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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

あしたの火山学(神沼克伊)

『あしたの火山学: 地球のタイムスケールで考える』2021/10/19
神沼克伊 (著)


(感想)
 わたしたちは火山とどう対峙し、その恵みをどのように受け取ればいいのか……「あしたの火山学」の本です。
「第1章 富士山」には、火山噴火について、次のように書いてありました。
「火山の噴火は、火山体内にマグマと呼ばれる高温物質が地下深部から上昇してきて、発生します。したがってそのマグマの移動を捉えると山体内の姿、例えばマグマが火口からどのくらいの深さまで上昇してきているか、マグマの上昇に伴いどこでどの程度の地震が発生しているか、あるいは山体が膨張しているかなどの情報が得られてきます。それらの情報が十分にそろってくると、「いつ噴火するか」という噴火予測も可能になるので、噴火活動の頻度の高い火山には、地震計が置かれ、重力、GPS、傾斜計など地殻変動を検知する観測機器も設置されて、連続観測が実施されています。活動頻度の高い火山では気象庁、大学などがそれぞれ観測網を構築して、ほぼ定常的に連続観測が実施されています。
 このように火山体の表面つまり地球の表面に観測機器を並べて内部の姿を予測するのですが、近年は火山体内部の姿を調べる手法として、宇宙線ミュオンが使われるようになりました。山体内を通過するミュオンを使って火山体の「レントゲン写真(ミューオグラフイ)」を撮る方法です。」
 ……活動頻度の高い山に関しては、かなり観測されているんですね。なんだか少し安心しました。
 また「第3章 新しい地球科学」には、火山が形成されるメカニズムの説明もありました。
「プレートが地球内部に沈み込むとき温度や圧力の上昇によって分解され含まれていた水が放出されます。その水が加わりマントルは部分的に溶けマグマが生じます。その「マグマ」の噴出により日本列島の火山は形成されています。このように火山が形成されるメカニズムが明らかになり、地球上の火山が分布する火山帯の存在理由が解明されてきました。プレートは火山を生み出す親だったのです。」
 また新鮮だったのが、「地球以外の惑星の火山」の話。
「地球以外の惑星の火山に関する情報は表面の地形観察から始まります。地形の観察からそこに堆積している物質の種類や広がりが分かる技術が進んできています。また地球とは異なる重力や大気圧の環境下での噴火を考えなければなりません。このように地球以外の天体での火山噴火のメカニズムを考えることにより、地球上の噴火現象の特性をより正確に理解することができるのです。」
 ……なるほど。
 そして「第5章 火山を調べる」には、「火山防災マップに基づき、日頃から行政と住民とが互いに知識や火山活動の情報を共有しておくことが重要」であることが述べられていました。例えば、2000年の有珠山噴火では、火山防災マップに基づいて約一万人の地元住民の避難がほぼ一日で完了するなど、火山防災マップの有効性が示されたそうです。ただし火山防災マップが「有効に活用できる期間は10年、どんなに長く見ても30年は無理でしょう」なので、住民の知恵も活かして改訂していく必要もあるようですが。
 また「第7章 あしたの噴火に備えて」には、「地元の火山の噴火活動記録を機会があるごとに調べて、どんなことが起こったか、もし自分がそのような噴火に直面したらどうするか」を考えておくことも大事だと書いてありました。
 その一方で、「大地震や大噴火に遭遇するのは一生に一度あるかないかの珍しい出来事」なのだから、あまり深刻に考えなくてもいいのではないかとも言っています。
「火山噴火の実態を知り、あまり心配せず、つまり「敵(火山)」を知り、「己(周辺の環境)」を知ることにより、活火山と云えども心配しなくてもよいことが理解されるでしょう。「火山の恩恵(例えば温泉)を享受し気楽に過ごしましょう」を結語とします。」
 ……日本の火山について、総合的に分かりやすく解説してくれる本でした。もちろん、ここで紹介した以外にも、火山噴火の歴史や、観測の歴史なども詳しく紹介されています。
 また「補章 各火山の診断」として、現在日本列島で111座と考えられている活火山の中でも、活動度が高いと思われる火山について概要が紹介されているので、自分が住んでいる地方にある身近な火山についての危険度などを知ることも出来ます。
 火山に興味のある方はもちろん、火山の防災について考えたい方もぜひ読んでみてください。
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