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第1部 本

描画参考資料

脳から見るミュージアム アートは人を耕す(中野信子)

『脳から見るミュージアム アートは人を耕す (講談社現代新書)』2020/10/21
中野 信子 (著), 熊澤 弘 (著)


(感想)
 ミュージアム(美術館、博物館)の歴史や役割、学芸員の仕事などについて、東京藝術大学大学美術館准教授の熊澤さんと、脳科学者の中野さんが、対談形式で語ってくれる本です。
『脳から見るミュージアム』というタイトルだったので、芸術鑑賞に関する脳科学的な実験から得られた知見などが紹介されるのかと思っていましたが、「ミュージアムを訪れて起こることは記憶の三段階(記銘・保持・想起)に似ている」とか、「休館中のミュージアムは、睡眠中の脳に似ている」とかいうような話があっただけなので、この本は脳科学の本ではなく、一般向けの「ミュージアム入門書」だと思ったほうがいいと思います。
 ということで多少期待外れな感じはありましたが(汗)、世界各地のミュージアムの歴史や学芸員の役割、アート鑑賞術などの基礎知識を得ることが出来る本だったので、読んで良かったと思います。
 例えば「第1章 ミュージアムの誕生」では、次のようなことが紹介されていました。
「(水没した川崎市市民ミュージアムの)コレクションは現在、少しでもダメージから回復させるため、外科手術のようなことをしています。絵画作品や写真、書籍など、紙を素材とした資料は、水を吸ってぱんぱんにふやけてページが開かなくなり、カビが発生・増殖してしまいます。その進行を止めるため、まず冷凍するんです。そうやってカビの進行を止めながら、修復の措置を少しずつ行います。(中略)ところが表面ではなく中身の脳――コレクション、というか、博物館のシステムそのもの――がダメージを負ってしまうと、立ち直るのはとても困難になります。」
 また「第3章 実際に鑑賞してみる」では、次の大英博物館の裏話が面白かったです。
「大英博物館の裏話もしておきましょう。実は、大英博物館の古代ギリシアの彫刻、古代ローマの彫刻はこれまでに漂白されています。(中略)もともと、古代ギリシアの彫刻群は極彩色で塗られているもので、真っ白な大理石の彫像、というわけではありませんでした。しかし、その色が取れてきたものもあることに加えて、「鑑賞するみなさんが彫刻らしいと思うのは、もっと白い彫刻ですよね。だったら表面をきれいにしておこう」と言って、漂白してしまった。」
 ……えっ、あの彫刻って漂白されていたの? それって、どうなんでしょう。うーん……文化財の修復には難しい問題がありますね……。
 この他にも、次のような興味深い話がありました。
「皇居内の三の丸尚蔵館にも皇室ゆかりの品々が展示され、一般公開されています。歴代の皇室に納入してきたのも、皇室で実際にお使いになるもの、儀式でお使いになるものなど、皇室でお持ちの「御物」および宮内庁管理文化財は、慣例により文化財保護法の対象外となっていて、重要文化財の指定を受けません。正倉院が所蔵する奈良時代の『鳥毛立女屏風』(樹下美人像)にしても現存する日本最古の戸籍にしても、間違いなく国宝級ではあるけれど、国宝とはならないんです。」
 へえ、そうだったんだ。
 そして「第4章 これからのミュージアム体験」には、子どもたちの「考える・感じる」力を向上させるために役立ちそうなプログラムの紹介もありました。
「MOMA(ニューヨーク近代美術館)がやっているVTSというプログラムがあり、教育界で大変注目されています。
 私たちは中高の美術の授業で美術の作品を見るとき、誰が描いたか、由来はどうか、何で描いたか、どういうモチベーションで描いたかということを勉強して、定期考査で吐き出すということをしてきたと思うんですが、VTSでは一切それをやりません。
 たとえば、モネの『睡蓮』を見せて、これはモネが何歳のときに油彩で描きました、パリ郊外のジヴェルニー村で描きました、モネは白内障でしたとかは、最初に教えないんです。
 そうではなく、「あなたには何が見えますか」と訊ねます。そうすると子どもが、「この池にカエルがいます」と答えた。カエルなんかどこにも描かれていないので、「どこにいるのかな」と聞く。すると子どもは、「今は水の中に潜っているの」とか言うんですよ。このようにして、子どもの発想、意見を潰さないように、決して否定せずに聞いて、考えさせていくと、なんと子どもの理科の成績が上がり、言語能力も高くなるということが明らかになったのです。」
 ……こういう教育プログラムはいいですね。
 ミュージアムについて総合的に知ることが出来る本でした。
 美術などの芸術が好きなので美術館や博物館には何度も行っているのですが、個人的には、企画展よりも常設展の方が楽しめるような気がします。というのも企画展は入場者が多くて自分のペースで眺めることが出来ないし、めったに見られない作品が多いので、とにかく全部見ようと頑張ってしまって疲れてしまうからです。
 それに対して常設展の方は、たいてい空いているので、自分が好きな絵はじっくり、興味のない絵はさらっと、自分のペースで眺められるし、地方の美術館でも意外に良い作品があって、楽しめることが多いのです。だから、どこかへ観光に行った時に、雨になってしまって予定を変更したくなった時には、ぜひミュージアム見学も考えてみてください。ミュージアム(美術館、博物館)は、意外に楽しいですよ☆
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 中野さんの他の本『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』に関する記事もごらんください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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