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第1部 本
歴史
水中考古学 地球最後のフロンティア(佐々木ランディ)
『水中考古学 地球最後のフロンティア』2022/3/2
佐々木ランディ (著)
(感想)
海に沈んだイカリから蒙古襲来の神風の進路が判明?
水中に沈む沈没船や遺物から歴史を塗り替える発見が相次いでいます。まだ見つかっていない遺跡も多く、まさに地球最後のフロンティアといえる「水中考古学」。その魅力と価値を分かりやすく、そして面白く語ってくれる本です。
冒頭には、「美しく神秘的な水中考古学の世界」が、カラー写真やイラストで紹介されます。光が射しこむセノーテの水中写真など美しいものもありますが、個人的に一番興味深かったのは「スリランカのゴダワヤ沈没船の調査」の写真。海底に白い紐のグリッド(升目)を張って記録を取っている様子がよく分かるのです。
この本の「Prologue」には、次のような記述がありました。
「沈没船というとタイタニック号のように深海に沈んでいる船をイメージする人も多いかもしれないが、ほとんどの沈没船は海岸線近くに沈んでいる。早い話が陸地近くは座礁しやすいのだ。そうした海岸線近くの遺跡は、例えば埋め立て地を作る際には、土砂を流し込む作業で破壊されてしまう。陸の工事であれば、掘削中に遺跡が出てくれば工事は止まるだろうが、水中では、そもそも現場を注意深く見続けることも少ないため、細かな遺物の存在に気がつくこともない。」
「現在の日本には水中遺跡を探して、それを守るシステムがない。開発に先手を打って遺跡を探して守ること。これができれば、最高の発見が待っている。」
……なるほど、確かにその通りです。水中遺跡と言われると、どこか「遠い海底」にあるような気がしていましたが……古い沈没船は海外付近にあることが多いんですか……。
そして次には『水中考古学 冒険の書』が。この部分は、水中考古学の概要をざっと知ることが出来る入門ガイドになっていて、水中考古者の仕事内容、世界の水中遺跡マップ、日本の水中遺跡マップ、さらには考古学者の調査アイテム(エアーリフト、水中ロボット&ドローン、サイドスキャンソナー、フォトグラメトリー、マルチビームソナー、サブボトム・プロファイラーなど)のイラストなどが掲載されています。
この本は、こんな風に「読者を楽しませてやろう」という工夫が随所で感じられて、読んでいて、わくわくさせられます☆
そして、いよいよ「1章 水中考古学で解き明かす蒙古襲来の真実」。長崎県の鷹島での水中考古学調査(神風で有名な元寇(蒙古襲来)の痕跡調査)の紹介で、とても読み応えがありました。
この調査の始まる数年前、漁師が神崎港で貝堀り中に海底で不思議な金属(文字のようなものが書かれたスタンプのようなもの)を発見したのですが、なんとパスパ文字(元朝が新しく作った文字で、限られた場面でしか使用されなかったもの)であることが判明。これは弘安の役の際に使われたものと考えられ、元軍の船団が鷹島にいた確固たる証拠だそうです(現在は、長崎県の指定文化財となって展示されているそうです)。
水中の調査ではイカリが発見され、その作られ方だけでなく、イカリの打ち込まれた向きから、沈んだ時の風向き(神風=台風は鷹島の西の海上を通過)まで推測できるとか。
「(前略)鷹島で発見されたイカリ同士の距離は、近い。かなりの密集度であったと想定される。大きな風が吹けば、衝突した可能性が高いことは容易に想像できる。
ひとつの遺物をとってもこれだけのことが考えられる。まさに「沈没船はタイムカプセル」と言われるゆえんだ。」
この他、中身が詰まった状態で発見された「てつはう(破裂して金属が飛び出す対人兵器)」なども見つかったそうです。
さらにその後、鷹島1、2号船も発見され(現在は保存のため埋め戻されていますが)、遺跡はデジタルカメラ・動画により記録されて、フォトグラメトリーを使って三次元で復元されたそうです。
「3章 世紀の大発見でたどる海底探査の歴史」では、水中考古学の歴史の概要を知ることができるし、「6章 日本の水中遺跡冒険図鑑」と「7章 世界の水中遺跡冒険図鑑」では、日本と世界の著名な水中遺跡の概要を知ることもできるので、この本一冊で、水中考古学をかなり総合的に学べました。
また「4章 瓦は語る 相島海底遺跡が伝える水中考古学の魅力」では、水中考古学調査を行う時には、地元の漁協やダイバーの協力を得ることが重要として、次のことが書いてありました。
「探査を行うには機材を取り付ける(艤装する)船が必要だ。海外では自前の考古学調査船を持っている研究所もあるが、私は漁協からチャーターするのが良いと思っている。なぜなら水中遺跡が眠る地元の海の情報を握っているのは漁師であり、地元の漁協から船を借りたほうが良い関係を作れることが多いからだ。(中略)
探査をする場合に最も重要なのは、安定した船であることだ。少し大きめの漁船は、その意味ではとても使いやすい。船に魚群探知機や高性能GPSなどを取りつけている漁師も多く、海底地形を見ながら元の場所に戻ったり、船の位置をGPSで確認したりと、何かと便利だ。」
……漁協はその周辺の海の情報に詳しいだけでなく、独自調査の詳細な海底地図を持っていることもあり、それらもとても参考になるそうです。
日本は四方を海に囲まれている島国なので、たくさんの水中遺跡があるような気がしますが、今後は、それらの有効活用ができるといいですね。そのヒントになりそうなのが、沖縄県の動きで、次のように書いてありました。
「水中遺跡を守るためにできることは、遺跡の所在を記録し、自治体の管理する周知の遺跡リスト(遺跡台帳)に載せることである。そうして初めて遺跡としてに認められ保護が始まる。どこにどのような遺跡があるかを調べることが最も基礎的な調査方法であり、それをいち早く理解し、大規模な水中遺跡の調査を始めたのが沖縄だった。」
……沖縄は海の美しさが有名なので、水中遺跡の保護と、その一般公開による観光の両立が図れるといいですね! 個人的には海中で現物を見ることが出来なくても、博物館などでのビデオ展示があれば十分だと思います。最近は「フォトグラメトリー(写真実測)」という技術で、遺跡全体の3Dモデルを作りことが出来るようですし……(なお現物の方は、海底の砂に埋め戻すのが最良の保存方法となるようです)。
本書の巻末には、「水中遺跡偏愛リスト」として、さまざまな情報が掲載されていました。その中から「海外と日本でおすすめの水中考古学スポット(実際に見に行ける遺跡、展示施設、博物館など)」を以下に紹介します。
・ヴァーサ号博物館 圧巻のナンバーワン
・沖縄の水中遺跡 ダイビングツアーができる場所も多くある
・2泊3日のポンペイ・ナポリ・バイアを巡る旅
・鷹島海底遺跡(松浦市・鷹島で一泊))
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このうちヴァーサ号については、「3章 世紀の大発見でたどる海底探査の歴史」でも、かなり詳しく紹介されていました。
「「考古学的調査が実施された世界一有名な沈没船遺跡」といえば、ヴァーサ号だろう。ヴァーサ号は17世紀、スウェーデンで作られた軍艦であり、全長70m、最大幅は12m弱、沈没した船は地上に引き揚げられ、船体の9割以上が現存している。
海底から丸ごと引き揚げられた船体は現在博物館で丸ごと展示されている。」
……この豪華な彫刻を施され大型大砲多数を備えた巨大な軍艦は、お披露目の式典で、国王の目の前であっと言う間に転覆し沈没したそうです(苦笑)。その原因としては……
「そもそも、船が細長い上に、背が高すぎた。そして、大砲も積みすぎていた。記念式典では積み荷がほとんどなかったので、大砲などで船の上部が重たいわりに、船底近くは軽く、重量のアンバランスが惨事を招いた。」
「ヴァーサ号は水中遺跡--特に沈没船遺跡--を代表する発見である。ここまで完璧な状態で残っている遺跡は多くはない。」
……このおバカな笑える(笑えない?)逸話も、展示物としての豪華さも、すごく魅力的ですね! 機会があったら行ってみたい気もするけど……スウェーデンか……。
とても興味深い記事が満載の面白い「水中考古学」の本でした。冒険感も楽しめるので、興味のある方はぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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