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第1部 本
天文・宇宙・時空
本気で考える火星の住み方(齋藤潤)
『本気で考える火星の住み方 (ワニブックスPLUS新書)』2022/2/9
齋藤 潤 (著), 渡部 潤一 (監修)
(感想)
地球にもっとも近い惑星・火星の探査の結果、分かってきたことをもとに、「人類が火星に住める可能性」を本気で検討・解説している本です。
「第1章 火星ってどんな星?」では、次のような火星の基礎知識を学べます。
「(前略)火星の軌道は平均1.5天文単位の半径を持つ軌道です。そして火星は半径が3400キロメートル程度で、地球(赤道付近の半径は約6370キロメートル)と比べるとかなり小さい惑星です。
地球と比べると半径がほぼ半分程度で同じ岩石惑星といっても惑星自体が小さいため、表面の重力は地球の40%程度です。
自転する周期は地球とほぼ変わらず、地軸の傾き(太陽系の北極からの傾きという意味です)も地球とそう違いません。ですから小さいとはいっても地球とよく似た状態の惑星だと言えます。(中略)
火星にも、地球と同様「季節」が存在します。火星は地球より太陽から遠いので、ケプラーの法則に従い公転周期が地球より長く、1公転周期(つまり火星の1年)は687日になっています。
火星は24時間37分ほどで1回転するので、24時間で回転する地球と似ています。地軸の傾きも地球とほとんど変わらないので、地球と火星はサイズと太陽からの距離こそ違っていてもお互いに似た環境にある惑星ということができます。」
「火星が赤く見えるのは、その表面の砂に酸化鉄(つまり鉄さびのようなもの)が多く含まれているからです。」
……火星が赤く見えるのは、鉄さびのためだったんですか……驚きです(笑)。
「(前略)火星には「季節」があります。そうなれば温かい大気と冷たい大気が大気圏内を移動して循環がおこることになり、ますます地球の環境に似てきます。」
……火星の大気の95%は二酸化炭素で、残りは窒素(2.7%)、アルゴン(1.6%)、わずかですが酸素や水蒸気もあるそうです。ただし、もともと大気自体が地球の1%以下と薄いので、二酸化炭素が大部分でも温室効果が起こっているわけではないのだとか。
そして地球と火星の「接近」はほぼ780日ごとに起こり、「大接近」は15年や17年おきに起こるそうです(次の大接近は2022年12月、その次は2035年)。
続く「第2章 火星観測の歴史」では、これまでの火星探査などについて概要を知ることが出来ます。
そして「第3章 火星の大気、地質と地形、水」では、火星の平均気圧は地球のほぼ1000分の6で約6ヘクトパスカル。大気循環があるので砂嵐が起こることがある、などの他、火星の地質年代についても知ることが出来ました。ノアキス代(41億年前~)の火星は、温暖で海があったとか、へスペリア代(37億年前~)には、激しい火山活動や洪水がしだいに収束したとか、現代にいたるアマゾニア代(30億年前~)は、大気が薄くて寒く乾燥しているなど、太古の火星の状態まで推測されているようです。
「第4章 火星に住むには」と、「第5章 これからの火星探査の進む道」からは、いよいよ『火星の住み方』の検討が始まります。
「火星の有人探査として考えられているのは、一つは地球周回軌道上で大型宇宙船を組み立てて火星へ飛ぶというもの。そしてもう一つは大型ロケットで地上からいきなり火星へ向かう軌道へ宇宙船を投入するマーズ・ダイレクトがあります。」
……まずはマーズ・ダイレクトで無人火星探査を行い、現地で人間が生きていくための情報とノウハウを蓄積するのが現実的なのかもしれません。
火星へは到達までに長期間かかってしまうので、宇宙線や太陽フレア(放射線や電磁波)から人体をどう守るかという問題の他、無重力で筋力が弱る、少人数の閉鎖系でのメンタル問題など、さまざまな課題があるようです。
そして火星基地は、水がとれる場所に設置すべき(水は飲料だけでなく燃料にもなる)で、温度差の問題や、隕石・砂嵐・放射線の影響を避けるため根幹部分は地下に置くべきだとか、着陸機を拠点以外の避難所としても活用するとか、現実的なアイデアをたくさん読むことができて興味津々でした。
火星への宇宙船は、地球周回軌道上で組み立てることになるだろうという話は、SFが現実になりつつある感じでわくわくしてしまいます。
……まあ、当面は無人探査機で火星の状態を詳しく調査するとか、「月基地」の建設で火星基地への経験値を積むなどの、より現実的な努力が必要になるのだとは思いますが……。
火星探査の歴史や火星の環境を、「火星の住み方」という観点から楽しく学べる本でした。宇宙が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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