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第1部 本
数学・統計・物理
2次元より平らな世界(スチュアート)
『2次元より平らな世界―ヴィッキー・ライン嬢の幾何学世界遍歴』2003/1/28
イアン・スチュアート (著), 青木 薫 (翻訳)
(感想)
「平面世界」に住むヴィッキー・ライン嬢が、次元を自在に飛び超える能力を持つ不思議な生物スペースホッパーに導かれて幾何学世界を旅する冒険物語です。
ビクトリア朝時代のイギリスで出版された本に『2次元の世界(著者:E・アボット)』というタイトルがあるそうですが、その本に、一般向けの数学書を得意とするスチュアートさんがほれ込んで、自ら書き上げた続編が、本書『2次元より平らな世界』なのだそうです。
『2次元の世界』は読んでいないのですが、本書の「まえがき」によると、教育目的だけでなく社会風刺も込められていた一般向けの科学書(幾何学)だったようです。21世紀に入った今日は、『2次元の世界』の書かれた19世紀末の段階から大きく進展しているので、この新しい状況(知見)のもとで、『2次元の世界』の続編を描こうとスチュアートさんは考えたのだとか。だから、この本の主人公ヴィッキー・ライン嬢は、『2次元の世界』の主人公A・スクエア氏の子孫という設定のようです。
ということで、ヴィッキーはある日、ひいひいお祖父さん(A・スクエア)の残した手記を見つけます。それによれば、お祖父さんは2次元の住人には想像もできない、球形をした3次元からの使者スフィアに導かれて高次元の秘密をかいま見、それを2次元世界に広めようとして異端者扱いされ投獄されたらしいのです。
好奇心をそそられたヴィッキーは、次元を自在に飛び超える能力を持つ不思議な生物、スペースホッパーを呼び出すことに成功します。そしてヴィッキーは、奇妙な数学的宇宙(マセバース)を巡ることになるのです……。
こうして始まる数学的大冒険。面白いのか、勉強になるのか、わけが分からないのか……なんだかよく分かりません(笑)。一応は「冒険物語」なので、軽妙な語り口で楽し気に(?)物語は進んでいくのですが、なにしろ主人公が「平面世界」の「直線」のヴィッキー・ライン嬢。平面の妙な世界にまず驚かされます。
二次元の世界は、三次元世界に生きている私たちにとっては想像しやすいようにも感じますが、実際に「平面だけの世界」のリアルな生活を描くのはかなり難しいようです。この物語の中でも、「平面世界」のはずなのに、なぜか「箱」があったり、正方形の父親が「柔らかくて少しバネの利いたソファ」にどさりと座ったりするんです(笑)。……どうやら著者がうっかり、やらかしてしまったようで、ちょっとニヤリとしてしまうと同時に、他次元の世界を理解しようとするのは、やっぱり難しいことを痛感させられました(笑)。
個人的に面白いと感じたのは、「第4章 七次元の自転車はどんな形か―次元とは何だろう」。なんと「自転車には、前輪回転、後輪回転、ペダル回転、ハンドル回転などの七次元がある」なんて言ってるんですよ! どうやら「全体をずらすか回転させるかすれば同じ形になるものを1次元とみなす」ということのようです。これについて、ヴィッキー嬢は次のように語ります。
「要するに「次元」というのは、「変数」のことなの。変数を幾何学的に言い表したものが次元なのよ。時間は空間とはまた別の次元で、四つめの次元と考えることもできるけれど、四つめの次元になれるという点では、温度や風速や、アルゼンチンに住むというシロアリの数だって同じことなの。三次元空間の中にある点の位置は、三つの変数によって決まる、つまり、基準となる点から見て、東、北、上向きにそれぞれどれぐらい進んだかがわかればいいわけでしょう。それと同じく、四つの変数で決まるものは四次元空間内にあるといえるし、百個の変数で決まるものは百次元空間内にあるといえるのよ。」
「次元」って「変数」のことだったのか……だったら私たちのこの世界だって、三次元じゃなくて、百五十次元ぐらいだっていいのでは? だって、自転車だけで七次元も使ってしまうんだから……なんだかわけが分からない感じですが……新しい見方に気づかされたような新鮮な気分にもなりました(笑)
こんな感じに数学的な話をしながら、ヴィッキー嬢がスペースホッパーとともに、三次元どころか多次元世界まで、VUM(ヴァーチャル非現実マシーン)で旅をするのです。
この他にも、ビストロでワインを飲みながら「射影幾何学」を、巨大なディナー皿のような双曲の国で「ユークリッド幾何学」を、さらには超ひも理論まで、彼女は冒険をしながら、スペースホッパーに解説されて学んでいくのでした。
残念ながら三次元世界の住人の私は、二次元世界のヴィッキー嬢よりも理解力で劣っているようで、彼らが冒険していく世界をよく理解できないままでしたが(汗)、とにかく自分は幾何学が苦手だということと、「他の次元」の理解は本質的に困難だということを痛感させられました(涙)。
「数学的な冒険物語」という困難なテーマに挑んでいる意欲作だと思います。数学が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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