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第1部 本
教育(学習)読書
動物行動学者、モモンガに怒られる(小林朋道)
『身近な野生動物たちとの共存を全力で考えた! 動物行動学者、モモンガに怒られる』2022/4/25
小林 朋道 (著)
(感想)
目をあけて眠るアカネズミ、公衆トイレをつくるタヌキ、孤島に1頭で生きるシカ、ハエに血を吸われるコウモリ……野生動物たちのユニークな生態と、野生動物を好きすぎる小林さんのほのぼのした(?)日常、彼らとの共存のあり方までを語り尽くした奮闘動物エッセイ集で、内容は次の通りです。
1.アカネズミは目をあけて眠る
2.動物行動学者、モモンガに怒られる
3.スナヤツメを追って川人になる
4.負傷したドバトとの出会いと別れ
5.小さな島に一頭だけで生きるシカ
6.脱皮しながら自分の皮を食べるヒキガエル
7.タヌキは公衆トイレをつくる
8.コウモリにはいろいろな生物が寄生している
9.ザリガニに食われるアカハライモリ
すごく心に残ったのが、「4.負傷したドバトとの出会いと別れ」のエピソード。大学の図書館の窓ガラスにぶつかって、翼に大ケガをして飛べなくなったドバトを保護して、九年間ともに暮らした話なのですが、こうした動物を救助すると、ヒトは幸せを感じるのだそうです。
このような「幸せ感」を感じる理由として、小林さんは、私たちホモサピエンスの脳内に組み込まれている「生物専用機能回路系」と「擬人化志向」が働くからだろうと語っていました。
「ホモサピエンスの進化史の九割以上を占める狩猟採集生活に進化的に適応したヒトの脳は、生活上の種類が異なる複数の課題(生物に対する認知や対処、対人的な認知や対処、道具や居住地などの物理的なものに対する認知や対処、等々)に直面しながら生きる上では、「それぞれの種類の課題に専門的に作動する脳の回路系」を持っているほうが有利だろう。」
そして脳の認知、対処能力としてよりよい戦略とは、
「「生物」「人」「物」の基本特性は脳内にあらかじめ(遺伝的に)プログラムとしてセットしておき、そのうえで、さまざまな「生物」に応じて彼らの性質(習性)を学習し、さまざまな「人」の性質(個性)を学習し、さまざまな「物」の性質(物理特性)を学習するやり方だろう。」
保護したドバトとの暖かいふれあいのなかで、小林さんは自分の「生物専用機能回路系」活性化されたことが嬉しかったそうです。
また同時に生物を「擬人化して考えがち」な特性も、生物とのリアルなふれあいのなかで活性化され、対人的な健康な心理も育まれるのだとか。……生き物を「飼う」ことには賛否両論あるとは思いますが、少なくとも保護を必要とする生物を救うことは、その生物だけでなく、私たちの心身も健康にしてくれる素晴らしい活動ではないでしょうか。
また「3.スナヤツメを追って川人になる」では、堰の工事のために、樋門前の水場環境が壊されることを知って、市役所に交渉。残念ながら水場の破壊は止められませんでしたが、アカハライモリを中心にした動物を工事の前に採取して、一時期、大学で飼育し、工事終了後に元の場所に戻したそうです。もちろん「元の場所」はすでにないので、元の場所のに、自然環境に近い水場を新しくデザインして追加工事で作ってもらったようですが。……こういう活動は、身近な生物多様性を守るために、とても役に立つことですね!
この他にも「1995年、生態系が崩れていたイエローストーン国立公園にハイイロオオカミを導入する試みが行われたことによって、大地に緑が回復し、野ネズミ類、ウサギ類なども回復した」とか、「少産多保護戦略は、子どもにとって餌が得られにくい環境で進化し、多産少保護戦略は、子どもにとって餌が得られやすい環境で進化する」とか、勉強になる話題がたくさん。ヒキガエルが脱皮するなどの、知らなかった話もありました。
「ヒキガエルも脱皮する。その皮には重要な栄養分が含まれており、食べることによってその栄養分を吸収するのだ。
脱皮は時間がかかるので危険な行為でもある。じっと脱皮しているとき何者かに襲われる可能性もある。そんなときのために、少しでも相手が補食をためらうように、背中のイボから毒物質を分泌しているのだ。」
……へー、そうだったんだ。
さて、本書の「おわりに」で、小林さんは次のように言っています。
「(前略)私の基本的な意見はずっと一貫している。
われわれは科学の力をフルに使い、変えてはならない本能は変えることなく、それと合致する環境を維持し、調整すべき本能は調整し、本能にはない新しい規範もつくりながら、これからの人類史をつくっていかなければならない。」
……人類は人類だけで生きていけるわけではありませんし、豊かな自然環境や多様な生物との相互関係のなかで生きていくのが、より幸せなのだと私も感じています。私自身も必要以上に自然環境を破壊しないよう、今後も心掛けていきたいと思います。
さまざまな動物たちの面白いエピソードに笑いながら、生物の知識も学べるという「美味しい本」でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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