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第1部 本

教育(学習)読書

教養を極める読書術(麻生川静男)

『教養を極める読書術 哲学・宗教・歴史・人物伝をこう読む』2020/11/5
麻生川 静男 (著)


(感想)
 哲学・宗教・歴史・人物伝をじっくり読むことで、社会のありとあらゆる問題にさまざまな角度から立ち向かうことができる思想軸(リベラルアーツ)を身につけられることを教えてくれる本です。
『教養を極める読書術 哲学・宗教・歴史・人物伝をこう読む』というタイトルだったので、「著名な哲学書などの概要を紹介している本」なのかと勘違いしてしまいましたが、この本は、麻生川さんの哲学・宗教・歴史・人物伝の読み方と、これら多数の本を読んで考えたことを集大成的に紹介してくれる読書感想文のような感じの本でした。
 でも……この読書感想文は、本当に今まで読んだことがないほど「物凄い読書感想文」でした!
 なししろ、まず対象の本が凄い。『荘子』『資治通鑑』『純粋理性批判』『方丈記』他、ものすごく大量の哲学・宗教・歴史・人物伝を、その原著(中国語、ドイツ語などを含めて)で読んでいるのです。
 その内容の一部紹介ももちろん参考になるのですが、なによりそれを読んで麻生川さんがどう感じたかを、ものすごく率直に語ってくれているのに驚かされました。例えば「第1章 哲学」では、『日本文化の問題』を読んで、こう語っています。
「私は、この本を読み返してみて、ようやく西田の文章を理解できないのは、私自身の知性が未熟のせいではなく、西田その人が理解できないまま難解な言辞を煙幕のごとくつらねて書いたせいだと納得するに至った。」
 プラトンなどを学んで麻生川さんは、哲学について次のように悟ったそうです。
「哲学とは難しい単語を駆使して、しち面倒なことをとうとうと述べることではなく「健全な懐疑心をもって自分で考えること」であると気付くことができた。
 この観点に到達して見えてきたことは、ざっくりといってかつての哲学者が考えたことの半分近くは妄想、仮説、想定の類であるということだ。」
 ……昔の哲学者の理論に稚拙な部分や間違った部分が多いのは、その時点での知識集積が今よりもずっと少なかったことを考慮して割引してあげるべきだとは思いますが、全体を通して、麻生川さんの読み方はとても合理的精神に溢れていて、共感できるとともに、教えられる部分がたくさんありました。
 本書の中では、心に響くたくさんの(麻生川さんの)名言を読むことが出来ました。そのうちのごく一部を以下に紹介させていただきます。
「(前略)私の知的探求の道を振り返ってみるに、能力の開花は、持って生まれた才能ではなく、どれだけ執拗に探求心を抱き続けることができるか、という点にかかっていると分かった。」
「疑問に対して、答えを教えることは学習者の精神的成長にとっては必ずしもプラスにならない。疑問を持ち続け、執拗に解決しようと取り組む、それも疑問が大きければ大きいほど、また持続が長ければ長いほど、線的ではなく面的に思考が進化し、結果的に回り道のように見えて、その人自身が大きく成長する道なのである。」
「正義や道徳は、一般的には良いものだと考えられている。その反対の不正や悪徳は悪いものだと考えられている。(中略)正義と不正とは、必ずしも絶対的価値を基準として定められているわけでなく、非常に不安定な相対的価値しかもっていないということだ。(中略)常識とは逆に、正義や不正が厳然とは存在せず、相対的なものだという発想が荘子の持ち味だ。」
「私が提案するリーダーシップの学び方とは、教条的なルールを暗記するのではなく、過去の模範となるリーダーたちの人物伝を読み、彼らの実際の行動を通して、リーダーの在り方、行動様式を知ることである。(中略)つまり、グローバルな環境において通用する行動規範を具現化している人物をロールモデルとして心の中に持っていることが重要だということだ。」
 また、「日本史の新しい読み方」として、次の二つの方法を提案しています。
1)推理小説のように、ある仮説を立てて文献をベースにしてその仮説を検証していく読み方
2)日本史のある出来事を異なった文化背景、時代背景を持つ他国の歴史と比較する読み方
 この例として、『日本書紀』から日本武尊の東征の目的を、「武力平定ではなく、応神・仁徳の大きな古墳の土木工事のための人集めリクルート隊だった」と推理しています。なるほど……と思わされました。こういう読み方をすると、面白いだけでなく、より深く考えることができますね。
 この本の最後で麻生川さんは、次のように言っています。
「古典や現代の著名人の意見に左右されず、自分で納得のいくまで読書と思考を深めて欲しい。」
 タイトルの『教養を極める読書術 哲学・宗教・歴史・人物伝をこう読む』からは想像もできないほど刺激的で面白い本でした。このような「古典」を原著で読むことはとても困難なので、その意味でも勉強になりました。哲学や歴史に興味がある方はもちろんのこと、読書が好きな方も、ぜひ読んでみてください。たくさんのヒントを見つけられると思います。

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