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第1部 本

歴史

「木」から辿る人類史(エノス)

『「木」から辿る人類史: ヒトの進化と繁栄の秘密に迫る』2021/9/28
ローランド・エノス (著), 水谷 淳 (翻訳)


(感想)
 二足歩行、交易、産業の発展……すべて成功の鍵は「木」にありました。類人猿の樹上の巣から、交易に活用された木舟、多様な建築技術、エネルギー源としての木炭まで……木の驚くべき汎用性を通して、今まで見えていなかった新しい歴史の姿が現れてきます。
 人類学・建築学・生体力学など幅広い研究をもとに、構造的な特殊性をもつ木と、創意工夫に長けた人類の700万年にわたる関係を、斬新な視点で解き明かす壮大な歴史物語です。
「第15章 木との関係を修復する」には、本書の内容を総括するような文章がありましたので、その一部を以下に紹介します。
「本書で伝えたかったことは、人類が一つの生物種として成功するうえで、私たちと木との関係が重要な役割を果たしてきたということである。そのおかげで人類は、木から下りて最強の捕食者となり、南極を除くすべての大陸に入植し、最終的に地上を自分たちのために独占した。そうして地球を改造してきた。広大な森を切り拓いて、残された森林の構成を変化させてきたが、数百年まえまではほぼ持続可能な方法にとどめていた。しかしいまでは、誰が見てもけっしてそんなことはない。
 いまから振り返ると、歴史上の転換点は1600年ごろ、薪や木炭から得ていたエネルギーが徐々に化石燃料に置きかえられていったときだろう。これによって都市化が進み、科学が生まれ、資本主義と工業化が始まった。石炭・天然ガス・石油という、無尽蔵に思える新たなエネルギー源を使って人口を増やし、この世界の理解を深める科学機関を次々と作り、新たな知識とパワーを組み合わせて新素材を大量生産してはさまざまな製品を製造した。その結果、400年にわたってかつてない物質的進歩と経済成長が実現した。(中略)
 工業化によって、環境を破壊するような林業があらゆる国に広まり、世界中の森林がさらなる危機に陥っている。さらにもっとも困ったこととして、工業化によって私たちは自然界から切り離され、人類誕生からずっと続いてきた、木材やそれを生み出す樹木との関係が乱されている。」
 ……人類が直立二足歩行を進化させたのは、地上に降りたからではなく、木の上を歩くためだったとか、木の上に巣をつくったことで安全に眠れるようになったとか、自己の概念を発達させたのは、林冠を安全に移動できるようにするためだとか、「木」は人類の進化に大きな影響を与えたようです。
 また果実食になったことで、果実が熟すのが、いつ、どこでを予測するために、脳内に周囲の時間・空間的地図を記憶するようになり、脳も進化していったとか……。
 人類の進化というと、今までは「石」が注目されてきましたが、実は腐りやすくて証拠が残りにくい「木」の方が、より早く人類との関りをもってきたはず……確かにそうだよなーと思わされました。しかも東洋には「竹」という超便利な自然素材があり、これを食器や道具などに利用しないはずはなかったのではないかと思います。
 また木を燃料として利用することで暖をとり、調理をするようになったことも、人類の進化に大きく寄与したと考えられています。
 そして人類は木製の道具を活用して、農耕を始めるようになります。
「(前略)農耕が始まった時代は場所によって異なる。また利用した栽培植物も、編み出した農耕形態も、周辺の森林に与えた影響もさまざまである。(中略)
 しかしどの地域でも、人々は新たな磨製石器のおかげで森を切り拓いたり土地を耕したりできるようになった。また、大きな家を建てることから、畑に塀をめぐらすこと、道具を作ること、家具や家庭用品を作ること、舟を造ること、さらには道路を敷くことにいたるまで、多種多様な望みがかなえられた。新石器時代の世界は、森林面積こそ中石器時代より小さかったものの、木の必要性と利用度合いはもっと高かっただろう。長方形の家、木製家具、舟、広域道路網のあったその世界は、私たちにとって驚くほど見慣れた風景だっただろう。」
 さらに木は、木・木炭・石炭が金属の融解と製錬に、建築に、蒸気機関の燃料に、紙の製造にと、どんどん活かされていくのです。
 そして現在では、合板、集成材などの発明で、木材の生産量と使用量は年ごとに増えています。
 驚くような新技術も、世界中の木材科学の研究施設で、次々に開発されているそうです。例えば、鋼鉄やアルミニウムの代わりに利用できるほどの強度や靭性をもった新素材、透明になってガラスの代わりになる変性木材、さらに木材から生分解性プラスチックを作る手法も開発中なのだとか……なんか凄いですね☆
 でも森林面積の減少が地球温暖化に悪影響を与えているのも確かなようで、木にハイテクを用いる方法の問題には、1)カーボンニュートラルでないこと(木材の伐採・輸送・機械加工にエネルギーが必要)、2)木材の需要がさらに増えて破壊的な伐採と植林を拡大させてしまう、などがあるそうです。
「木」と私たちは、古代から密接な関係を続けてきました。人間は、「木」から多大な恩恵を受け続けているんですね。今後もこの大切な木を、守り続けていきたいと考えさせられました。
「木」から辿る人類史……木との関係が私たちヒトの進化と繁栄をどう支えてきたかを、じっくり知ることが出来る本でした。とても勉強になるとともに、「木」の大切さを実感できる本です。ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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