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第1部 本

歴史

羊の人類史(クルサード)

『羊の人類史』2020/11/24
Sally Coulthard (原著), サリー クルサード (著), & 1 その他


(感想)
 羊が人類の生活や文化を根本から変えてきたことを教えてくれる歴史ノンフィクションです。
 え? 羊が人類の生活や文化を根本から変えてきた? 麦(定住生活、文化)、鉄(武器、科学技術)、紙(情報、文化)ならば、確かに根本から変えてきたと思うけど、……羊?
 と思ってしまいましたが、この本を読んで、なるほど確かに変えてきたなあ、と納得させられました。
 羊は(布、家畜)として人間の生活を変えてきたのです。
 羊が家畜化されたのはとても古く、1万1000年くらい前には、狩猟採集民たちが羊を飼い始めていたそうです。
 また最も古い布も、おそらく羊(フェルト)だったと考えられています。暖かい季節になると地面に落とされる羊の毛は、足で踏みつけるだけでフェルト化するので、布にするのがとても容易だったからです。この本にも次のように書いてありました。
「羊毛(ウール)は繊維に鱗構造があるので、ウール繊維をぐるぐる回して叩き、かき混ぜることによって、繊維の鱗がたがいに引っ掛かり合って、引き裂きにくい高密度のマット(フェルト)になる」
 羊は性格が従順で飼いやすく、さまざまな気候や地形に順応し、肉(乳)を食べられて、その毛は布に加工しやすい……うーん、最高の家畜ですね☆
 特に、さまざまな形に加工しやすく軽くて防水・防火性もある「羊毛」が、人間の生活に大きな影響を与えなかったはずがありません。紀元前三世紀頃には、古代中国、インド、ギリシアの文明にまでフェルトが行き渡っていたそうです。
 この羊毛でつくられた帆と衣服があったからこそ、バイキングをはじめとする人間は壮大な旅をすることができた(羊毛は主要な商品でもあった)のですが、このことはペスト菌をヨーロッパ中に広げてしまうことにもつながりました。人口激減への対応として、イギリスでは少ない人手でできる羊の放牧(囲い込み)へのシフトが起こり、これが次に起こる産業革命の到来を準備したそうです。
 そしてイギリスの毛織物産業は機械化によって劇的に変化し、イギリスを豊かにすると同時に児童労働などの問題も生じさせました。さらにこの工場製品を運ぶために、運河システム、鉄道の成長も促されたそうです。
 また炭疽病も、輸入された羊毛の袋とともに持ち込まれてしまいましたが、パスツールが炭疽病の原因が微生物であることを、ワクチン接種による実験でつきとめ、その後、羊にワクチン接種することで、病気で死ぬ家畜の数が激減したそうです。羊は医学の発展にも役に立っていたんですね。
 この他にも、羊の毛を刈るためにハサミや毛刈機が発明されたとか、羊の毛に含まれているラノリンが化粧品や治療薬、潤滑剤、接着剤として使われたとか、道具や科学、化学の発展への影響も見逃せません。
 さらに移送業・銀行業も羊によって促進されているようです。
 この他にも、「羊」にまつわる様々な歴史を知ることができました。
 優しくて暖かくて静かに人間に寄り添ってきてくれた「羊」が、いかに「人類の生活や文化を根本から変えてきた」を教えてくれる本で、読み応えがありました。歴史に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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