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第1部 本

生物・進化

魚食の人類史(島泰三)

『魚食の人類史: 出アフリカから日本列島へ (NHK BOOKS)』2020/7/27
島 泰三 (著)


(感想)
 魚食こそが人類拡散の原動力だった……出アフリカから日本列島へと至る「大逆転の歴史」をベテランの人類学者が深く考察している本です。
 サルなどの霊長類はあまり魚を食べませんが、私たちホモ・サピエンスだけは積極的に魚を食べます。それは私たちホモ・サピエンスが、ライオンなどの肉食獣だけでなく、ホモ・エレクトゥスやネアンデルタール人など他の人類よりも「弱かった」ので、生存戦略として仕方なく選んだものだったのかもしれません(初期人類の歯と手指を使って食べるのに適したもので、他の動物たちが利用しておらず、しかも十分な量がある食べ物は何か=魚)。
 実際に初期人類が魚食をしていた痕跡として、195万年前のトゥルカナ湖の地層から、人間の加工痕のある魚類の骨が確認されているそうです。
 ということでホモ・サピエンスは、果実、植物の葉、昆虫、ライオンなどの食べ残しの骨や肉のかけらの他、草原の湖にいる魚を食べていたのですが、氷河期になってアフリカが乾燥し不毛になっていったとき、食べ物を求めて仕方なく「筏で海へ」乗り出したのでしょう。実は、筏は浮いている島となって周辺の生き物を集めやすいという性質があり、他の人類に体格負けしていた華奢な体格は、泳ぎや潜水に適していました。だから、私たちは新天地を「海」に求めても、生き延びやすかったのです。
 こうして人類(ホモ・サピエンス)は、「魚食」によってホモ・エレクトゥスやネアンデルタールら陸の王者との競合を避け、アフリカから拡散していく過程で、飢えを満たし、交通手段を発展させ、新たな文化を生み出していった……これが『魚食の人類史: 出アフリカから日本列島へ』の中核となっています。
 とても説得力のある考察のように感じました。魚食は「ドライビング・フォース」、すなわち人類の知的活動の元になるものだそうです(魚に豊富に含まれるDHAなどが脳神経の膜構造に使われる必須脂肪酸。魚に含まれる脂肪酸やヨウ素も必須の栄養素)。
 この本では、その他にも「農耕は中近東メソポタミアではなく東南アジアから始まった」ことが書いてありました。東南アジアに進出したホモ・サピエンスは、海岸で海の幸、森で主食となる植物群(サゴヤシ、サトウキビ)を得られました。東南アジアは、食の面では、ホモ・サピエンスにとって圧倒的に有利な場所だそうです。
 ニューギニア高地の4万9000から4万4000年前の遺跡で、当時の人々がヤムイモやパンダナスなどの植物を利用していたこと、そのために森林を切り開いて耕作をしていたのが確認されたそうで、ヤムイモなどの根菜の栽培は、水稲耕作よりもはるかに古い起源を持っているのだとか。……麦や稲のように「加工して食材にする」ものよりも、そのまま食べられるイモの方が、最初の農耕には適しているような気がします。(ただし実は、根菜のうち食用になるのはヤマイモなどわずかなもので、多くは有毒でそのままでは食用にならないという問題があるようですが……)。
 また、過去の生物がどんな食べ物を利用していたのかを、科学的に分析する方法についても知ることが出来ました。
「過去の動物が摂取した食べ物を、遺跡に残された骨のコラーゲンの窒素と炭素の同位元素の割合によって明らかにしようという研究は、20世紀後半から始まった。さらに最近では骨の構成物質であるハイドロキシアパタイトに含まれるカルシウム対ストロンチウム、カルシウム対バリウムの割合を分析することによって、ネアンデルタールの食物における植物や水棲動物(魚介やアザラシなど)の割合を調べる研究が始められている。」
 ……こういう科学的分析が進むと、進化の歴史がより正確に分かっていきそうですね!
「魚食」に注目した人類史を語ってくれる本でした。大昔の人類(ホモ・サピエンス)というと、毛皮をまとってチームを組んで、マンモスや大ジカと鎗で戦うイメージ(肉食・果実食)のイメージしかありませんでしたが……むしろ草原に点在する浅い湖(沼)で魚を捕っていることの方が多かったのかもしれません。
「魚食」は我々にいろいろな意味で「ドライビング・フォース」を与えてくれた……人類進化の歴史に新しい視点を与えてくれる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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