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第1部 本
教育(学習)読書
宇宙飛行士 野口聡一の全仕事術(野口聡一)
『宇宙飛行士 野口聡一の全仕事術 「究極のテレワーク」と困難を突破するコミュニケーション力』2021/12/1
野口 聡一 (著)
(感想)
地球から400km離れた宇宙で仕事する宇宙飛行士は、地球からの指示で仕事をする究極のテレワーカー! 長期間「宇宙」で働いてきた野口聡一さんが、「究極のテレワーク」と困難を突破するコミュニケーション力を教えてくれる本です。
国際宇宙ステーションで同僚のケイトさんと船外活動をしていた野口さんは、ケイトさんから「手袋に傷がついたかも」との連絡を受けました。手袋と宇宙服は一体になっているので、酸素不足が起こって命の危険に直結するそうです。幸いにもこの時は、深刻な空気漏れはなかったので作業を続行したのですが、このとき野口さんは、「直接的指示」の大事さを思い出しました。
「緊急事態のとき、対面できない相手には、直接的なメッセージでコミュニケーションをとった方がいい。「○○してください」とストレートに指示を出す。」
……緊急事態のときには、いちいち説明を聞いて理解している時間はないので、ストレートな指示の方がいいそうです。確かにそうですよね! どうすればいいか迷っていると思いがけない動作ミスまで起こしてしまいそうな気がします。
また、管制官は短い言葉で指示を出し、それを3回繰り返すことになっているそうです。
「宇宙と地球との交信は、時に雑音が入ったり、一部途切れたりして、しゃべっている内容が不明瞭なことはよくあるものだ。そこで小学生でも知っている単純な単語で、しかも3回も繰り返せは聞き逃しや誤解はなく伝わるはず、という配慮なのだ。」
……これもとても重要なことに感じました。
また「国際宇宙ステーションの1日」の紹介では、オーバーワークが気になりました。微妙な残業リストの「タスクリスト(作業スケジュールにはないが、やってほしいという要望リスト)」があり、宇宙飛行士はそれをこなそうとオーバーワークしてしまいがちだそうです。また正規の作業でも、作業時間の見積もりが甘いといつまでたっても仕事が終わらないという例が多発したことがあったとか。そこで……
「そこで、作業の開始と終了を明確に地上に報告することで見積もり時間の精度を上げるとともに、終業時刻がきたら、もう仕事はやめようという動きが出始めるようになった。もしトラブルが起きても、翌日に回せるのであれば、イブニングDPC(Daily Planning Conference)で打ち切る。地上もそれ以上深追いしない。後の措置は地上で夜間に考えてもらい、翌朝、解決策や修正プランを提示してもらった上で国際宇宙ステーションの作業を再開する。」
……これは宇宙でなくても、大事なことだと思います。ちなみに、このような体制になってからも、必要な場合(無人貨物船が来たときなど)は、もちろん終業時間外でも荷下ろし作業をするそうです。
また野口さんが2005年の初飛行のとき、スペースシャトル・ディスカバリー号の女性船長アイリーン・コリンズから聞いたという言葉も、心に残りました。それは……
「リーダーの役割は、全員を満足させることではない。全員の不満の間にばらつきがないようにすることだ。」
……なるほどなあ、と感心しました。野口さんは次のようにも書いています。
「宇宙飛行士ひとりひとりがレベルの高い適応力を備えている人材ばかりなのだから、その気になれば誰もがリーダーになれそうなものだが、実際は違う。いかにチームが所期の目標を達成できるか、そのために必要な役割を各自に割り振る力がリーダーに求められている。
ただし、このような差配を可能にするには、メンバーそれぞれの抱えている小さな不満から目を離さないこと。リーダーにはそのための資質が欠かせない。」
そして個人的に一番参考になったのは、2010年以降に野口さんが、ウイーンやニューヨークの国際連合の会議場で仕事をしたときの経験談。
「会議場にいるのは、ほとんどが弁護士出身者で、国連で議論されるさまざまな議題の解決策や条文解釈をいつまでも交渉可能だと延々と詰めてくる。そこでよく聞いたフレーズが"Truth is negotiable"。真実は交渉可能という意味になる。
これは強烈だった。意訳するならば「事実は確かにひとつかもしれない。しかし、物事の捉え方や考え方は幾通りもあり、それを主張して勝った説が”定説”となり”真実”となる」という意味合いだろうか。ここは、タフネゴシエーターたちがそういう議論を戦わせる、恐ろしいところだと思ったものだ。
日本人はすごく真面目で勤勉だから「真実はひとつ」という考えが根深い。(中略)でもそれだけでは、国際社会では生き延びていけないと思う。(中略)
もし事実を誤認している人がいたら、そこを論破して軌道修正をかけるパワーは持ち合わせないといけない。そんな教訓を国連体験は教えてくれた。」
……なかなか強烈ですが、日本でも今後は、この国際社会のルールに合わせた教育をしていくべきではないかと感じました(ディベートを授業に取り込むなど)。
さらに2021年9月、地球の周回軌道を民間人だけで回るという世界初の快挙をなしとげたスペースXのクルードラゴンで、野口さんはテスト飛行などに参加していますが、スペースXの仕事の仕方に感銘を受けたようです。
「(テスト乗船の時にフットレストの位置の不具合を指摘すると、)スペースXの作業員がその場にやってきて、図面と実際の寸法を突き合わせ、即座に改修作業に入った。翌日、思い通りにフットレストを動かすことが出来ていたのには、クルー全員が驚いたものである。」
こんなことが出来るのは、スペースXが内製化にこだわっているから。
「(前略)スペースXの内製化の発想は細部にまで行きわたり、各部門が少量生産に特化したオーダーメイドにこだわりをみせている。」
だからその場で改修が出来てしまうんですね!
スペースXは最初の頃、何度も大きな失敗をしていたので、大丈夫なのかなーと不安しかなかったのに、現在では「民間人だけ」で飛行可能になるだけでなく、NASAの仕事をたくさん請け負うなどの快進撃を続けていて、本当に凄いと思います。野口さんも指摘しているように、これは「失敗から実地に学ぼうというイーロン・マスクらしい現場哲学」なのでしょう。事故が起こるたびに原因を特定し問題を解決する……事故は起こさない方がいいけど……事故が起きても構わない方策をとって事故に備える(ある意味、事故を想定内に入れた仕事をする)のは、初挑戦の仕事に挑むときには大事な心構えなのかもしれません……。
この他にも、アスリートとよく似た人生をたどる宇宙飛行士の燃え尽き症候群など、考えさせられることをたくさん読むことが出来て、とても参考になり、読み応えがありました。
最後の「読者のみなさんへ」には、コロナ禍にある私たちへ、野口さんからのメッセージがありました。
「(前略)人類の未来は孤立から生まれるのではなく、つながりから始まるのだとわたしは思いたいのです。分離と別離の悲しみを乗り越えて、ポスト・コロナという時代を切り開いていくためには、ダイバーシティー(多様化)、インクルージョン(受容性)、そしてレジリエンス(強じん性)が重要です。」
宇宙飛行士として、たくさんの経験を積んでた野口さんのこの教えを、心に刻みたいと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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