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第1部 本

生物・進化

人に話したくなる土壌微生物の世界(染谷孝)

『人に話したくなる土壌微生物の世界―食と健康から洞窟、温泉、宇宙まで』2020/9/19
染谷 孝 (著)


(感想)
 植物を育てたり病気を引き起こしたり、巨大洞窟を作ったり光のない海底で暮らしていたり……身近にいるのに意外と知らない土の中の微生物。その働きや研究史、病原性から利用法まで紹介してくれる本です(冒頭には細菌などのカラー写真もあります)。
「第1章 未知の世界がいま明らかに」によると、微生物とは次のものだそうです。
「微生物には、細菌(バクテリア)、菌類、原生動物などが含まれます。細菌は大きさが1マイクロメートルくらいの単細胞生物です。菌類は糸状菌(カビ)や酵母菌、キノコを指します。原生動物はアメーバや繊毛虫(ゾウリムシの仲間)などで、細菌を捕食して栄養にします。またごく最近になって、メタンガスを作るメタン生成菌や温泉の熱湯に棲む超好熱菌などはアーキア(古細菌)という細菌と形態はそっくりだけど分類学的にはまったく異なる微生物だということがわかってきました。細菌と古細菌は原核生物、菌類と原生動物、藻類は真核生物という大きな分類群に分かれます。」
 ……ふーん、え? キノコ? キノコも微生物? と驚きましたが、「第2章 土と微生物」には次の記述がありました。
「(前略)根粒菌は分類学的には細菌に属しますが、菌根菌は菌類です。それも多くは担子菌類といってキノコの仲間です。そうです、キノコはじつは微生物なのです。その証拠に、キノコを顕微鏡で見ると、細い菌糸の集合体であることがわかります。」
 そうだったんだ……。
 私たちの身近には想像以上の細菌がいるようで、土壌一グラムあたりには、約一億個もいると言われていました。一億!と驚いたのですが、これは実は「希釈平板法」で得た細菌の数で、二十世紀末に「蛍光顕微鏡」を使って観察するようになると、土壌一グラムあたり、約一〇〇億個もいることが判明したそうです……ええ! 一〇〇億!
 しかも微生物には、本当にいろいろな種類がいるようで、なんと酸素呼吸ではなく、硝酸呼吸や硫酸呼吸するものもいるのだとか。
 このように土の中には様々な微生物がいるようで、ごく一部は病原菌のようですが、大部分は無害で、それどころか植物の発育を促し、土の肥沃化に貢献しているものも多いそうです。
「第3章 善玉菌を活用する」や、「第4章 環境を浄化する微生物」では、微生物がどのように活用されているかが紹介されていました。例えば、バイオレメディエーション(微生物による環境浄化)や、バイオスティミュレーション(海に常駐する石油分解菌を活性化して分解浄化を進める)という方法があるそうで、1997年の石川県沖のナホトカ号座礁事故では、バイオレメディエーションに効果があることが実証されたそうです。
 そして「第6章 堆肥と微生物」では、家庭で微生物を利用する方法として、段ボールコンポスト(家庭で作る生ごみ堆肥)の詳しい説明がありました。その一部、「堆肥化のプロセス」を以下に紹介します。
「有機物を堆積すると、その中の易分解性有機物(微生物によって分解されやすい有機物。糖類、タンパク質、脂肪類など)が好気的に分解され、その際に発熱し、高温(50~70℃)となります。その後、酸素が消費され酸欠になると微生物活動が低下して、温度が下がります。そこで、切り返しを行い堆肥に酸素を供給すると微生物活動が再び盛んになり、温度が上昇します。このような堆肥には微生物(主に細菌)が1グラムあたり300億から600億個もいて、その8~9割が盛んに活動しています。
 切り返しを繰り返していくと、だんだんと微生物の栄養源(易分解性有機物)が枯渇してくるため、温度が上がらなくなってきます。これが堆肥化の終点です。
 このとき、易分解性有機物に含まれていた窒素、リン酸、カリウムなどの養分は、堆肥中の微生物菌体に取り込まれた状態になります。堆肥が土壌に施用されると、菌の一部が死滅・分解し、その内容物が放出され、これが植物に利用されます。このため、堆肥からの養分の放出は徐々に行われるのです。」
 ……なるほど。堆肥化するために何度もかき混ぜる必要があるのは、微生物活動を促進させるためだったんですね。
 この他にも、「第7章 洞窟の微生物」、「第8章 土壌から宇宙へ」など興味深い記事が満載です。例えば、JAMSTECの地球深部探査船(ちきゅう)は、次のようなことを明らかにしたそうです。
「「ちきゅう」に乗り込んだ微生物研究チームは地殻内の微生物の調査を行い、大きな成果を上げてきました。新種の微生物の発見はもちろんのこと、地下の微生物世界(地殻生物圏)の概要がわかってきました。
 地下の高温で水が分解されて水素ができます。すると、メタン生成菌が二酸化炭素を使って水素を酸化してエネルギーを得て、炭素固定して有機物(自分の菌体)を作ります。生成したメタンガスは硫酸還元菌によって硫酸イオンを用いて代謝され、硫化水素が生成されます。この硫化水素をイオウ酸化菌が利用して硝酸イオンで酸化し、硫酸イオンを生成し炭素固定もします。この硫酸イオンは硫酸還元菌によって再度使われます。これらの微生物の死骸を利用して従属栄養性菌も発育するため、多種多様な微生物の世界が地殻内にできあがっているのです。
 このような微生物世界の栄養源は、水素、二酸化炭素、メタン、硫化水素などです。これらは地殻内の岩石から供給されるものなので、岩石栄養と呼ばれます。
 地殻内の微生物の存在量は約5000億トンと推定されていて、陸上の動植物の生物量(約6000億トン)にほぼ匹敵するだろうと考えられています。まさに地底には知られざる一大生物世界が存在しているのです。」
 ……地殻内には驚くほど「微生物の世界」があったようです。
 土壌微生物の世界を総合的に紹介してくれる本でした。とても参考になるので、興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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