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第1部 本

歴史

「無人戦」の世紀(フランツマン)

『「無人戦」の世紀:軍用ドローンの黎明期から現在、AIと未来戦略まで』2022/3/15
セス・J・フランツマン (著), 安藤 貴子 (翻訳), 杉田 真 (翻訳)


(感想)
 冷戦期から実戦投入の時代、そしてAI化・群体化したドローン戦の未来まで、データに裏付けられた情報をもとに、ドローンによる無人戦について詳しく紹介してくれる本です。
 この本の「エピローグ」に本書の概要という感じの文章があったので、ちょっと長いですが紹介します。
「イスラエルが開発し、その後アメリカで根本的な変化を遂げたドローンは、今は世界各地で急速に普及している。武装ドローンの使用を阻止しようとしていた活動家たちは、もはや時代遅れだ。イラン・イスラム革命防衛隊ゴドス部隊のカセム・ソレイマニ司令官に対する攻撃のように、殺害目的で武装ドローンが使用されることに対して、国連がどんなに懸念を表明しようとも、武装ドローンが廃れることはないだろう。本当の興味は、軍隊は何機のドローンを保有するのか、それらにどの程度のAIが搭載されるのか、それらはハイエンドかつ高価なドローンであって、捨て駒扱いしてはいけないものなのか、あるいは、それらはドローン・スウォームを構成して、小型爆弾や巡航ミサイルに近い使い方をされるのか、ということだ。」
「(前略)この種の国際的なルールに基づいた世界秩序の変化にともない、ドローンはその名を知らしめることになった退屈で、汚く、危険な仕事をさらに任されるようになるだろう。ドローンは、どんな場所ででも攻撃することができ、人命を危険にさらすことなく消えることができる能力を持っているから、そのユーザーに「もっともらしい否認」を与える。ほどなくして、今以上に多くのステルスドローンが使用され、戦場に変革がもたらされるだろう。(中略)
 ドローンをあらゆる作戦やサービスに完全に垂直統合した最初の国は、優位に立つことができるだろう。また、イランのようなドローン攻撃を試みる国々は、強国に対して本物の脅威をもたらし得るだろう。それは防衛が十分でない国家インフラや機密区域に対して、あらゆる場所から攻撃をしかけることができるという脅威である。装甲艦、戦車、さらには船を沈めた最初の航空機のように、ドローンはこの破壊的な軍事技術を軍隊に提供する。(中略)ドローンスウォームやAIや完全な垂直統合の準備ができていない国々は、自分たちが新世界秩序の負け組にいることに気づくかもしれない。」
   *
 ……ドローンは急速に普及しつつあり、私たちの平和な国・日本でも「民間用ドローン」が空を飛び、絶景などの空撮だけでなく、被災地の状況をリアルタイムに見せてくれますが、「戦地」で使われている「軍用ドローン」はそれとは桁違いの機能をたくさん持っています。
 しかも軍用ドローンは、すでに戦場の「主役」となりつつあるそうです。「はじめに 恐怖の街」には、次のように書いてありました。
「ドローンの主要ユーザーである軍や治安当局向けの無人航空機(UAV)市場も拡大を続けている。2020年までに使用された軍用ドローンの数は2万機を越えた。」
「ドローン戦争は単なる機械の話にとどまらない。それが引き起こすのは、1990年以降世界の超大国として君臨したアメリカと、中国、インドといった勢いのある国々とのパワーバランスの変化の問題だ。ドローンの発展はアメリカが世界で展開してきた対テロ戦争と密接に関係していた。現在では紛争の火元は米中、米イランの対立へと移り、それに伴いドローン戦争も変わっている。世界じゅうで、今やドローンが真価を発揮しつつある。」
 この本は、2017年のイラクでのイラク軍とISISの戦いの中で、ドローンや銃声が飛び交うモスル市でフランツマンさんが体験した状況描写から始まります。戦地でのドローンへの恐怖をまざまざと感じさせられました。軍用ドローンは偵察だけでなく、攻撃にも絶大な威力を発揮するのです。
 本書はそんなドローンの開発された経緯、機能、ドローンからの攻撃をいかに防ぐか、各国のドローン競争、AIや未来戦略など、軍用ドローンについて総合的に知ることができます。
 ちなみにイスラエルを抜いて軍用ドローンのトップ輸出国になっている中国は、アメリカのような万能型ドローンではなく、用途を絞ったさまざまな種類のドローンを作ることを選択しているそうです。戦闘機とは違って小さく安価に製造できるドローンなのだから、中国の戦略の方が現実的なのでは? と思ってしまいました。高価な万能型ドローンだって(もしかしたら戦闘機ですら)、安価な単機能ドローンの大群(ドローンスウォーム)に襲われたら、ひとたまりもないような……大群に囲まれて自爆されたら、どうしようもないですよね。中国のドローンは見事な連携ができることを各種の大会のショーで証明していますし……(ドローンスウォーム=無線アドホック・ネットワークを用いて戦場で有人部隊、無人部隊の両方をサポートする、半自律型ドローン集団のこと)。
 軍用ドローンは、確実に今後の戦争のあり方を変えていくのでしょう。次のように書いてありました。
「(前略)貧しい国、あるいは反乱者や過激派はドローンによって「インスタント空軍」を保有できる。一方大国は、ドローンを使うことで戦場に兵士を派遣せずに軍事作戦を遂行することができ、犠牲者を大幅に減らすことができる。この両極端のドローンの使い道のあいだには、ドローンを軍隊に組み込んでさまざまな場面で使用するという方法も存在する。軍隊が多くの戦術的ドローン、携行型ドローン、徘徊型ドローン、航空機のような働きをする大型ドローンを保有するにつれて、ドローンはその潜在力を発揮することになるだろう。」
 ……日本もこの流れに後れをとらないで欲しいとは思いますが、平和憲法を遵守している日本は軍用ドローンを作ることはせず、災害や民間での活用を推進していくのが現実的なのでしょう。また「それ(ドローン)は防衛が十分でない国家インフラや機密区域に対して、あらゆる場所から攻撃をしかけることができる」ので、攻撃してくるドローンから防衛するための防御システムの開発は進めていくべきだと思います。
『「無人戦」の世紀:軍用ドローンの黎明期から現在、AIと未来戦略まで』……軍用ドローンのもたらす恐怖や、その歴史、さらには未来戦略までを紹介してくれる本でした。ドローンなどの技術に興味がある方はもちろん、未来の社会(特に安全保障)に興味がある方もぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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