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第1部 本
天文・宇宙・時空
はやぶさ2の宇宙大航海記(津田雄一)
『はやぶさ2の宇宙大航海記』2021/3/18
津田 雄一 (著)
(感想)
2020年12月6日、オーストラリアのウーメラ砂漠に、小惑星探査機「はやぶさ2」から切り離されたカプセルが、約6年間の宇宙航海の末に届けられました。この本は、プロジェクト・マネージャとしてミッションを進めてきた津田さんが、小惑星「リュウグウ」での探査をメインに、はやぶさ2の船出からカプセル帰還までの実際の状況(幾多の困難や葛藤を乗り越えてのタッチダウン、コロナ禍でのカプセル帰還)を紹介してくれる航海の記録です。
巻頭には、はやぶさ2のハイライトが詰まったフルカラー口絵も収録されていて、「はやぶさ2」の全容をじっくり眺めることが出来ます☆
「はやぶさ2」は、工学技術の面では、次の9つの世界初を達成したそうです。
1 小型探査ロボットによる小天体表面の移動探査
2 複数の探査ロボットの小天体上への投下・展開
3 天体着陸精度60cmの実現
4 人工クレーター作成とその過程・前後の詳細観測
5 同一天体2地点への着陸
6 地球圏外の天体の地下物質へのアクセス
7 最小・複数の小天体数回人工衛星の実現
8 地球圏外からの気体状態の物質のサンプルリターン
9 C型小惑星の物質のサンプルリターン
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絶望的な状況から地球への帰還を果たして私たちに感動を与えてくれた、あの「はやぶさ」に続くプロジェクトで、「はやぶさ」の失敗経験が活かせるとはいえ、期待された以上の成果をあげて大成功をおさめた「はやぶさ2」。その成功の背後に、こんなにも多くの試練・努力があったなんて……驚くとともに、あらためて感動させられました。
一般の人に向けて書かれているので、専門用語も少なくて読みやすかったのですが、ところどころに漫画も挟まれていて、さらに楽しく読み進めることが出来ました。この漫画は、「JAXA はやぶさ2プロジェクト」公式ホームページに掲載されている『こちはや漫画版』の転載だそうです。
困難を乗り越えるための技術的な工夫もとても読み応えがありましたが、個人的に最も参考になったのは、「チーム力を高めるために繰り返したリアルかつ難度の高い2つの訓練」。精巧なシミュレーターと3次元モデルを作成して、訓練を繰り返したそうです。
「はやぶさ2」が見舞われるトラブルを人為的につくりだしてリアルタイムで対応するRIO訓練では、通信機に故障を起こしたり、通信を途絶させたり、などのトラブルをつくり出して対処させることで、チーム力を向上させたのだとか。訓練を受ける運用チームは、いきなり襲い掛かってくるトラブルに対処し、運用を継続すべきか、アボート(中止)すべきか、その場で決断を迫られます。こうやって「追い込まれた状況でも、迅速かつ的確に状況を把握し、どう対処するかを、瞬時に判断できるチーム」へと訓練していったそうです。
この訓練は、実際に直面した困難な状況(タッチダウンなど)で活かされることになったのですが、いろんな意味で素晴らしい訓練だと感心させられました。これを受けたメンバーは、間違いなく経験値を爆上げできますし、今回のプロジェクトだけでなく、これ以降のプロジェクトにも活かすことが出来ると思います。今後の宇宙開発を担う人材の育成に、最高の教材になったのではないでしょうか。
結果として最高の成果をあげた「はやぶさ2」ですが、すべてが順調に進んだわけではもちろんなく、例えば目標の小惑星「リュウグウ」への最初のタッチダウンでは、「はやぶさ2」が予想外の急上昇をみせるなどの問題が発生しています。小惑星「リュウグウ」の地面の反射率が事前の想定と違っていたために、「はやぶさ2」は、これ以上の効果は危険だと自ら判断して危機回避のために急上昇していたのです。だから失敗というよりも、むしろ成功だったのかもしれません。
「はやぶさ2」のこの「慎重すぎる性格」は、プロジェクトを成功するための重要な鍵だったのだと思います。が、次のタッチダウンの時には、偽の情報を割り込ませて「慎重すぎる性格」を緩和させるなどの裏技を使っています。……どんな状況でも知恵を絞るって、本当に大切なんですね……これが「はやぶさ」スピリットか……。
そしてついに「はやぶさ2」が「リュウグウ」への仕事を終えて、地球へ帰還することになったのですが……なんと! 今度は予想外の「地球のトラブル」が! カプセル回収前に、あの新型コロナが人類に襲いかかってきたのです。
……そうだったんだ……「はやぶさ2」のカプセル回収のニュースには、TVを見ながら「ああ、ちゃんと回収できたんだ。良かった」と思っただけでしたが……あれはコロナ問題に対応しながらの回収だったんですね……本当にお疲れさまでした。見事な采配、ありがとうございます。
しかも、このプロジェクトには、なんとさらに「おまけ」があったのです。カプセルを地球に届けた後の「はやぶさ2」は、余力を利用して次の小惑星「1998 KY26」に向かっているのです! うわー……凄いぞ「はやぶさ2」。
本当に素晴らしい『はやぶさ2の宇宙大航海記』でした。技術的にも、組織運営的にも、すごく参考になる情報がもりだくさんです。しかも、すごく面白くてワクワク・ドキドキさせられます。ぜひ読んでみてください。だんぜん、お勧めです☆
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