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第1部 本

教育(学習)読書

知ってるつもり(西林克彦)

『知ってるつもり 「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方 (光文社新書)』2021/10/19
西林 克彦 (著)


(感想)
 世の中には「知ってるつもり」があふれています。「知ってるつもり」はなぜまずいのか……今最も求められる「問題発見力」を身につける方法を教えてくれる本です。
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「研究や学習が進むのはわからないことがわかってくるからです。
 研究や学習を前に進めるには、わからない点を追究していくわけですが、そのためにはわからない点がはっきりしていなければなりません。ところが、わからない点自体がうまく見つけられないということが学習の途中や研究のスタートなどでじつによく起こります。
 本書は、研究や学習を進めるために、わからない点を見つけ出す、わからない点を作り出す方法について述べたものです。研究や学習を進めるためにはきっちりわからなくなれることが大事です。」
「対象に対して「まったくわかっていない」ので具体的な手が打てないでいるのと、「知ってるつもり」でいて疑問を持たないというのは、確かに入口としてはかなり違った状況です。しかし、そこからピンポイントにわからなくなれるための作業は似通ってくる。ないしは原理的に同じです。というのはどちらも、わからなくなれる程度に知識システムを整備し、ある程度わかってくることが必要だからです。」
 ……私たちはよく知らないのに「知ってるつもり」でいる知識がたくさんありますが、それには次の理由があるそうです。
「問題解決に使える知識は、解決の道具として使えればいいのであって、特段の問題を生じることがなければ、深く考えることなく、そういうものとして使うのが一般的なのです。(中略)
 われわれは日常生活で問題を次々とスムーズに解決したいわけで、その志向の中で知識は問題を起こさない限り、問い直されることなく使われます。「知ってるつもり」になりやすいのはこういう理由からなのです。」
 ……例えばミシンで何かを縫う場合、ミシンの構造やメカニズムを知らなくても、使うのに問題ありません。だから知らなくても問題はないのですが、「深く知る」ためには、「知ってるつもり」から、いったん「知らないことがある」ことに気づく必要があるようです。
 そこで「第2章 「共通性」と「個別特性」によるものごとの捉え方」では、「知識システム」の構築の仕方を考えていきます。
 ここでは事例として「磁石」をテーマに、その種類(棒磁石、U型磁石、マグネット(フェライト磁石)、方位磁針、電磁石など)を洗い出し、その「共通性」と「個別特性」を大学生たちとともに検討していました。この二つを検討していくことで、「磁石とは何か」がどんどん明らかになっていきます。なるほど……「知識システム」はこうやって作っていくんですね。この方法は、物事について深く考える時に、すごく使えると感じました。
「「共通性」という網をかぶせない限り、物事の「個別特性」の意味は明確にならないのです。(中略)物事をよく知ろうとすれば、「共通性」と「個別特性」のセットで考えることが大事なのです。」
「特異なことは知識として孤立しがちです。なぜなら他には類似のことがないと思い込むからです。しかし、特異なことと言えども、「共通性」と「個別特性」のセットを適切に用いるならば、他の知識と十分に関係させられるのです。」
 ……そして「第4章 知識システムと教育」では、「共通性」と「個別特性」を利用した教育(知識システム構築)の仕方について、漢字や英単語、順列と組み合わせ、図形などの例で具体的に示してくれます。ここでは、教育者側の知識も、十分にシステム化されている必要があると書いてありました。
「学習者の学習を基準にして、教え方の評価や工夫を考えなければならないのです。その工夫のひとつとしてシステム化された知識形態が有望なのではないかと思います。「精緻化」の効果も期待できますし、疑問や推測もしやすくなる可能性が高くなるからです。
 ただ、これらの効用を期待できるためには、教える立場の者の知識が十分にシステム化されている必要があり、学習者にある程度の基礎知識があることが前提になります。学習者の条件を考慮しながら、知識システムの有効性を生かしたいものだと思います。」
 ……確かに。「この先生の話、すごく分かりやすい」と感じさせてくれた先生は、教えてくれる知識が、完全に自分のものになっていた(深く理解されていた)(ように思えた)ことを思い出しました。
 知識のフル活用で「わからない」をあぶりだし、自分なりの「知識システム」を作る方法を、多数の具体例(ここで紹介した以外にも、盆地と流出河川、日食月食など多数あります)を通して教えてくれる本でした。
 学習する側の立場の方はもちろん、教育する側の立場の方にとっても、とても参考になることが多いと思います。ぜひ読んでみてください。

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