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第1部 本

生活

そもそもこうだよ住宅設計(増田奏)

『そもそもこうだよ住宅設計』2021/12/5
増田 奏 (著)


(感想)
 住宅設計の原理・原則を改めて解き明かしてくれる本です。
 15万部突破のロングセラー『住まいの解剖図鑑』の第2弾というので、一般人にも参考になる住宅の本だとばかり思ったのですが、冒頭の「キホンその一 建物は水平・垂直・直角がシャンとしてこそ凛々しい」では、ネコ(車)、サル締まり(上げ下げ落し)、ウマをかます、ウマに載せて作業、アンコウ(集水桝)などの建築現場用語のイラスト紹介があって……「?」となりました。あらためてタイトルを見直すと、『そもそもこうだよ住宅設計』……この本は一般向けの本ではなく、設計者(建築関係者)向けの本だったのです。「はじめに」には次のように書いてありました。
「(前略)住宅設計について思い込んでいたり、勘ちがいしていたりした数々のことに気が付きました。私と同じ遠回りをしてほしくない。それで、この本を書きました。住宅設計上で疑いもせず盲信していたこと、考え過ぎて本末転倒していたこと。」
 この本は、建築関係者が間違いがちなことを、住宅設計全般にわたって、ゆるーく語ってくれる設計者向けの「一生モノの設計心得」エッセイ集だったのです。
 それでも一般人にも参考になることも、いろいろ知ることが出来ました。
 例えば、「その四 誰が為に図面はある 応用編:図の昇格」の「図面はあなた以外の人々のために」で書かれていたこと。
「1メートル50だ!」と言われたら、建築関係者ならば1m50mmだとすぐに判断できるはず。けれど、一般の人は1m50cmと受け止めるだろう。建築設計図はmm単位で表す習慣だが、それは業界の習わしでオタクっぽいのだよ。」
 ええ? 一般人は、「1メートル50」と言われたら、絶対に1m50cmだと思いますよ! というか、この言い方って世界的に通用するんでしょうか? 日本だけなら、大きな勘違いの原因になりそうだから、やめた方がいい習わしでは? ……うーん、でも「1メートル50」って、私たち一般人もつい言ってしまいがちな表現ですよね……とりあえず今後は、私自身もちゃんと「1メートル50センチ」と全部の単位を言うよう心掛けたいと思います。
 また思わず笑ってしまったのが、「その七 建築現場搬入心得 遊べや遊べ! 逃げろや逃げろ!」の「なんでもピッタンコに設計しちゃダメ!」。引っ越しの最中になって、冷蔵庫がキッチンに入らない! なんてことが判明することがあるそうです。なぜなら家具や家電を動かすときには、斜めにするとか下に台車を使うとかするので、天井までの高さに余裕がないと、置きたい場所に立てられないから……これ、実際に起こったら、マジ笑えません……。
 そして、へー、なるほどと思ったのが、「その十二 階段の寸法と段数の方程式」。たまに「階段の2段目でつまずくことがある」原因は、まさに「階段の1段目だけが他より少し高かったり低かったりすることがある」からだそうです。実は、改装したりテナントが変わったりするたび、床の仕上げが張り替えられ、床レベルが上下し、階段1段目の蹴上げ寸法がほかの段と異なることになってしまうのに、誰もが1本の階段の各段の寸法は言ってだと信じて疑わないので、2段目でつまずいてしまうのだとか……うーん、それは仕方ないとしても、こういう場合は、1段目と2段目に黄と黒の斜め線を塗装するとか、注意を促す仕組みも作っておくべきじゃないでしょうか。
 また感心させられたのが、「その十五 雨仕舞いと防水は違います」の「古民家に学ぶ雨仕舞の知恵:要点は4つ。屋根勾配、軒の出、水切り、空隙だ。雨水はさっさと流し、侵入はさりげなく追い払うべし」。
 この空隙(エア・チャンバー)の仕組みは、「外側の隙間を比較的大きく、内側の隙間を極力小さく、最前線に設けるのがコツ。雨水の侵入を必死に防ぐのではなく、更に奥まで入ろうとする気をそいで、一旦入ってきても、やがて出て行くようにするのだ。」なのだとか。こういう知恵って素晴らしいですね!
 また、とても良いなと感じたのが、「その十七 片付ける=仕舞うではありません」の「収納の意識改革」。「片付けとは、使うモノをきれいに出しておくこと。仕舞うとは、使わないものを出しやすく隠すこと」だそうです。
 ここでは、「納戸を廊下(通路)と兼用する」例として、車庫から倉庫(通路)を抜けて玄関へ、玄関からクローク(通路)を抜けてホールへ、台所から食品庫(通路)を抜けて勝手口へ、クロゼット(通路)を抜けて寝室へ、などがイラストで描いてあったのですが、すごく使いやすそうに感じました。
 住宅設計の本来あるべき基本を振り返り、住宅設計上でやってしまいがちなこと(問題)を、ユーモアまじりに教えてくれる本でした。建築業界で仕事をしようと考えている学生の方、建設業界に入りたての新人の方には、とても参考になると思います。ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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