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第1部 本

天文・宇宙・時空

地球外生命-アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来(小林憲正)

『地球外生命-アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来 (中公新書 2676)』2021/12/21
小林 憲正 (著)


(感想)
 生命はどうやって生まれたか……宇宙生命を研究するアストロバイオロジーから、この大きな謎を深く考察している本です。進化のプロセスと、最新の惑星探査での知見をもとに、生命の起源と地球外生命に迫っていて、内容は次の通りです。
第一章 地球外生命観
第二章 生命の誕生は必然か偶然か
第三章 知的生命への進化
第四章 火星生命探査
第五章 ウォーターワールドの生命
第六章 タイタン
第七章 太陽系を超えて
第八章 生物の惑星間移動と惑星保護
第九章 地球外生命から考える人類のルーツと未来
   *
「第一章 地球外生命観」には、それまでの「地球の生態系はすべて植物が太陽光をエネルギーとして合成した有機物に依存している」という定説が覆された出来事が書いてありました。それは1977年、ガラパゴス沖の深海底から吹き出す熱水周辺に、「太陽光にまったく依存しない暗黒生物圏」の存在することが発見されたことです。さらに1980年代には、高温、低温、高放射線、高塩分濃度などの「極限環境」に生息する生物が次々発見され、太陽系には火星以外にも生命探査のターゲットになる天体が多数あるのかもしれないと考えられるようになってきました。
 そして「第二章 生命の誕生は必然か偶然か」では、地球の生命の誕生や特徴が、「第三章 知的生命への進化」では、その進化が語られます。NASAの生命の定義は、「ダーウィン進化が可能な自立した化学系」だそうです。生命って「化学系」なんだ……うーん、確かに、そうかも。
 そして「第四章 火星生命探査」からは、太陽系の生命探査に関する話題になります。1970年代の火星探査では、火星表土から有機物は検出されなかったと結論づけられましたが、1996年に、火星から飛来した隕石に過去の火星生命の痕跡らしきもの(芋虫状の構造物(化石?)などなど)が発見されて、再び火星の生命探査が脚光を浴び始めることに。ちなみにこの隕石が「火星由来」と判断されたのは、「隕石の気体成分組成が火星のものと類似していた」からだそうです。そして現在までに、「火星には過去に大量の水があり、現在もある程度は存在することが分かってきた」そうです。……もしかしたら火星にも、なにか微生物などがいるかもしれませんね。
 そして「第五章 ウォーターワールドの生命」では、太陽系に「液体」があるかもしれない星として、木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドゥス、準惑星ケレス、木星の衛星カリスト、土星の衛星タイタンとミマス、海王星の衛星トリトン、準惑星冥王星、木星の衛星ガニメデの九天体があげられていました。……これらのどこかに微生物がいるかもしれませんね!
 そして灼熱の星のように思われる金星にも、生命がいるのかもしれません。金星の場合は、いるとしたら「上空」の中だそうです。上空になら、ちょうどいい気温帯がある可能性があるのかも……。
 そして個人的に興味津々だったのは、「第七章 太陽系を超えて」。ここでは生命の地球外起源説(パンスペルミア説など)が考察されていました。宇宙空間という過酷な環境を、長時間生きた状態で移動するのは困難なはずですが、地球外生命が地球の生命の素になることは可能なのでしょうか? この本には次のように書いてありました。
「多くの微生物は基本的に乾燥させた菌体でしたら真空下でも生存可能です。ただ、液体の水がなければ増殖はできませんので休眠状態になります。宇宙で問題となるのは、宇宙線と太陽紫外線です。」
「(前略)実験によりデイノコッカスのような放射線耐性菌や枯草菌のような芽胞をつくる微生物が紫外線や放射線に強いことがわかりました。実際の宇宙ではこれらの環境因子があわさって作用するため、実際の宇宙での生存を調べるにはこれらの微生物を宇宙に連れ出して調べる必要があります。」
「微生物が単独で惑星間を移動するとなると、放射線はともかく太陽からの紫外線のために長時間生き抜くのは難しいのですが、岩石の中に入り込めば紫外線は当たらなくなるので、長時間の生存が可能となることがわかりました。」
 ……微生物が隕石の中で生きのびて、地表まで到達する可能性はあるのかもしれません。
 また驚いたことに、NASAが月面に設置していた無人探査機のカメラを回収したら、内部に連鎖球菌が生存していたことがあったそうです。これは地球のものですが、この菌たちは月面の真空かつ宇宙線の強い環境で二年半以上生き続けていたのです……生命はしぶといですね☆
 ただし、今後の火星探査でこれが起こると、笑いごとではすみません。地球汚染を起こす可能性があるので、探査機の滅菌や除菌は徹底的に行う必要があります。このような懸念に対処するため惑星保護指針が議論されて、一九六六年に「宇宙条約」が採択されました。その第九条は惑星保護について述べられているそうです。
 それにしても……もしも地球外微生物が地球生命の素なのだとしたら……今後も、別の地球外微生物が侵入してくることだって、考えられますよね。さらに将来、宇宙の観光旅行がより一般的になったら、「変異した地球微生物」が宇宙から戻ってくる可能性も……。こういう時に、どうするかも検討しておく必要があるのかもしれません。
 地球の生命進化と地球外生命について、最新の惑星探査での治験をもとに真面目に考察している本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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