ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

社会

スケール(ウェスト)

『スケール 上:生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』2020/10/15
ジョフリー・ウェスト (著), 山形 浩生 (翻訳), 森本 正史 (翻訳)
『スケール 下:生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』2020/10/15
ジョフリー・ウェスト (著), 山形 浩生 (翻訳), 森本 正史 (翻訳)


(感想)
 動物、植物、生態系、都市、企業のほぼすべての測定可能な特徴は、大きさや規模と共に定量的にスケーリングすること(似たような一般化した「法則」に従っていることを強く示唆していること)を教えてくれる本です。
 上下二巻の長大な作品ですが、下巻の「訳者解説」に、この作品の概要がとてもうまくまとめてありますので、最初にそれを読んでおくと、本文がいっそう読みやすくなると思います。「訳者解説」の一部を以下に抜粋紹介します。
「だが本書はそれを統合し、まったく同じ原理が上から下まで貫いている様子を実に楽しげに描き出す。それも、いろんなものがべき乗則に従う、というだけにとどまらない。なぜそうなるのだろうか? それは生命体や都市、企業の中にある、血管や神経系などのネットワークが持つフラクタル的な分岐構造と、そこにリソースを送り出すためのエネルギー収支のせいだ。そしてそれが、人を含む多くの生命体の老化や寿命を決定づけるし、都市の発展もその物流やインフラ、さらに人的ネットワークの構造で説明がつく。企業がつぶれてばかりいるのに、都市がなかなか死に絶えないのも、同じ原理で説明される。」
「本書の醍醐味はこれまでバラバラに論じられていた各種の分野でのべき乗やネットワーク則の議論を、すべてまとめあげて、一貫した視点のなかにおさめてしまったところにある。本書の議論では、ヒトはある意味ででかいネズミであり、ゾウやクジラもでかい人間となる。都市や企業や経済システムを、生態系と呼んだりDNAを持ち出したりお金は経済の血液だと言ってみたりするのは、すべて喩え話でしかない。だが本書の議論では、まさに都市や企業は生物の拡大版だ。物流や情報やお金はまさに、都市や企業や経済の血液であり神経系だ。
 そしてそこから本書は、それが都市や企業の健康や寿命について持つ意味まできちんと描き出す。企業も生物と同じように、死は避けられないらしい。あらゆる企業は半世紀ほどで死ぬ(潰れる)。そして、その原因も本書は描き出す。生物においては内部のネットワーク構造の発達が機能不全と死の原因となるように、企業内部の細かい規定やしがらみの発達、効率性のための特化が企業の硬直性を招いて死につながるらしい。数百年も続く不死の老舗企業は、生物と同じく小さなニッチで慎ましくまわし、変化を極力さけることで長寿を達成したようだ。」
「動物、植物、生態系、都市、企業」といった、まったく違った分野のものに、同じ「スケール」が見いだせる……とても面白い視点から、世の中を総合的に見つめ直している本でした。
 ところで生命や企業、都市は、「崩壊を避けて無限成長を維持することは可能」なのでしょうか。この本の「第10章 持続可能性についての大統一理論の展望」には次の記述がありました。
「崩壊を回避するには、時計をリセットする新しいイノベーションを開始し、成長を持続させ、差し迫ったシンギュラリティを回避する必要がある」
 ……なーんだ出来るんだ、良かった、と思ったのもつかの間、「理論によれば、持続的成長を維持するには、次々に登場するイノベーションの間隔をどんどん短くしなければならない」そうで……それは不可能なような……。
 個人的に一番面白かったのは、「第3章 生命の単純性、調和、複雑性」と「第4章 生命の大四次元:成長、老化、そして死」。生命の仕組みや老化の説明に、すごく科学的説得力が感じられて興味深かったです。ここでも次のように、「同じ原理」が顔を出します。
「(哺乳類の)ネットワークは、平均的個体が生命を維持し、日常生活を送るために必要なエネルギーを最小限に抑えて、性交、生殖、子孫を育てるために利用可能なエネルギー量を最大化するように進化してきた(中略)
 ここから、都市や企業の動態と構造も同じような最適化原則による結果なのかという疑問が、当然起こってくる。」
 この最適化原則は「ニュートンの法則、マクスウェルの電磁理論、量子力学、アインシュタインの相対性理論、あるいは素粒子大統一理論などすべての基本的な自然法則の核心」でもあるので……「最適化」という面でも、生物、都市、そして物理法則が同じように扱えてしまうのです。
「生命・組織・企業・都市・経済の成長と限界はすべて同じ統一原理で説明できる」という斬新な視点を与えてくれる本でした。「訳者解説」でも指摘されているように、「多少の勇み足」も感じられましたが、参考になることをいろいろ教えてもらえた気がします。
 私たちの「世界の見方」に新しい視点をくれる本です。ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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