ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
医学&薬学
家は生態系(ダン)
『家は生態系―あなたは20万種の生き物と暮らしている』2021/2/19
ロブ・ダン (著), 今西康子 (翻訳)
(感想)
玄関は「草原」、冷凍庫は「ツンドラ」、シャワーヘッドは「川」。家には様々な環境の生物がすみついている……「家の生態学」をじっくり教えてくれる本です。
えーと……この本は、清潔好きの方には絶対にお勧めできません。理科好きで、昆虫や細菌が苦手というわけではない私ですら、読み進めるうちに、背筋にぞくぞくくるものがありました……かなりホラーな話に満ちています。
さて、ダンさんたちは、群集生態学の考え方や手法を使って、ほとんどの科学者が見落としていた「家」という生態系を調べ上げました。その結果、家の中から20万種を超える生物が発見されたそうです。うちおよそ四分の三が、ホコリ、人体、水、食品、および腸内で見つかった細菌で、およそ四分の一が真菌。残りが節足動物、植物、その他だったそうです。(なおウイルスは除外されています)。
生物学者は研究のためにジャングルや極地など特殊な環境に出かけて生物を採集しますが、わざわざそんな場所に出かけなくても、家の中で驚くほど多様な生き物を見つけることができるそうです。なにしろ家の中には、きわめて冷たい低温環境(冷蔵庫、冷凍庫)、きわめて熱い高温環境(オーブン、給湯器)、酸性の環境(酢など)、アルカリ性の環境(洗浄剤など)などがあるので、世界中の環境の微小生態系が見つかるのだとか。
ひゃー……そうだったんだ。水道水の中にも微小な生物がたくさん……(絶句)。
……でも安心してください。あなたの家だけではありません。どんな清潔な家にも、微細な虫や細菌はいっぱいいるのです。なにしろ非常にクリーンなはずの宇宙ステーションISSにも、人体由来の細菌がいるのですから! しかも宇宙船で見つかる真菌の多くは、金属や樹脂を劣化させる能力を持っているそうです。怖いですね……。もっともISSには、環境や食品由来の細菌は、ほとんどいないそうですが……。
それに、これらの生物たちは、私たちの健康に有害だというわけではないそうです。
「世界中に生息する全細菌種のうちで、決まって病気を引き起こすものは50種にも満たない。たったの50種だ。それ以外はすべて、人間にとって無害または有益な細菌であって、細菌のみならず、ほとんどすべての原生生物や、ウイルスでさえそうなのだ。」
それどころか、家の中に「多様な生態系がいる」方が、ずっと健康的な生活を送れるそうです。
「家屋内の多種多様な生物をすべて排除しようとすると、病原体が蔓延、繁殖、進化しやすくなり、危険な害虫が蔓延、繁殖しやすくなり、私たちの免疫系が正常に機能しにくくなりがちだ。」
「多種多様な在来植物に暴露することによって、皮膚のガンマプロテオバクテリア(および、肺や腸内にいる同様の効果をもたらす細菌)が増加し、それがひいては、免疫系の平和維持の経路を刺激して炎症反応を抑制するということだ。」
……汚過ぎるのはもちろん、清潔過ぎるのも良くないんですね。そうか……普通が一番か。
そもそも私たちの体内にも大量の細菌が棲みついていて、それが私たちを健康にしてくれているのです。だからむしろ発酵食品を食べるなど、「良い菌」を積極的に取り入れるほうが健康的なのだとか。
「発酵は、ただ単に有益な効果をもつ生物種を食品に植え付ける方法ではなく、病原体を撃退する手段でもあるのだ。発酵食品は、食品自体から有害物を取り除いてしまう生態系なのである。」
なるほど、生物多様性は私たちの健康生活に不可欠……でも頭ではそう分かっていても、家に20万種を超える生物(そのうち節足動物が100種以上)がいることを知ってしまうと……なんか平静でいられなくなります。
そんなときは、微生物を観察して微生物研究の端緒となったレーウェンフックさんのことを思い出すことにしました。レーウェンフックさんは、「水の中に生物を見つけても、その水を飲み、ビネガーの中に生物を見つけても、そのビネガーを使い、自分の身体に生物が棲んでいるのがわかっても、そのまま生活をつづけた。」そうです。
……うん。そうだよね。そのままでいいんだよね。昨日まで大丈夫だったんだから、今日からも、明日からも、今まで通りで大丈夫だよね!
『家は生態系』だということを大規模な調査研究を通して教えてくれる本です。興味のある方は読んでみてください。
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ダンさんの他の本『心臓の科学史』に関する記事もごらんください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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