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第1部 本

社会

データ立国論(宮田裕章)

『データ立国論 (PHP新書)』2021/3/17
宮田 裕章 (著)


(感想)
 データサイエンティストとして科学を駆使した社会変革に挑んでいる宮田さんが、データは、「価値=貨幣」というこれまでの大前提を覆して、多様な価値が交換可能になる「産業革命以来の大変化」をもたらすことを教えてくれる本。データは、人々を経済合理性至上主義から解放し、多種多様な価値観が共存する「新たな民主主義の礎」を築くそうです。
「第1章 データが変える社会」には、次のようなことが書いてありました。
「これまでは「最大多数の最大幸福」、より多くの人が幸福を感じられる単一のパッケージを提供するのが基本的な考え方でした。しかし、個別最適化が可能なデータ社会では、「最大多様の最大幸福」――可能な限りの多様な価値、一人ひとりに寄り添う支援や枠組みを提供すべきだ、ということです。」
 また、データのより良い利用を促すうえで、次のEUの「一般データ保護規則(GDPR)」が重要な役割を果たしているのだとか。
「現在、世界的にも「データは独占してはならない」という意識は浸透してきました。歴史的な転換点になったのが、2018年にEU(欧州連合)で施行された「一般データ保護規則(GDPR)」です。大まかに言えば、GDPRは「あらゆる市民が、国や企業に提供した個人データをコントロールする権利がある」ことを定めたルールです。個人の「データへのアクセス権」を保証するこの画期的なルールによって、それまでのGAFAに代表される、データを人知れず大量に収集してお金に換えるというビジネスは、許されない時代になりました。IT企業の側もGDPRを受けて、新しい倫理を模索する動きが生まれています。」
 また「第2章 データ共鳴社会のつくり方」には、つぎのように書いてありました。(なお「データ共鳴社会」とは、「データによって可視化された多元的価値によって、人々が響き合いながらとものに構成する社会」を意味しています。)
「データの共有が進むなかで、「トラスト(信頼、信用)」の価値を見直す動きが高まっています。先に述べた通り、データは使ってもなくなりませんが、信頼をうしなえばその価値を一気に失います。」
 ……最近、いろいろな面で役に立っているビッグデータ。でも……ネットを使うたびに、スマート家電を使うたびに、もしかしたら個人情報が密かに収集されているのかも、という懸念も感じてしまっていました。GDPRが施行されたことで、社会は、より良い方向へ進みつつあるようです。「第3章 データ・シフトで変わる産業の形」には、次のように書いてあり、未来への希望が感じられました。
「GDPRの施行後は、企業による「善行」への貢献が目に見えるようになりました。なぜなら社会が、「善行を積まなければお金がもうからないフェーズに入った」からです。」
 また「第4章 データ共鳴社会の実現に向けて」には、次のように書いてあります。
「データ共鳴社会へ移行するにあたり、日本が目指すべき道は、多様な主体が担い手となり、共創しながら生活者一人ひとりにとっての価値を実現していく「価値共創社会」だと考えています。それは、アメリカのような巨大プラットフォーム企業によるデータ覇権社会でもなく、中国のような国家主導により一元的監視社会でもない、独自の道です。」
 でも日本は、肝心の「データ」にアクセスする権利の設定の点で、まだまだ発展途上にあるようです。この本には、次のようなことも書いてありました。
「たとえば、自分のデータが、あるテックジャイアントのサーバーにごっそり入っているのに、そのデータを見ることもできず、どこにも移せない状態を想像してみてください。そんな状態では、うかうかそのサービスを解約もできず、特定の企業に自分の権利が支配されているような状態にもなりかねません。そうならないためにも、EUは個人情報保護のスタートラインとして、GDPRの施行を皮切りに、データにアクセスする権利やデータポータビリティ権を保障することを規定したのです。
 一方で日本は、データにアクセスする権利の設定は限定的であり、データポータビリティ権もまだ保証されていない状況です。」
 そうだったんですか……。日本も、個人情報などのデータが正しく利用されるよう、法整備を進めて欲しいと思います。
 そして最後の「第5章 生きるをつなげる。生きるが輝く――新たな社会へ」には、次のようなメッセージが書いてありました。
「個々人の意思が反映された社会契約を多層的に結ぶにはどうすればよいか――それを可能にするのがデータです。データでつながる社会は、消費、労働、ボランティア、買う、働く、遊ぶ、学ぶ、観る、着る、表現するといった、ありとあらゆる行動が世界とつながり、社会に反映されます。これはつまり、日々の選択そのものが民主主義になる、と表現しても過言ではありません。」
「あらゆる人がすべての社会課題に通じている必要はありません。自分の関心のあるレイヤーで、for goodな選択をすることが、コミュニティに貢献し、社会づくりに参画することになるのです。」
 ……データを正しく利用することで、よりよい社会を作っていくのは、私たち自身だということですね。私も「for good」な選択が出来るよう、心掛けていきたいと思います。
 この本には、他にも、中国の「社会信用スコア」や、スマホのゲームアプリ「ポケモンGO」、2017年に厚生労働省が提案したPeOPLe(個人を中心にあらゆる医療情報をオープンに活用することを目的としたプラットフォーム)、その他さまざまな事例も紹介されていました。
 データが、人々を経済合理性至上主義から解放し、多種多様な価値観が共存する「新たな民主主義の礎」を築くことを語っている本です。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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