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第1部 本
歴史
感染症はぼくらの社会をいかに変えてきたのか(小田中直樹)
『感染症はぼくらの社会をいかに変えてきたのか』2020/7/23
小田中直樹 (著)
(感想)
歴史学の視点から見たとき、感染症は世界をいかに変えてきたのか……歴史学者(社会経済史)の小田中さんが、「感染症と人間社会の相互作用(人間社会の変化が感染症に影響し、感染症の変化が人間社会に影響する)」の観点から、 ペスト、天然痘、コレラ、インフルエンザなど、過去に感染爆発を起こした代表的な感染症について概説し、新型コロナウイルスが私たちの社会にもたらす変化を予測している本です。
過去の感染症による社会変化については、「終章 COVID-19 「ポスト・コロナの時代」は来るか?」に次のように概説がありました。
「十四世紀ヨーロッパにおけるペスト感染爆発は、荘園制度を解体した。十六世紀南北アメリカで始まる天然痘感染爆発は、先住民からヨーロッパやアフリカを出自とする人々への住民の交代をもたらした。十九世紀ヨーロッパにおけるコレラ感染爆発は、スラムクリアランスをもたらした。そして二十世紀初のスペイン・インフルエンザは、めぐりめぐってナチスの台頭をもたらした。COVID-19もまた、かならずや社会にインパクトを与え、どの程度かはわからないが社会を変えるのではなかろうか……そう考えても不思議ではない。」
そして新型コロナウイルスによる社会の変化を、次のように予測しています。
「ポスト・コロナ社会のキーワードは「分散」と「バーチャル」の二つということになる、気がする。」
この予測はかなり当たりそうな気がします。小田中さんは「都市化という傾向にブレーキがかかるかも」とまで言っていますが、「都市化にブレーキをかける」のはコストがかかりすぎるので、そこまでは起きないと思いますが、少なくとも「バーチャル(IT)化」は促進されていくでしょう。なぜなら「バーチャル(IT)化」はコロナが起こる以前から始まっていたことで、それがスピードアップされるのは自然な流れだからです。本書のなかで、小田中さんは次のように言ってもいます。
「人間が日常的な行動や思考について無意識にもっている志向性を、社会学者ピエール・ブルデューは「ハビトゥス」と呼んだが、人間関係や服装はハビトゥスにおおきく規定されている。
ここで重要なのは、ハビトゥスはそんなに簡単には変わらないということだ。たしかに感染爆発など非常事態下であれば、ぼくらはハビトゥスを放棄あるいは修正し、事態に対応する。しかし、非常事態が終われば、ぼくらは、また元のハビトゥスにたちかえり、元のかたちに日常生活を過ごすようになる。そして、このプロセスは、ハビトゥスが無意識の領域に属するがゆえに、無意識のうちにおこなわれる。」
COVID-19の感染拡大が収束した後には、マスクや殺菌などの習慣はなくなり、ほぼ元の生活に戻るのかもしれませんが、「バーチャル(IT)化」は残るでしょう。コレラの感染爆発が都市改造(公衆衛生)を促進したように、COVID-19の感染拡大への対応手段の「バーチャル(IT)化」もまた人類の新しいインフラストラクチャー(社会基盤)となっていくと思います。そしていつか未来の歴史書に、「人類は感染症にいかに対処してきたか」の事例の一つとして掲載されるのかもしれません。
病原体と人類はこれまで戦いのなかで「共進化」を続けてきましたし、これからもこの戦いがなくなることはないのでしょう。ワクチンも抗菌剤もない時代ですら、私たちはペストに「隔離、閉鎖、廃棄」で対抗してきました。どんな事態が起こっても、その時に私たちが出来る最善の手を打ち続ける努力をする……それが重要なことなのだと思います。
私たち人類が、ペストなどの感染症といかに戦い、どう社会を変えてきたのかを詳しく知ることが出来る本でした(ワクチンや殺菌剤の開発や公衆衛生の発展などの良い変化だけでなく、差別社会の形成やナチスの台頭など、あまり望ましくない変化もありました)。
各章末には、それぞれの感染症についてより深く理解するうえで役立つ名著、良書を紹介するブックガイドもあり、これも参考になると思います。
感染症の歴史を知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
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なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
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