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第1部 本
地質・地理・気象・地球環境
南極の氷に何が起きているか(杉山慎)
『南極の氷に何が起きているか-気候変動と氷床の科学 (中公新書, 2672)』2021/11/18
杉山 慎 (著)
(感想)
人類が直面する海面上昇の危機、そのカギを握る南極の最新動向を、南極や北極, パタゴニア等で大規模な氷床・氷河の調査を主導している杉山さんが、分かりやすく教えてくれる本です。
南極の氷床の変動について、次のことが明らかになってきたそうです。
1)最新の観測技術によって、南極氷床で氷が減っていることがわかった。
2)この変化は沿岸部(西南極、南極半島、東南極の一部)に集中している。特に大きいのは流れが速い氷河・氷流である。
3)温暖化で氷床表面の融解が増えて、表面質量収支がマイナスになったわけではない。氷河の加速によって海へと排出される量が増えたことが、変化の原因である。
4)氷の減り方が激しい地域に共通しているのは、棚氷の縮小である。棚氷の崩壊で接地線が後退し、内陸の氷河が加速している。
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意外なことに「温暖化で氷床が溶けた」ことが氷床現象の直接の原因ではなく、棚氷が崩壊していることが原因のようです。そしてその原因は「海の熱による浸食」なのだとか。
「南極を取り巻く海水の温度は、数十年というスケールで上昇傾向にあり、海の熱が棚氷を侵食しているのだ。さらに大気の状態、とくに風が強くなることによって、棚氷の下へ周極深層水がより強く流れ込んでいる。」
実は、南極氷床の体積は、地球に存在する氷河全体の約9割(残りのほとんどはグリーンランド氷床)に相当しているそうで、その氷床が溶けることで、海洋には、海水準の上昇や、地球規模で流れる海の流れ(冷たい淡水の供給による海水の塩分と温度の変化)への影響が、そして大気には地球規模の大気循環への影響が、さらに地殻にはアイソスタシーによる地殻変動(重みの変動によるマントルの上下動)への影響があるのだとか。
南極の氷床の変化は、地球規模での海洋や大気の循環、地殻変動へ影響を与えているんですね!
もちろん地球温暖化にも、さまざまな影響を与えています。
「南大洋で起きている南北・鉛直方向の循環は、私たちが直面する温暖化にとって二重の意味で重要だ。その理由のひとつは、海水が大気の熱を吸収して、海の底に沈めてしまう効果を持っているからである。
また、南極の海が吸収するのは熱だけではない。温暖化の主要因である二酸化炭素を溶かし込んで、海中に固定する役割も果たしている。
なぜそんなことがでいるかといえば、湧き上がってくる周極深層水が、長期間にわたって大気と隔絶されて深海を流れてきた海水だからだ。(中略)最近の気候変動を知らないこの海水は、現在の大気から熱と二酸化炭素を吸収する余地を残しているわけだ。」
また南極氷床の氷コアを分析することで、気温や大気成分など、過去の地球環境を復元できるそうです。次のように書いてありました。
「たとえば氷の中に含まれている不純物を分析すれば、その氷ができたころに大気中を待っていた塵(微粒子)の量と成分がわかる。また、雪が圧縮されてできた氷には当時の空気が含まれているので、それを取り出して分析すれば、二酸化炭素濃度が復元できる。さらに氷を形成する酸素原子と水素原子には、少し重さの違う「同位体」が含まれていて、その割合は雪が降ったときの気温で決まる。その関係性を使えば、同位体の割合から当時の気温が推定できる。」
氷コアから復元された過去80万年にわたる記録によると、南極の気温は周期的に変化し、概ね10万年ごとに比較的暖かい気候が現れてきたそうで、特に40万年以降は驚くほど規則正しい変化を示したきたのだとか。
そして南極の過去の変動、現在の状況をふまえて、今後の氷床変動を予測するには、次のことに留意する必要があるようです。
1)海水準に関して100メートル以上に相当する氷床変動が過去に起きている。しかもその変化は1~2万年のうちに起こり、海水準の上昇速度は毎年1センチメートルに達した。
2)現在の地球環境は過去に類を見ない異常な状態であり、このことが氷床の将来予測を困難にしている。
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南極の氷床は、地球温暖化の観点からも注目されているので、世界各国が今後の予測をしています。どの予測も海水準の上昇(氷床の縮小)への方向性を示しているのですが、その大きさは研究によってまちまちなのだとか。
最新の報告書が伝えるメッセージとして、杉山さんは次のように受け取ったそうです。
「地球の気候は急な坂を転がり落ちており、もうその変化を喰いとめることはできない。ただしその変化に少しでもブレーキをかけることは可能であり、それには社会全体の真剣な対策が必要不可欠である。」
また杉山さんは、次のように言ってもいます。
「人工衛星技術を活用した氷床変動の正確な測定、現地観測に基づいた各プロセスの正確な理解、さらにそれらの知見に基づいた精緻な氷床モデルの構築。これら三位一体の取り組みが重要なのである。」
今後の地球環境を予測するために、「地球モデルシステム」の開発(大気、海洋、陸だけでなく、そこに生物が活動して炭素が循環する「システム」としての地球の再現が期待されている)が進められているそうです。これらの科学的な取り組みで、地球環境の実情把握や予測が向上していくことを期待しています。
さて、氷床の将来予測を考えるために重要な三つの不確定性は、「温室効果ガスの排出量」、「気候モデル」、「氷床モデル」だそうです。このうち人間にコントロールできる唯一の不確定性は「温室効果ガスの排出量」だけ……地球環境を悪化させないよう、私自身も温室効果ガスの排出削減を心がけたいと思っています。
『南極の氷に何が起きているか-気候変動と氷床の科学』を、とても科学的・総合的に教えてくれる本で、とても勉強になりました。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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