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第1部 本

天文・宇宙・時空

「はやぶさ2」のすべて ミッション&メカニカル編(吉川真)

『「はやぶさ2」のすべて ミッション&メカニカル編: 小惑星リュウグウ探査プロジェクト』2020/12/3
吉川 真 (監修)


(感想)
 2020年12月に小惑星リュウグウのサンプルを地球に持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ2」。太陽系の起源・進化と生命の解明、そして深宇宙探査技術の確立に挑む「はやぶさ2」の、計画から打ち上げ、現在までの運用から拡張ミッション、探査機や搭載機器などを、豊富な写真・図版とともに解説してくれる大型本で、内容は次の通りです。
はじめに
Chapter1 「はやぶさ2」プロジェクト概要
Chapter2 「はやぶさ2」の機体と機器
Chapter3 打上げから小惑星リュウグウ到着まで
Chapter4 小惑星リュウグウ探査
Chapter5 地球帰還、そして次のミッションへ
Epilogue 「はやぶさ2」の成果
おわりに
   *
「はやぶさ2」の目標は、「科学(リュウグウの表面と地下の探査)」、「技術(小惑星のサンプルリターン技術)」、「探査(人類未踏の場所の探検)」。そして、キーとなる技術は次の4つです。
1)イオンエンジンと軌道計画(イオンエンジンと地球スイングバイ)
2)光学誘導航法技術(光学電波複合航法、地形照合航法、ターゲットマーカ―自動認識着陸技術)
3)サンプル採取技術(弾丸方式採取装置)
4)大気圏突入カプセル
 この他にも「地表探査ロボット4基」、「小型衝突装置(クレーター作成)」、「観測用分離カメラ」、「Ka通信系」などさまざまな技術が盛り込まれています。
 そして「はやぶさ2」の飛行計画は、次の4つのフェーズに大きく分かれていました。
1)EDVEGAフェーズ:打ち上げから地球スイングバイまでの区間
2)トランスファーフェーズ:地球スイングバイ後、2年半のイオンエンジン航法によりリュウグウに到達するまでの区間
3)小惑星近傍フェーズ:リュウグウのごく近くに約1年半とどまって観測や着陸、人工クレーター作成、着陸機展開などを行う区間
4)リターンフェーズ:イオンエンジン航法で地球へ飛行する1年の区間(2020年末にリュウグウが地球に最接近するので、往路よりも少ないエネルギーで帰還できる)
 さらに、この4)で「はやぶさ2」がサンプルを地球に落とした後、再度地球をスイングバイして他の小惑星へと向かうという「おまけ」フェーズもあります。
 実はこの本は、「はやぶさ2」がサンプルを帰還させる1か月ほど前に書かれたものなので、4)フェーズについては「予定」として書いてありますが、「はやぶさ2」は現実に予想以上の量のサンプルを地球に帰還させただけでなく、現在は「おまけ」フェーズに向かっているという素晴らしい成果をあげてくれています。
 この本はその「はやぶさ2」の機体や機器を写真やイラストで見せてくれるだけでなく、小惑星リュウグウ探査の状況なども、写真やイラストで詳しく解説してくれています。大型の本で貴重な写真が豊富なので、すごく読み応えがありました。
 例えば、惑星の重力を利用して燃料を使わずに探査機の速度を変化させる「スイングバイ」技術についても、イラストを活用した分かりやすい解説があります。
「(前略)(探査機が)惑星に十分近づくと、探査機に作用する一番大きい力はもはや太陽ではなく、接近する惑星の重力となる。この惑星重力が卓越する領域を「影響圏」と呼ぶ。
 では次に、影響圏の中の探査機の運動を考えよう。惑星に接近する際、探査機の速度は、惑星の重力に引っ張られて徐々に加速するとともに、軌道の形も天体の方向へ曲がる。探査機の速度が最も速くなるのは、惑星に最接近したときだ。その後は、引き続き惑星の重力に引っ張られるわけだから、それがブレーキのように作用し、探査機の飛行速度は遅くなっていく。(中略)
影響圏に入るときの速度(Va)と影響圏を出る時の速度(Ve)は、向きは違うが大きさは同じだ。(中略)VaやVeは、影響圏内での速度だから、それを影響圏外の(太陽中心の)速度に焼き直すためには、VaやVeに惑星の運動速度の影響を加えてやる必要がある。(中略)つまり、太陽に対する飛行速度はスイングバイによって増速したことになる。
 このように、燃料を使わずとも惑星の公転運動と探査機の惑星接近時の運動が絡み合うことで、探査機の(太陽に対する)飛行速度を変化させられるのが、スイングバイというテクニックなのだ。(中略)
惑星の近くを通るほど軌道が極端に曲がるため、スイングバイの効果も高まる。逆に言うと、どの距離まで接近させるかで曲がり具合は敏感に変化するから、スイングバイを成功させるためには精密な軌道制御が重要なのだ。」
 ……解説をかなり短く切り取ってしまったので少し分かりにくくなってしまいましたが、もちろん本文には、イラストを使ったもっと詳しい説明があります。(なお、スイングバイは、惑星への接近方向によっては、増速ではなく減速させることも可能だそうです。)
「はやぶさ2」は地球を利用して、このスイングバイを行ったのですが、このフェーズを利用して地球と月の観測も行っています。これにより地球や月の明瞭な観察が出来ただけでなく、搭載しているカメラや観測機器のチェックも出来たそうです。
 この他にも、「後方誘導制御で重要な目印となるターゲットマーカ―には日本の伝統的玩具の「お手玉」の原理が使われている」とか、「弾丸式サンプル採取装置には、サンプラホーンの先端部に熊手のような折り返し部がつけてあって、タッチダウンさえすれば表面の小石などを引っかけて採ってくることができるようにしてある」とか、興味深い内容が盛りだくさんです。
「はやぶさ2」には、「はやぶさ」の経験が存分に活かされていて、不安な部分(「はやぶさ」で失敗した部分)は多重化するなど、信頼性を高める工夫が随所に見受けられました。
 とにかく写真やイラストが豊富で、リュウグウで撮影した貴重な写真もたくさん見ることが出来て、とても読み応えのある素晴らしい内容でした。採取したサンプルの分析結果などの続編も、ぜひ出して欲しいと思います。みなさんも読んで(眺めて)みてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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