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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

インド洋 日本の気候を支配する謎の大海(蒲生俊敬)

『インド洋 日本の気候を支配する謎の大海 (ブルーバックス)』2021/8/19
蒲生 俊敬 (著)


(感想)
 大陸移動から気候変動、生命の起源まで……世界第3位の巨海・インド洋から、この惑星のダイナミズムが見えてきます。驚きと謎に満ちた「第三の大洋」の全貌を解き明かしてくれる本です。
「プロローグ」には、「インド洋の謎や脅威」が次のように列挙されていました。
・強い季節風(モンスーン)のために夏と冬とで流れる向きが完全に逆転する海流
・南極海からやってくる新海水の複雑怪奇な動き
・大陸移動のせめぎ合いと海底から湧き出る高温の熱水
・インド洋にのみ生息するふしぎな生物たち
・プレートの沈み込みにともなう超弩級の火山噴火や巨大地震
・ダイポールモード現象
   *
 太平洋、大西洋につぐ第三の巨海・インド洋には他の大洋にはない大きな特徴があるそうです。それは、「唯一、北極海とのつながりがない(ユーラシア大陸が北側を完全にふさいでいる)」ということ。なるほど……確かに。
 またインド洋の深海底には、いくつかの細長い海底山脈があるということを、この本で初めて知りました。インド洋には「基本骨格」のように、インド洋を逆Y字形に3分割している三つの中央海嶺(中央インド洋海嶺、南西インド洋海嶺、南東インド洋海嶺)があるそうです。
 そして興味津々だったのが、「第3章 「ヒッパロスの風」を読む」。ヒッパロスの風とは、モンスーンのことのようです。次のように書いてありました。
「インド洋の北部では、夏と冬とで、風向きがまったく逆になります。これが、「モンスーン」とよばれる季節風です。(中略)
 夏と冬とで、なぜ、風向きが逆転するのでしょうか?
 その原因となるのが、インド洋の北側を完全にふさぐ、巨大なユーラシア大陸です。(中略)
 陸と海とでは、同じように太陽に照らされても、温度の上がり方に大きな差があります。陸地は暖まりやすく、すぐに温度が上がりますが、海水はなかなか温度が上がりません。
 夏の暑い時期を考えると、陸のほうが海よりも高温になります。陸では軽くなった空気がさかんに上昇するため、地表は気圧が下がります。低圧となった地表へ、海側から風が吹き込みます。その際、地球の自転に起因するコリオリの力が作用することで風向が右方向に曲げられ、南風ではなく南西風となります。
 一方、冬は陸のほうが冷えやすいので、空気は冷たく高圧となり、温度が高い海のほうが相対的に低圧の状態となります。そこでこんどは、陸から海に向かって北東風が吹きつけることになるのです。」
 ……なるほど。夏と冬で向きが変わるのは、「ユーラシア大陸」があるからなんですね。次のようにも書いてありました。
「貿易風と偏西風が海面を動かし、そこにコリオリの力が作用することによって、北半球の亜熱帯海域では時計回り(右回り)の循環海流が形成されます。一方、南半球の亜熱帯海域には、反時計回り(左回り)の循環海流が同じように形成されます。(中略)
 さて、インド洋の亜熱帯循環流は、南半球にしかありません。インド洋の北半球側は、ユーラシア大陸が大きく張り出しているために海の面積が小さく、太平洋や大西洋のようには亜熱帯循環流が形成されないためです。
 その代わりに、北インド洋には特別な海流があります。世界でも他に例のない、季節によって向きの変わる海流です(中略)夏季と冬季で風向きが逆転するために、海面もそれに順応し、海流の向きが逆転するのです。」
 古くからこの海は「海のシルクロード」として交易が盛んでしたが、人々はこの風を巧みに利用していたそうです。
 またインド洋には、広く世界的なスケールで気候を支配している「ダイポールモード現象」というものがあるそうで、これは「インド洋の熱帯領域において、正反対の気候状態が同時に、東西に横並びになることです。東側は低温で晴天続きである一方、西側では高温で豪雨に見舞われる」現象だそうです。
 このダイポールモード現象は、日本にも、次の二つのルートで影響を及ぼしているのだとか。
「ダイポールモードが強まると、日本列島では、熱く乾燥した夏になりやすいのです。(中略)
 一つは、インド洋からまっすぐ日本列島へと伝わってくるルート。
 ダイポールモードが発達すると、東インド洋の熱帯域では、高気圧性の下降気流が強まります。下降した空気の一部は北へ移動し、フィリピン周辺やインド北東部付近で強い上昇気流を起こして雨を降らせたあと、さらに北上して日本列島付近で下降します。すると、日本列島を覆っている夏の高気圧が強まります。
 もう一つは、遠くヨーロッパ大陸を経由するルート。
 インド北東部に雨を降らせた強い上昇気流が西方へ伝わり、地中海からサハラ砂漠を含む欧州に強い下降気流が生じます。その結果、欧州では高気圧が発達し、さまざまな大気擾乱が引き起こされますが、そのエネルギーが偏西風によって東方へと伝播することで、最終的に日本列島付近の太平洋高気圧を強めます。(中略)
 もっとも、日本列島周辺の天候に影響を与えるのは、インド洋ダイポールモード現象だけではありません。太平洋熱帯域から発せられるエルニーニョ現象やラニーニャ現象などによるテレコネクションが、むしろ強く作用する年もあります。これら諸現象がダイポールモードと複合的に作用することで、日本付近の気候は複雑にコントロールさえていると考えるようになってきました。」
 ……そうだったんだ……。
 この他にも、巨大地震や海底火山、深海の熱水の噴出口付近に生息する不思議な生きものなど、興味深い話がいっぱい。インド洋の海洋調査をもとに分かってきたことを、幅広く紹介してもらえます。深海には、口も消化管も肛門さえもっていないハオリムシなんていう不思議な生物が棲息しているんですね……(ちなみに、彼らの体内には「化学合成微生物」がびっしり共生していたそうで、その微生物のおこぼれを貰って生きているようです)。こういう生き物から、私たちは進化してきたのかもしれません(かつての地球には酸素がなかったので、生命の誕生は、化学合成する生物がいる海中で起こったのではないかと考えられています)。
 とても面白くて勉強にもなる本でした。地学や気象、科学が好きな方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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