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第1部 本
科学
ALIFE人工生命(岡瑞起)
『ALIFE | 人工生命 ―より生命的なAIへ』2022/3/16
岡瑞起 (著)
(感想)
「人工的につくられた生物のような生命」=人工生命(Artificial Life:略してAlife)の入門書で、内容は次の通りです。
Chapter 1 人工生命とは何か
Chapter 2 身体性
Chapter 3 相互作用
Chapter 4 集団の進化
Chapter 5 インターネットの進化
Chapter 6 オープンエンドな進化
Chapter 7 より生命的なAIへ
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本書の「はじめに」には次のように書いてありました。
「人工知能研究者が、人間のような知能をコンピュータで実現できると考えているように、人工生命研究者は、自然の進化が生み出すような終わりのない進化をコンピュータで実現できると考えてる。」
「オープンエンドな(=終わりのない)自然の進化が生み出してきた多様な生物をみると、その創造力は計り知れないものがある。それをアルゴリズムに落とし込めれば、新しい商品をつくる、新しいデザインをつくる、新しい研究のアイデアをつくるといった、斬新なサービスや技術を次々と生み出すようになるかもしれない。ビデオゲームやVR、ARの世界は、自然の生態系のような豊かさをもち、果てしない冒険と発見を提供するようになるだろう。」
本書のChapter 1では「人工生命とは何か」を、そしてChapter 2~4ではオープンエンドな進化へ至る人工生命のアプローチを、Chapter 5ではインターネットの分析を通してオープンエンドな進化に必要な要素を、Chapter 6ではオープンエンドな進化を目指した具体的なアルゴリズムを、そして最終章のChapter 7では人工生命の可能性について語っています。
人工生命はコンピュータを使って「ありうる生命」をつくり出すことで、「われわれの知っている生命」を理解しようとする技術なのです。
人工生命には次の5つのレベルがあるそうです。
1)生命の基本機能を実現する人工生命
2)身体と環境の相互作用を取り入れた人工生命
3)集団現象を作り出す人工生命
4)生態系をつくり出し進化する人工生命
5)オープンエンドな進化をつくり出す人工生命
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本書では、進化計算や遺伝的アルゴリズムなど、さまざまな「人工生命」研究について知ることができました。例えば、遺伝的アルゴリズムは次のようなものです。
「遺伝的アルゴリズムとは、要するにコンピュータによる「試行錯誤」である。人間が試行錯誤するのに比べ、コンピュータに行わせることでたくさんの組み合わせのパターンを同時に探すことができる。実行すべきタスクを遺伝子に模した数値の連なりで表し、それを突然変異や、交叉を用いて進化させる。環境への適応度が高い遺伝子は次世代に受け継がれる。遺伝子の大半はそれほど優れた性能を示すことはないが、その中からいくつかの遺伝子は親よりも優れた性能を示す。」
そして個人的に興味津々だったのが、「Chapter 3 相互作用」。進化計算などは今までにも読んだことがありましたが、「集団に関する人工生命研究」にはあまり詳しくなかったので、とても面白く感じました。
なかでも「鳥の群れをシミュレーションするボイド・モデル」。群れにリーダーが存在せず、すべての鳥が情報交換することもない状態で、群れの動きをつくり出すことができたそうです。なんとこれ、それぞれの鳥が近くの数匹の鳥に合わせて、「衝突回避」「スピード&方向を合わせる」「鳥が多くいる方向に向かう」という3つの単純なルールに従うだけなのだとか。これだけで、変化する環境に臨機応変に対応して「群れ」を維持できる……生物の動きは一見複雑そうに見えても、意外に単純なのかもしれません。
このボイドモデルのような「エージェント・ベース・モデル」は、フィールドワークでは行うことができなかった、反復可能な対照実験を可能にするので、有益なツールとなるそうです。……確かに。いろんな面で使えそうなツールですね!
この他にも「人工生命」の研究を通して分かってきたことが、いろいろ書いてあり、とても勉強になり、考えさせられることも多かったです。その一部を以下に少し紹介します。
「ノイズの存在が相互作用を変化させ、集団の在り方も変化させる。
一方で、安定的な協調現象になるという結果は、同時に、進化が止まってしまうということでもある。オープンエンドな進化という観点からみると、安定的な状態を壊し、新たな進化を生み出す相互作用こそが重要となる。」
「多くの人工生命モデルは、進化が止まってしまう。進化し続けるシステムに必要な相互作用は何か。それは「寄生体」という、一見、利益をもたらすとは思えないものとの相互作用にあるかもしれないことが、ティエラ(※)によって示唆された。」
(※注:ティエラとは、進化生物学者のレイによる仮想生物がすむコンピュータ内の世界。仮想生物は自分のコピーをできるだけ増やしてメモリ領域を奪い合う。突然変異も起こる)
「不安定化する要素を常にもちつつ、それを排除するのではなく、活かすように集団に取り込めるかどうか、それが単純なものから複雑なものへの進化を実現する鍵である。」
「生命が、新陳代謝の維持や環境への適応など、生命のもつ恒常的な性質や機能を維持するように、インターネットにも、データを流し続けるという恒常性を持つ機構が、個々の相互作用から創発しているのだ。」
「不安定であるがゆえに、その上に複雑なもの、オープンエンドなものが構成できる。そうした哲学をもとに世界を捉えていこうとするのが、人工生命の基底を成しているひとつの世界観である。」
「集団がさまざまな意見を共有し、協力して編集、あるいは、編集合戦によって記事を生み出す。この循環でより信頼性の高い洗練された集合知がうまれている。」
「オープンエンドなアルゴリズムとは、収束的ではなく、イノベーションや自然進化のように発散的であるべきなのだ。」
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そして「Chapter 7 より生命的なAIへ」では、「人工生命」研究が拓いていく今後の可能性について語られていました。
「生命は誰かにデザインされてつくられたわけではなく、あくまで世界との相互作用の中から進化し、その中で生きている。生命的なアプローチを取り入れた人工生命は、システムがもつ自律性をうまく利用することによって、新しい環境でも機能することができる。人間がすべてをデザインするよりも、人工生命技術を取り入れたほうが、より環境の変化に適応的で頑健な人工システムにつながる可能性が高い。」
「効率的な学習と性能向上を実現している深層学習と、環境の変化に適応的な人工生命をお互いに補完的に組み合わせることで、より頑健で柔軟な人工システムの実現を可能とする。深層学習と人工生命のアプローチを用いた研究がさらに進展することで、メタバースのような仮想空間でより生命的なアバターをつくることや、現実世界に連れ出せるような頑健な人工システムが可能になるかもしれない。」
……人工知能と人工生命が組み合わされたら……新たな世界が拓けそうですね!
人工生命について総合的に概観できる本でした。「フォン・ノイマンの人工生命モデル」や「チューリング・パターン」、「ファイファーのロボット」、「ブルックスのサブサンプション・アーキテクチャ」、「シムズの進化する仮想生物」、「スタンリーのNEATとCPPNアルゴリズム」、「ミーム」、「品質多様性アルゴリズム」、「POETアルゴリズム」など、人工生命に関するモデルについても知ることが出来ます。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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