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第1部 本
生物・進化
時間軸で探る日本の鳥(黒沢令子)
『時間軸で探る日本の鳥―復元生態学の礎』2021/3/1
黒沢 令子 (著, 編集), 江田 真毅 (著, 編集)
(感想)
日本には、どのような鳥類が暮らしてきたのか、そして人間にどう認識されてきたのか。化石や遺跡で出土した骨から土器や銅鐸、埴輪で描かれた鳥たち、江戸時代の博物図譜や現代の野外調査、人の経済活動が鳥類に及ぼす影響まで、時代と分野をつなぐ新しい切り口(復元生態学)で解説してくれる本で、内容の概要は次の通りです。
第1部:骨や遺伝子から探る日本の鳥
第2部:文化資料から探る日本の鳥
第3部:人と鳥類の共存に向けて
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鳥類の化石かあ……小さい骨がバラバラになってて見つけるのさえ大変そう……と思っていたら、やっぱり次のような記述がありました。
「地層から鳥の化石を探し出すのは実に大変なことである。なぜなら、空を飛ぶために軽量化された鳥の骨は脆く、化石として地層に保存されることは非常に稀なためだ。」
「残念ながら日本列島のほとんどの地域は動物の骨の保存に適していない。火山灰性の酸性土に覆われるため、また高温、多雨を特徴とする温帯モンスーン気候の影響のためだ。」
ところが、見つかった骨(化石)を「鳥類」と判定するのは意外に簡単なのだとか。
「鳥類の骨は哺乳類や魚類の骨と混ざって、バラバラの状態で遺跡から出土する。(中略)出土した骨を鳥類のものと同定するのは比較的容易とされる。骨表面が緻密で滑らかなことや骨そのものが軽いこと、また破損している場合には緻密質が薄いことや、骨幹では海綿質がほとんど発達しておらず中空であることなどの特徴からだ。」
……そうなんだ。
日本の鳥類のルーツ探しは、「遺伝解析(遺伝情報が伝言ゲームのように時間とともに変化していくのを利用する)」という手法でも行っているそうです。
「塩基配列における変異の生じ方には一定のパターンがある。そのため変異の生じ方を「逆算」して祖先まで遡ることができる。また変異の生じる頻度は時間に対して一定であるといわれ、ある塩基配列を持った祖先から経過した時間も推定できる。(中略)これらの遺伝情報の特性を活かして、生物の過去を遡る取り組みがなされてきた。」
そして日本産鳥類のルーツとして、次の3系統が明らかになったそうです。
1)鮮新世から更新世前期にかけて、大陸と日本列島の間の地理的な隔離によって遺伝的分化が生じ、九州から本州、北海道、そしてサハリンやカムチャツカなどユーラシア大陸の東に位置する島や半島に分布するようになった系統
2)更新世の中期以降日本列島に移住し分化した系統や、ごく最近までもしくは現在も大陸集団と遺伝的な交流を行っていた(いる)系統
3)フィリピンや台湾などの島にルーツを持つ系統
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古代の生物のルーツ探しは、古代の日本の地理的状況の推定にも(互いに)役立ちあっているようです。
また「第2部:文化資料から探る日本の鳥」もとても面白く読めました。本書の冒頭では、カラー写真で江戸時代の『観文禽譜』に掲載されている鳥の図を見ることができるのですが、写真みたいに生き生きと緻密に描かれていて、とても見事なものです。
このような資料は、鳥類の歴史を研究するのに役に立つのだとか。ただし、きちんと「読み解く」ことが必要なようです。実は、「江戸時代の鳥類名称のうち、現和名と一致したものは757件中308件であった(一致率:41%)」なのです。うーん、まったく違う鳥と勘違いしたまま読んでしまいそう……。
さらに「第3部:人と鳥類の共存に向けて」では、全国的な野外調査で日本の鳥類の今の状況を知ることもできました。
「復元生態学」などを使って、古代から現代までの日本の鳥を知ることができる本でした。生物好きの方はもちろん、歴史に興味のある方もぜひ読んでみてください。
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