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第1部 本
科学
世界の見方が変わる元素の話(ジェイムズ)
『世界の見方が変わる元素の話』2022/8/2
ティム・ジェイムズ (著), 伊藤 伸子 (翻訳)
(感想)
周期表に収まる元素のそれぞれには、さまざまなドラマがある……ときに可笑しく、ときに真面目な逸話を教えてくれる本です。
とても勉強になったのが周期表の話。メンデレーエフの周期表が最初かと思いきや、それより前にニューランズさんという人が、音楽のオクターブに倣って、元素を並べていく7つの繰り返しカテゴリーを思いついたそうです。が、これは残念ながら、うまくはいきませんでした。
その後、メンデレーエフさんが、元素の性質を書いたカードを作って並べ替えを続けた結果、元素は原子量順に並んでいて、まだ隠れている元素があることを見抜いて、周期表のもととなるものを作ったのです。
そして「シュレディンガー方程式」も重要な役割を果たしました。この部分、個人的にとても勉強になったので、その一部を以下に紹介します。
「シュレディンガー方程式は、原子核のまわりを勢いよく回る電子の位置を教えてくれる。まず電子の性質(質量や速度など)を把握し、次に、対象の原子では陽子からどのぐらいの引力があるかを突き止める。
ある原子についてシュレディンガー方程式を解くと、電子が存在するであろう位置と、空間で電子が描くパターンを三次元の地図のように図示できるのである。
すると、電子が円軌道など描いていないことがわかる。電子は原子核のまわりの領域をさまざまな形を描きながら回っている。」
「特定の形の軌道が生じるのは、電子の動きに波のような性質があるからだ。電子はビリヤードの球のように単純な直線を進むのではない。ある地点から別の地点へ移動する際にはどうやらさざ波のように振る舞うらしい。波は決まった形でしか現れないので(たとえば、波を半分にはできない)、電子の軌道も特定の形になるというわけだ。」
「元素の各縦列は、決まった軌道の形を持つことを意味する。唯一違うのは、下の列にいくにしたがって軌道が大きくなるだけだ。」
……周期表に元素を当てはめていく時には、シュレディンガー方程式を使って、電子の軌道の形で分類していくと、うまくいくようです。
「最終的には、シュレディンガーの電子軌道の研究とメンデレーエフの化学的性質の研究の両方を認めるという形で、おおむね合意が得られた。
つまり、ふたりの考えを汲み、水素とヘリウムを分けて、それぞれ周期表の端と端に置いたのだ。論理的な判断ではないかもしれないが、周期表をつくりあげたふたりの人物にふさわしい贈り物だ。こうして、私たちは周期表を手に入れたのだ。」
なるほど……周期表は多くの人々の努力の結果、今の形になったんですね。
この他にも、原子核の構造など、とても参考になることをたくさん読むことが出来ました。例えば、次のような感じ。
「電子は間違いなく、原子核に近い軌道に入りたがる。原子核は電子と反対の電荷をもっているからだ。とはいえ、必ずしも望み通りの軌道に入れるわけではない。最も内側の軌道に電子がすでに入っていたら、外側の軌道に入らざるを得なくなる。
原子というのは、活発で騒々しい場所だ。そこでは、原子核に最も近い軌道が一等地とされ、どの電子もその一番いい軌道に移動したがっている。もし、内側の軌道にいる電子が何らかの理由で立ち去ったら、外側の電子が量子飛躍してその軌道に入る。
しかし、量子飛躍は無秩序に起こるわけではなく、次のような化学の法則に従う。「電子は光を吸収すると、外側の軌道に追いやられる。光を放出すると、その電子は内側の軌道に落ちてくる。
光が電子に与える刺激の大きさは、光の種類によって異なる。青色の光が電子を刺激して遠く離れた軌道まで追いやるのに対して、赤色の光はひとつだけ外側に移動させる。同じように、遠く離れた軌道の電子は内側の軌道に落ちるとき青色の光を放出し、すでに原子核の近くにいる電子は赤色の光の放出する。
以上が、花火が光り、分光法が機能する仕組みである。原子にはそれぞれ特有の軌道の並び方があるため、原子ごとに固有の光スペクトルを放出したり吸収したりする。電子が軌道から軌道へ跳び移ると、跳んだ距離によって光の種類が決まり、移動する向きの応じてその光が放出あるいは吸収される。」
「原子核は不安定な構造になっている。陽子は電子を所定の場所にとどめているが、その一方で陽子同士は反発するため、陽子をくっつける中性子が必要となる。
原子番号が80番台後半までくると、原子核の内部でのバランスが崩れ、原子核が壊れる現象が起こる。(中略)
元素を原子番号の順に上がっていくと、陽子の数が増えるにつれて中性子の数も増え、陽子をひとつにまとめようとする。ところが、ここにやっかいな問題がある(いつものこと?)。陽子間に生じる反発する力(斥力)は無限だが、中性子のもつ、くっつける力には限界があるのだ。
つまり、原子番号の大きな原子では、遅かれ早かれ斥力が勝つ、いつ壊れてもおかしくない構造となっている。原子番号の大きな原子ほど壊れやすく、長い時間放置すると崩壊するのである。(中略)
ある元素が崩壊してできた新しい元素の原子核には、その元素が本来もっていない数の中性子が含まれていることが多い。このような「娘」粒子は、放射性崩壊によってのみつくられるので、岩石に含まれる親原子核と娘原子核の量を調べると、その割合から、原子核のもともとの量やその岩石ができた時間を割り出せる。」
……こんな感じに、元素について、面白いエピソードをまじえながら、みっちり教えてくれる本でした。分かりやすくて勉強になるので、興味のある方はぜひ読んでみてください☆
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