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第1部 本
数学・統計・物理
フェルマーの最終定理(シン)
『フェルマーの最終定理 (新潮文庫)』2006/5/30
サイモン シン (著), Simon Singh (原著), 青木 薫 (翻訳)
(感想)
天才数学者アンドリュー・ワイルズさんの「フェルマーの最終定理」完全証明に至る波乱のドラマを軸に、3世紀に及ぶ数学者たちの苦闘を描いた感動の数学ノンフィクションです。(なおこの本は、シンさんが制作にかかわったBBCのテレビドキュメンタリー「フェルマーの最終定理」をもとにしています)。
有名な「フェルマーの最終定理(2乗よりも大きいべきの数を同じべきの2つ数の和で表すことは不可能である(整数解をもたない)」は、17世紀の数学者フェルマーさんの息子さんが、父親の仕事をまとめて刊行した『P・ド・フェルマーによる所見を含むディオファントスの算術』のなかに記されています。この「フェルマーの最終定理」には、謎めいたメモが書き添えてありました。
「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」
そして、その後の三世紀もの間、この「フェルマーの最終定理」は、誰も解くことができなかったのです。
ところがこの数学界最大の超難問「フェルマーの最終定理」に、ついに解かれる日がやってきました。1993年の夏に、アンドリュー・ワイルズさんが証明を発表したのです。
「ついに解けた!」世界中が大興奮につつまれました。が……その証明には小さな問題があることが発覚。証明の一部に使われていたコリヴァギン=フラッハ法が、ワイルズさんの思惑通りに機能するという保証がなかったのです。指摘を受けたワイルズさんは失意の中、さらに一年以上もがき続け、ついに問題の解決法を見出しました。こうしてようやく、「フェルマーの最終定理」に決着がつけられたのです。
この本は難解な(はずの)数学の本で、数式もかなり出てきますが、サイモン・シンさんの素晴らしい文章のおかげで、どんどん読み進むことが出来ました。
しかも、フェルマーの定理の直系祖先と言われるピュタゴラスの直角三角形の公理「直角三角形の斜辺の2乗は、他の2辺の2乗の和に等しい」から物語を始めてくれるので、数学の基礎概念や、歴史的な経緯を知ることが出来て、すごく勉強になります(例えば、オイラーが、フェルマーの最終定理を証明しようとして「虚数」という概念を導入したことなど。なお「虚数」は16世紀のヨーロッパの数学者たちが発見していたそうです。)
また科学と数学の違いも、とても参考になりました。数学以外の科学分野では、「まず仮説を立てて実験によってそれを検証する。そして仮説の誤りが示されれば、別の仮説がそれに取って代わる」という方法で進歩してきました。ところが数学のやり方は、それとはまったく違うのです。数学の核心は証明にあり、「完全な証明」こそがゴール。一度証明されるということは、永久に証明されることで、変更の余地はないのです。
この本は、ワイルズさんが、「フェルマーの最終定理」を証明するにあたって、それまでの数学者たちの仕事(ガロアの群論、楕円方程式、谷山=志村予想、岩澤理論、コリヴァギン=フラッハ法など)をベースにして考えを進めていったことを明らかにしていきます。そして彼のこの仕事もまた、新しい数学者たちに、さらに新しい階段を上らせるヒントを与えていくのでしょう。
「フェルマーの最終定理」を証明した後、ワイルズさんはみんなにこう言われたそうです。
「きみは問題を奪ったのだから、その代わりになるものをくれ。」
……数学者は、いつも難しい問題を求めているのですね。
さて、現在はコンピュータや人工知能の進歩が著しく、答えのチェックをするだけでなく、遺伝アルゴリズムを使って、「プログラムを問題解決に向けてひとりで進化させる」方法すら研究されています。(これは、コンピュータが、母プログラムにランダムな突然変異を起こさせて少しずつ異なる娘プログラムを何百も作り出し、この娘プログラムに具体的な問題を解かせて、解決にもっとも近づいたプログラムだけに突然変異による次世代の娘プログラムを残すことを許す……という進化的手法です。)
このような方法は、「コンピュータは、なぜ答えがそうなるのかという洞察を与えない」ので、邪道だと感じる数学者が多いようですが、人間が考えるためのヒントや試行錯誤を手助けしてくれるのではないかと思いますし、たとえ美しくないプログラムだとしても、「少なくともこの方法で解くことができる」ことを教えてくれるので、数学者にとっても有益なのではないかと思います。人工知能などの新しい科学の手助けを受けて、数学がさらに進歩していくといいなと願っています。
数学の苦手な私に、難解な数学の世界の一部を垣間見せてもらえた気持ちにさせてくれた魔法のような本でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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