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第1部 本
ビジネス・経営
その前提が間違いです。(清水勝彦)
『その前提が間違いです。 (講談社BIZ)』2007/5/30
清水 勝彦 (著)
(感想)
経営戦略のプロの清水さんが、論理的思考の「起点」となる「前提」を疑う視点を提供し、実効性のあるロジカル・シンキングの実践法を提案してくれる本です。
『その前提が間違いです。』というタイトルだったので、「失敗学」や「思考法」に関する本なのだろうと勘違いしてしまいましたが、「部門間のセクショナリズムのために、社内コミュニケーションが阻害されて部門間の連携がうまくいかない」「当社のトップには、明確なビジョンがない」などの「会社でよくある問題」はその「前提」を考える必要がある、ということを具体的に示してくれる本で、むしろ「経営」や「組織管理」を考える上で、とても参考になる本でした。
「第1章 「前提」が変われば「行動」が変わる」には、次のように書いてありました。
「(前略)間違った「起点」「前提」に基づいて一生懸命考えても、なかなか問題に対するよい解決案は出てきませんし、(無理やり)出した解決案は行動に移してみると的外れです。そして「うまくいかなかったから失敗から学ぼう」といっても、同じ間違った「起点」「前提」に立つかぎり、堂々巡りは続きます。もし、どんなに考えてもいい解決案が思いつかないとか、やってもやっても失敗ばかりだという閉塞感を感じている方がいるとすれば、「起点」「前提」をもう一度見直してみてはどうでしょうか。」
ということで、この本は、ビジネス現場でよく直面するさまざまな問題や不平不満の原因について、「本当にそうなのか?」ということを事例を挙げながら解説してくれます。
例えば、最初の「よく耳にする問題」は、「部門間のセクショナリズムのために、社内のコミュニケーションが阻害され、部門間の連携がうまくいかない」というもの。……けっこう、よくある問題ですね……。これに対しては、「そもそもなぜ部門(セクション)があるのか」までさかのぼって考えています。そして、「組織を考える正しい前提」を、次のように明らかにしています。
1)すべての施策にはプラスとマイナスがある(トレードオフ)
2)部門間には、利害や考え方の対立があって当たり前
3)コミュニケーションが悪いのは部門間の対立の結果ではない。コミュニケーションは分業化、専門家を活かすための手段である。
4)「やりやすいこと」「やりたいこと」だけをやっていては組織は成り立たない。「やらなくてはならないこと」を追究するのが経営である
5)コミュニケーションとは仲良くすることではない。伝えるべき情報を伝え、対立する点と理由を明らかにすることである。
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……なるほど。これを「前提」として関係者の意識を統一した上で、どう対処すべきかを検討する必要があるんですね。
こんな感じで、さまざまな「よく耳にする問題」は、何を「前提」として考えるべきなのかを具体的に教えてくれます。どの問題にも、上記のような箇条書きでの「まとめ」があり、理解しやすい上に、その問題に直面した時に利用しやすくなっています。
さらに、これらをふまえた上で「経営を考える大前提」にまとめてくれているので、ちょっと長いですが、以下に紹介します。
1)組織とは考え方や価値観の異なる人間の集まり。
2)新しき必要な情報は組織やルールだけに頼ったら流れない。
3)「やりやすいこと」「やれること」だけをやっていたら組織は成り立たない。「やらなくてはならないこと」を追求することが経営である。
4)すべての施策にはプラスとマイナスがある(トレードオフ)。
5)明確な「ビジョン」「戦略」とは、言葉が明確なことではなく、他社との差別化が明確なことを言う。
6)もともと未来志向の戦略や施策はつねに実行段階で問題・課題に直面し、修正を必要とする。戦略の立案、修正と実行は一心同体。
7)新しいことをやろうと思ったら、抵抗があって当たり前。ないほうがおかしい。
8)採用とは、「ほしい人材」像を明確にし、「ほしい人材」が応募するようにする経営の仕事である。
9)採用、人事評価・処遇制度は企業の根幹をなす仕組みであって、どんな制度でも地道な実行と修正の取り組みがなければ効果は上がらない。
10)人事は「人事部」の問題でも、「国のカルチャー」の問題でもない。一つひとつの企業の「経営」の問題である。
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とくにこの中の「5)明確な「ビジョン」「戦略」とは、言葉が明確なことではなく、他社との差別化が明確なことを言う。」が大切なようで、会社の「ビジョンを考える正しい前提」として、「万人に受け入れられるビジョンは意味がない」とも書いてありました……。
これらの「経営を考える大前提」はもちろん、具体的な「よく耳にする問題」を考える上での「前提」もとても参考になるので、会社の経営や管理で苦労している方は、ぜひ読んでみてください。何か、現在抱えている問題解決のためのヒントを得られるかもしれません。本書の中では「解決策」まで示されてはいない「よく聞く問題」もありましたが、少なくとも問題に直面する関係者の「前提」を統一することは、最も良い解決策にたどりつくためにプラスに働くと思います。
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