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第1部 本

生物・進化

人類の起源(篠田謙一)

『人類の起源-古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 (中公新書, 2683)』2022/2/21
篠田 謙一 (著)


(感想)
 古人骨に残されたDNAを解読し、ゲノム(遺伝情報)を手がかりに人類の足跡を辿る古代DNA研究は、近年、分析技術の向上によって飛躍的に進展をとげています。30万年前にアフリカで誕生したホモ・サピエンスは、どのように全世界に広がったのか。旧人であるネアンデルタール人やデニソワ人との血のつながりはあるのか……最新の研究成果から起源の謎を解き明している本です。
「古代DNA研究は、集団成立のシナリオを明らかにするだけではなく、環境や病とヒトとの関係を解き明かすポテンシャルも持っています。(中略)DNAの変化を追うことで、ヒトが生物としてどのように環境に適応してきたのかを明らかにすることができるのです。」
 ……アフリカで誕生したホモ・サピエンスが、どのように世界じゅうにひろがっていったのか、この本は、古代DNA研究などの証拠から詳しく解説してくれます(とはいっても、まだ推定レベルのものもあるようですが……)。その話はあまりにも多岐にわたっているので、ここでは紹介しませんが、古代DNA分析技術はどんどん進んでいるようなので、その一部を以下に紹介します。
 まずは、なんと「洞窟の堆積物からミトコンドリアDNAを抽出」できたという話。
「(前略)洞窟の堆積物からネアンデルタール人のミトコンドリアDNAを抽出することに成功したのです。遺物が出土して、そこに古代人が住んでいたことが分かっても、人骨が出土していない洞窟は数多く存在します。そうした洞窟の土壌からゲノム情報を得ることができれば、この分野の研究が大きく進むことが期待されます。」
 ……これは凄いですね! でも……真偽やノイズが懸念されてしまいますが……。
 また他にも、いろいろな方法が……。
「破片になっていて、形からは種が同定できない生物種のコラーゲンのアミノ酸配列を、質量分析計を用いて同定していく研究はZooMS(ズーマス)と呼ばれており、動物考古学の分野に革命的な進展をもたらしています。実際には、骨の中にあるコラーゲンタンパク質は、ペプチドというアミノ酸が何百個も連なった小さな化合物です。動物のタイプが違うとペプチドの特徴もわずかに異なるので、正体不明の骨が持つペプチドの特徴を、既知の動物のものと照らしあわせることによって、動物の科や属、時には種まで突き止めることができます。」
「(前略)古代のDNAでは、長い年月をかけてDNAが分断し、変性していくときに、このメチル化を受けている部分とそうでない部分で変性の仕方が変わってくることが明らかになっています。この性質を利用して、デニソワ人のDNAメチル化地図が復元されました。それをホモ、サピエンスのメチル化地図と比較して、細胞内のDNAの働きの違いが推定されています。」
「ホモ・サピエンスの持つ言語能力に関係するといわれているFOXP2遺伝子を取り囲んでいるゲノム領域では、ネアンデルタール人由来のものがまったく見られないことが判明しており、そこから言語に関する遺伝子領域が、ネアンデルタール人と私たちに違いを生み出している可能性も指摘されています。」
「ホモ・サピエンス集団の中で、ネアンデルタール人由来のゲノム領域は世代を経ることに断片化されていきます。したがって祖先の持つネアンデルタール人ゲノム断片のほうが子孫のものより長くなります。この性質を利用すると、断片の長さからホモ・サピエンスとネアンデルタール人の交雑の時期を計算することができます。」
「次世代シークエンサを使った古人骨の分析では、その人骨の持つすべてのDNAを解析することになります。ですから、その人物が持っていたヒト由来のDNAだけではなく、細菌やウイルスのDNAもデータとして取得できます。古代ゲノム解析を用いれば、これまで確実ではなかった過去の疫病を特定することも可能になるのです。」
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 ……古代DNAの分析は、いろいろなことを教えてくれるんですね!
 また日本列島集団の起源の話も、とても興味深かったです。
 日本列島集団には、次の二つの大きな特徴があるそうです。。
1)形質に時代的な変化がある。(縄文時代の人骨と弥生時代の人骨の明確な違い)
2)現代の日本列島には形質の異なる3集団が存在している(北海道のアイヌ集団と琉球列島集団、そして本州・四国・九州を中心としたいわゆる本土日本人)。
 このうち本土日本人に関しては「畿内を中心とした地域では渡来系集団の遺伝的な影響が強く、周辺域では縄文人の遺伝的特徴がより強く残っている」そうで、アイヌ集団は「北海道の縄文人を基礎として、オホーツク文化人の遺伝子を受け取ることで成立した」ようです。
 また琉球列島集団に関しては、「ゲノムデータによれば、縄文時代の琉球列島での主なヒトの移動は本土日本、特に九州からの流入だったと考えられる」のですが、「琉球列島の現代人が持つゲノムは、本土日本のものと明確に分離する」状況にあるようで、その理由としては、「7300年前の喜界カルデラを作った巨大火山爆発などの影響で九州と連絡が断たれたことで、独自の集団として成立した」のかもしれないと書いてありました。なるほど。
 また次の指摘にも考えさせられました。私たちは歴史で文化の変遷を見るとき、なんとなく集団としては連続しているように考えてしまいがちですが、そうではないのかもしれません。
「たとえば「弥生時代になって古代のクニが誕生した」という言い方をします。このように表現すると、日本列島に居住していた人びとが弥生時代になって自発的にクニをつくり始めたと考えがちです。けれども、これまでのゲノム研究の結果からは、おそらくその時代に大陸からクニという体制を持った集団が渡来してきたと考えるほうが正確だということがわかっています。古代ゲノム解析は、これまで顧みられることがあまりなかった、文化や政治体制の変遷と集団の遺伝的な移り変わりについて、新たに考える材料を提供してくれているのです。」
 ……なるほど……そうかも……。
 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」を、その証拠(研究成果の紹介)とともに教えてくれる本で、とても勉強になり、読み応えがありました。興味のある方はぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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