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第1部 本
防犯防災&アウトドア
防災
災害現場の真実 -大規模災害事例集-(伊藤克巳)
『災害現場の真実 -大規模災害事例集- (消防テキストシリーズ)』2019/12/16
伊藤 克巳 (著)
(感想)
大災害は特別なものではなく身近に起こるもの。隊員の安全管理においても、過去の災害から学ぶことは欠かせない……東京消防庁で防災部長まで勤め上げた伊藤さんが、「Jレスキュー」で2015年12月から4年間にわたり連載して、反響のあった様々な火災、自然災害、テロ・CBRNE災害を書籍化した本です。
自らの豊富な経験をもとに、いろいろな災害の現場での対応や原因、今後の対応策や提言などがまとめられていて、どの記事もとても参考になりました。
例えば「第1章 火災」の糸魚川市の大規模火災(2016)の場合は、「大火災に成長した要因」として、1)通報の遅れ、2)木造密集ブロック内火災、3)強風による竜巻上の火災、4)雁木造りの建築特性、5)飛び火警戒隊の未設定、6)消火活動を阻む輻射熱、などがあったそうです。
そしてこのような「限界を超えた大規模火災」とどう戦うかについては、次のことが書いてありました(もちろん本書内ではより詳しい説明があります)。
1)応援隊にできるだけ早い情報提供を
2)消防団を適正場所に部署させる
3)木造密集地域に消防力を一気投入せよ
4)専門部隊にも放水機能を持たせる
5)火災早期発見のシステムをつくる
6)炎症遮断帯の把握
7)初期消火のためのインフラと地域連携
8)火災を遮断する新資機材の導入
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また火災現場では、一酸化炭素中毒もとても怖いもので、多数の殉職者も出ているほどです。その危険性のある現場で実践すべきこととしては、次のものがあるのだとか。
1)指揮者は救急隊を手元に置いておく
2)薄い煙でも検知器を使用する
3)クリアゾーンの早期設定
4)中毒者用の救護所の設定
5)ウェアラブル検知器の導入
……住宅火災でも、死因は一酸化中毒と火傷で70%を超えるそうです。一酸化炭素中毒、本当に怖いですね。
この他にも工場災害の厳しい実態などが詳しく書いてあり戦慄させられましたが、規模の大きさで驚かされたのが、インドのボパール化学工場でのイソシアン酸メチル漏洩事故(1984)。なんと「工員が洗浄作業の際にタンクの弁を閉め忘れた」という小さな原因で、危険なガスが拡散。結果として即死者2,000人以上、最終的に死者14,410人、障害者50,000人の大事故に発展してしまったそうです。工場災害って、本当に怖いですね。ここでは、「工場側から化学物質に詳しい社員を災害の指揮本部に出して欲しい」という要望が書かれていましたが、これは法制化して欲しいほど重要なことではないかと思います。
さらに『超高層マンション火災』では、「ロンドンの高層住宅大火災(2017)では、外壁大規模補修で使われた断熱材が延焼媒体となった」とか、「広島市の高層住宅火災では、9階の部屋からの出火がバルコニーのアクリル板から最上(20)階まで延焼し、バルコニーにあった灯油ポリタンクがファイアボールを作った可能性がある」などの気になる情報もたくさん読むことができました。
その他、「爆発火災」「倉庫火災」「山火事」「ウレタンフォーム火災」などなど、大規模災害の事例も多数掲載されています。
そして今後の消防活動には、「爆発火災の盾となる車両」や、「放水ロボット」、「遠隔検知できる情報収集ドローン」などが欲しいと書いてありましたが、こういうものをぜひ開発・装備して欲しいと本当に思います。特に「爆発火災の盾となる車両」は、化学工場のある地域には必須なのではないでしょうか。
「第2章 自然災害」では、『東日本大震災』での活動記録があり、被災地の厳しい実態とともに、自らも被災者だった東京都が東北を支援してくれた活動についても知ることが出来ました。
この災害ではSNS情報をもとにした救助活動もあったのですが、今後もうまく活用していけるよう「大災害時SNS情報活用のための対策」として、次のことが提言されていました。
1)入力フォームの普及
2)情報のフィルタリング(重複事案やデマへの対処)
3)発信地表示システムの開発
4)緊急通報でなく情報提供とする
5)情報は縦から横へ(災害地が対応不能な場合に、他県でリレーする))
……この中の「2)情報のフィルタリング(重複事案やデマへの対処)」がかなり大変そうですが、こういうIT技術が災害現場でもうまく活用できるといいなと思います。
この他にも、「噴火」や「水害」、さらには「第3章 テロ・CBRNE災害」なども網羅されている総合的な「大規模災害事例集」です。現場で起こったリアルな出来事が書いてあるので、とても参考になると思います。防災に関わる仕事をしている方はもちろん、一般の人にも読んで欲しい本で、お勧めです。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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