子がところどころに存在していることです。そのため酸素原子がマイナスに荷電し、炭素部分はプラスに荷電することになります。
ここにプラスに荷電した金属イオンM+が来ると、M+はまるでクラウンエーテルに抱きかかえられるようにスッポリと環内にはまり込んでしまいます。この性質を利用して水溶液中の各種金属イオンから特有の金属イオンだけを選択的に取り出すことが可能になります。
つまりナトリウムイオンNa+のような小さいイオンを回収したい場合には、小さなクラウンエーテルを、ウランイオンU6+のように大きいイオンを回収したい場合には、大きなクラウンエーテルを使えば良いのです。」
うわー、なんか面白いですね! この技術は、もしかしたら海水からのウランの回収などに役立つかもしれないそうです。
「世界を変えた実験と研究 歴史と失敗から学ぶ大発見のヒント」を教えてもらえる本でした。楽しく科学の歴史を学ぶことが出来るので、興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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