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第1部 本
生物・進化
生き物が大人になるまで(稲垣栄洋)
『生き物が大人になるまで~「成長」をめぐる生物学』2020/7/22
稲垣 栄洋 (著)
(感想)
子どものほうが大人より大きなカエルやペンギン、溺愛した子を突然突き放すキツネ、遊びから狩りを学ぶライオン、大小2つの種を持つオナモミ、踏まれたら立ち上がらない雑草……自然界の動物や植物は、さまざまな個性をもって「成長」していきます。そんな驚くほど多様で面白い生き物の成長の仕方から、「人間の成長」を考える本です。生き物が大人になるまでのエピソードを通して、「成長とはなにか」「学ぶとはなにか」「大人になるとはなにか」を考えるヒントになる物語がつづられています。
考えさせられるエピソードが多いのですが、中でも驚かされたのが、「イノコヅチの恐ろしい作戦」。イモムシなどの虫に食べられないようにするための、イノコヅチという植物の作戦がもの凄いのです。
「イノコヅチは葉っぱの中に、イモムシの成長を早める成分を含んでいます。そのため、この葉っぱを食べたイモムシは、脱皮を繰り返します。その結果、葉っぱを十分に食べることなく、大人のチョウになってしまうのです。」
葉っぱの中に「毒」ではなく、むしろ一見「薬」にすら思える「成長を早める成分」を作ったことで、「イモムシが早くチョウになって飛び立っていくので、葉から早く追い払える」だけでなく、「小さいまま成虫になったチョウには卵を産む力がない」ので、結果的にイモムシを減少させることにも役立つという、徹底的に恐ろしい作戦なのでした……怖っ。
というような恐怖の物語もありますが、生物の成長にまつわるエピソードには、とてもいい話、考えさせられる話などが満載で、生物の本というよりも倫理学や自己啓発の本みたい☆ もちろん生物の知識も学べるので、若者はもちろん、大人にもぜひ読んで欲しい本でした。
例えば、「本能」と「知能」に関する物語では、次のような記述を読むことができました。
「(本能は、)決まった環境であれば、正しく行動をすることができます。ところが、プログラムの想定外の環境の変化にはまったく対応できないのです。」
「(知能は、)情報を処理して、状況を解析し、とるべき行動を導き出します。」
「長い進化の過程で見につけた「本能」は、多くの場合、正しい行動を導くマニュアルです。つまり解答が示されているのです。一方の知能は、自分で解答を導かなければなりません。自分の頭で考えた行動が正しい答えであるとは限りません。考え抜いた挙句に、行動を誤ってしまうこともあるのです。」
「「知能」はもしかすると判断を誤るかも知れなかったり、上手くいかないかも知れないというリスクを常に負っています。それでも哺乳動物は、「教え方は変化する」という戦略を選んだのです。」
「子どもたちの体験は、思い出を作るためのものではありません。体験を積み重ねて、知能は機能を高めていきます。体験のすべてが楽しいものである必要はありません。つらい記憶も、悲しい記憶も、寂しい記憶も、切ない記憶も、すべてが脳の機能を高めていくのです。」
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この他にも、心に響く文章(エピソード)をたくさん読むことができました。
「「踏まれたら立ち上がらない」というのが雑草魂なのです。(中略)踏まれても踏まれても立ち上がる生き方も悪くないかもしれませんが、花を咲かせることができなければ、何にもなりません。エネルギーは大切なことのために使うべきです。頑張るのは、大切なことのためです。「大切なことを見失わない」。これこそが、本当の雑草魂なのです。」
「根っこはどんなときに伸びるのでしょうか。調子がいいときにも植物は根っこを伸ばしますが、茎を伸ばしたり、葉を茂らせることに懸命です。しかし、茎を伸ばすことができなくなったとき、葉を茂らせることができなくなったとき、植物は、じっと根を伸ばします。そして、下へ下へと伸びていくのです。」
「植物は、つらいとき、耐えるとき、じっと根を伸ばします。その根っこが植物の力なのです。地面の下に伸びた植物の根っこは、私たちの目に見えません。私たちは植物の茎が伸びたり花が咲いたりすれば喜びますが、根っこが伸びても喜びません。根っこの成長とは、そういうものです。」
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『生き物が大人になるまで』を通して、私たちの「生き方」を深く考えさせてくれる本でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
とりわけ心に残った次の文章を、最後に紹介させていただきます。
「「頑張って芽を出そう」とか「頑張って成長しよう」と思っているわけではありません。それでも、植物は伸びていきます。
「成長」とは、そういうものです。
生物は、もともと「成長する力」をもっているのです。」
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