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第1部 本
数学・統計・物理
直観でわかる微分積分(畑村洋太郎)
『直観でわかる微分積分』2010/10/27
畑村 洋太郎 (著)
(感想)
「直観でわかる」数学シリーズの第3冊目、「微分積分」に関する解説本です。
「微分積分」は嫌いな人が多いと思いますが(汗)、数学が苦手な私は、意外なことに、そんなに嫌いではありませんでした。と言うのも、「公式に当てはめれば正解が出せる」ものが多かったから(汗)。大学受験のために、直前になって慌てて復習を始めた私にとっては、貴重な得点源になるものだったのです。
とは言うものの、数学の復習を始めてすぐに、「やばい。微分積分って、特殊なケースの問題ばかりだ。これ以外の問題が出題されたらどうしよう……」という(無用な)心配にも襲われてしまいましたが……。
残念ながらそれまで数学の授業をちゃんと聞いてこなかったので、こういう心配が「無用」なことを誰かに教えられたのかどうかも分かりませんが(汗)、この本では、工学の専門家・畑村さんが、微分積分はもともと「特殊なケース」しか解けないものだということをきちんと教えてくれます。
だから微分積分が苦手な高校生に最適です……と言いたいのはやまやまですが、この本には、かなり難易度の高い微分積分(三角関数の微分積分など)も出てくるので、全部を理解するのは大変かも……。
それでも、前半の「1 短冊に切り分ける―微分・積分の考え方」、「2 関数とは「箱」である―微分・積分で知っておくべき関数」、「3 図と式は等価である―グラフと式で見る微分・積分」は、すごく参考になるので、是非読んでみて欲しいと思います。
なかでも「3 図と式は等価である―グラフと式で見る微分・積分」では、「グラフの下の領域を縦切りにして、短冊に置き換える」に始まる、「図を使って直観的に理解する」方法がすごく勉強になりました。
微分の場合は、「短冊の幅と短冊の高さの増し分の比に着目」し、それを「左から順に横一列に並べ」、「その頂点を折れ線で結ぶ」という方法で、微分の動作を図式化します。
積分の場合は、「短冊の高さ」を取り出して、それを「左から順に上に積み重ねて」、「積み重ねた短冊の頂点を折れ線で結ぶ」という方法で、積分の動作を図式化するのです。
なるほど……こうやって図表化すると、微分と積分の特徴を本当に「直観的に」つかみやすくなりますね。(この文章を読むだけだと、なかなか理解できないと思いますが(汗)、本にはきちんと「図」が描かれているので、とても分かりやすいのです。)畑村さんは次のように言っています。
「筆者が読者のみなさんにおすすめしたいのは、数式を学ぶときには図も一緒に頭の中に思い浮かべることである。(中略)数式は、日常生活でつかう言葉よりも、はるかに抽象度の高い言葉である。数式が意味することを数式だけから理解するのは、ふつうの人にとって並大抵のことではない。そこで、理解の助けとして「図」が必要になるのである。」
……なるほど、確かにそうですね……。
さらに「4 時間軸を入れる―微分方程式」では、「微分も積分もいつも解けるとはかぎらない」と明言しています。そして「知識を活用して解く」「式の意味を考えて解く」「グラフの形を考えて解く」という3つの解法を実例で教えてくれるのですが……この実例には、三角関数の微分積分が使われているので、この章の最初では、もう少し簡単な微分積分の実例で3つの解法の説明をして欲しかったなーと感じました(汗)。三角関数の微分積分は、二つ目の実例として使って欲しかったと思います。
さて、数学が苦手だった高校生までの私は、「微分積分なんか実生活ではほとんど使わないものだから、理解出来なくても何も困らないもんね」と考えていたのですが(汗)……実は「微分積分は実生活でかなり使うもの」なのでした。驚いたことに「数学や物理学」だけでなく、ほとんどの「工学」で微分積分が必要になります。畑村さんも次のように言っています。
「微分・積分の概念は、数学の長い歴史の中で初めて、学問の枠組みをこえる概念になったのである。物理学、工学、経済学といった他の学問分野は、数学から微分・積分の概念を借りてくることで発展したのである。これはつまり、微分・積分の概念が生まれたことで初めて、現実世界の現象を数学で記述できるようになった、ということである。それまでの数学は、どちらかというと抽象世界での思考作業であり、算術計算や測量計算を除けば、現実世界との結びつきはあまりなかった。そういう意味で、微分・積分の概念が生まれたことは、非常に画期的なことだったのである。」
……「微分・積分」は現実世界の動きを「分かりやすく」理解するために、必要なものだったのでした。
そして数学が苦手な私は、数学というのは「世界を厳密に美しく構築する」ものなのだと勘ちがいしていたのですが、どうやら「微分・積分」の世界は、「細かいことは気にせず、泥臭くても、現実に使えるレベルで概算してみようよ」という気持ちで出来ているようです。
そんな「微分・積分」は、「科学の基礎」をなすものなのでした。
「微分方程式とは、現象の時間的な挙動を明らかにする数学的な手法である。微分方程式を立てるには、現象を支配する構成要素を摘出して、それを構造化する必要がある。ここでいう構造化とは、各構成要素の絡み具合とその時間変化を「関数」の形で記述する、ということである。そうして立てた微分方程式の中に、具体的な物理量を数値データの形で入れ、動かしてみる。それが「シミュレーション」である。ここでまた、ただし、である。シミュレーションとはあくまでコンピュータの中での仮想的な現象像である。それが本当に現実世界の現象を表現するものかどうかは、実際の現象と比較して検証しなくてはわからない。その検証の結果、現実の現象と合致するのが確認されたときに、そのシミュレーションは正しいものであったことがわかるのである。そして、最初に立てた微分方程式の正しさも、ここで初めて確認できるのである。こういうものの理解の仕方は、まさに科学的な理解の仕方そのものである。「微分方程式が今日の科学技術をささえている」と言われるのはそのためである。」
……数学が苦手だった私にとっては、ちょっと難解な解説も多かったのですが、とても参考になる部分もたくさんありました。理系の学部に進みたい方にはもちろんのこと、文系でも経済学など数学が必要になる学問を学びたい方にとっては、すごく参考になると思います。ぜひ読んでみてください。
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