ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)

第1部 本

 IT

「ユーザーフレンドリー」全史(クアン)

『ユーザーフレンドリー」全史 世界と人間を変えてきた「使いやすいモノ」の法則』2020/9/29
クリフ・クアン (著), ロバート・ファブリカント (著), & 1 その他


(感想)
 人の生活と思考を一変させてきた優れた製品や仕組みに共通する概念「ユーザーフレンドリー」。その歴史と未来への展望を、豊富な事例と綿密な取材で紐解いてくれる現代デザイン文化史です。
「ユーザーフレンドリー」というデザインの考え方がまだ生まれていなかった時代、人々の生活は大変だったようです。デザインの悪さは、なんとスリーマイル島原発事故にまでつながってしまいました!
「スリーマイル島原子力発電所の事故に最も深刻な影響を与えたのは、ある極めて重要なものに問題があったことだった。その極めて重要なものとは、私たちが日常生活でしようするどんな小型電子機器にも求める「フィードバック」だ。警告ランプが事実と違うことを示し、温度のデータは「???」としか打ち出されず、一次冷却系全体の水位を示す計器が存在しなかったという状況はまさに、人間が知っておくべきだった情報を機械が伝えていなかったことを意味している。」
 ……うわー、こんな状況だったんじゃ、事故が重大化しないはずもなかったんですね……。
 また技術が急速に高度化した第二次世界大戦中の戦闘機パイロットも、大変な試練に遭遇していたようです。レーダーの信号が読み取れず、燃料切れで墜落する戦闘機が続出したのだとか。そういう「人が使いこなせないほど複雑な機械」への反省から、「人間中心デザイン」の模索が始まったそうです。計器の位置の統一、操作のためのつまみやスイッチが「自然な」方向に動くよう徹底する……そうでないんじゃ、いくら専門家(パイロット)でも混乱してしまいますよね。「機械は誰にとっても簡単に使えるものでなければならない」という「人間中心デザイン」は、とりわけ戦闘機には必要不可欠なものだと思いますが……第二次世界大戦当時は、パイロットの使いやすさより、兵器の性能や開発・製造スピードが重視されていたのでしょう。
 そして第二次世界大戦後、「人間中心デザイン」に重点を置いたモノが人気になり売れ行き好調だったことで、「美しくて使いやすい」モノがどんどん製造されるようになりました。そしてクレームによる改善、障害者でも使いやすい「ユニバーサルデザイン」……私たちは、いろんな人々の工夫の恩恵を受けて、マニュアルをあまり読まなくても、それなりに使っていけるほど洗練されたモノを買えるようになったようです。
 そんな素晴らしい「人間中心デザイン」ですが、最近は少し「行き過ぎ」を感じることもあります。例えば「第八章 「あなたへのおすすめ」」で紹介されたクルーズ船のリストバンドの事例。「ユーザーがどこで何をしているか、何を求めているかのデータを収集し、その人に最適なサービスを提供」してくれるようですが……ユーザーが何をしたいかを予測して、先回りして提案してくれるのは……ちょっと煩わしいかも。行動を逐一チェックされている感じで、なんだか気持ち悪いと思ってしまいます。
 また「第九章 便利さの落とし穴」には、さらに深刻な問題を感じました。例えば次の記述。
「航空機が自動化されればされるほど、パイロットの操縦能力が低下していくのだ。彼らは何らかの問題が起きたときや予想もしない事態に遭遇したときに、以前よりうまく対処できなくなっていた。その結果、相棒である人間の不手際の増加を埋め合わせるために、機械がさらに自動化されなければならなくなった。これが「自動化のパラドックス」と呼ばれているのは、人間ができることを最大化するために行われた自動化が、実際には人間の能力を奪っているからだ。自動化は人間にさらに多くのことができる余裕を与え、人間の脳が得意とする複雑な作業に彼らがより集中できるようにするためのものだった。「自動化のパラドックス」が示しているのは、「機械は日常生活のストレスを軽減して、私たちが楽に暮らせるようにしてくれるが、その結果私たちは以前なら当然のようにできていたことができなくなってしまう」ということだ。」
「便利なもの」は私たちを「愚か」にしているのでしょうか。
 さらに次のような指摘も。
「いわゆる「使いやすいデザイン」は、私たちに自由な選択の余地をほとんど与えてくれない。(中略)自分が最も欲しいモノしか見えない消費者になってしまったら、私たちは機械が想定している私たち以外のものになる可能性を失ってしまうかもしれない。しかも、機械は私たちをそもそも正しく理解していない場合もある。」
 これはもしかしたら「自動化のパラドックス」よりも深刻な問題を引き起こしているかもしれません。例えばネットで何かを検索すると、次からはそれに関連した情報がずらっと並び、何かを購入すると、次からはそれに関連した商品がずらっと並ぶ……便利に思うと同時に、「見たい情報」を先回りして「限定」してくる感じがして、気が付かないうちに視野が狭くなってしまいそう。機械に「そんな検索をするってことは、あなたはこんな人ですね」と決めつけられ、だんだんと「機械が思う通りの人」へと誘導されそうで、ちょっと怖くなってしまいます。巨大化しているIT企業は、機械(AI)を賢く育てようとする一方で、人間の方は「視野が狭く自ら考えようとしない」愚か者にしてしまう過保護な親のよう……うーん、なんとかしないといけませんね。
 ということで、「ユーザーフレンドリー」は、今はちょっと行き過ぎの懸念もありますが、もともとは「誰もが使いやすい機械(やシステム)」を目指していたもの……そういう意味で、やっぱり素晴らしい考え方(なくてはならない考え方)だと思います。この本には、次のような記述がありました。
「デザイナーの仕事がうまくいったかどうかは、完成したモノの美しさではなく、それがいかに人々の実際の行動に取り入れられ役に立ったかによる、ということだ。」
 まったくその通りですね。そして「役に立つ」と同時に、私たち自身の「能力を高める・拡張する」ようにも作用してくれると嬉しいと思います。
「ユーザーフレンドリー」の歴史を通して、世界と人間を変えてきた「使いやすいモノ」について考えさせてくれる本でした。「あとがき」の「「ユーザーフレンドリー」の目を通して世界を見る」には、「ユーザー中心デザインの手法」に関する解説もあります。製造業やモノづくり、システム設計に関係している方には、特に参考になると思います。ぜひ読んでみてください。
   *   *   *
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

Amazon商品リンク

興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが新しいウィンドウで開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)